インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

ベトナム共産党・ラム氏が党書記長代行に、派閥争い激化の懸念も

~チョン氏の動向は党内外の関心事に、混乱対応を理由に締め付けが厳しくなるリスクにも要注意~

西濵 徹

要旨
  • ベトナム共産党内ではここ数年、チョン党書記長が旗振り役となる反腐敗・反汚職を理由に党中央政治局員が多数解任、引責辞任に追い込まれてきた。5月には党内2位の国家主席にラム氏が昇格し、事実上の世代交代を見据えたものとみられた。こうしたなか、18日に党政治局はチョン党書記長の病気療養を公表し、ラム氏が党書記長代行を務めることとなった。このタイミングでの公表は2年後の次期党大会を見据えたものと捉えられる一方、国民人気が高いチョン氏の動向は党内外の関心事となっている。不測の事態はここ数年バランスが崩れてきた派閥争いの激化を招く一方、締め付けが厳しくなることも考えられる。当面は再来年の次期党大会を見据えた党内の動きに注意を払う必要性がこれまで以上に高まっている。

ベトナム共産党を巡ってはここ数年、党最高指導部人事を巡って解任、引責辞任による事実上の更迭に追い込まれる動きが相次いでいる。この背景には、2011年に最高指導者である党中央委員会書記長(党書記長)に就任したグエン・フー・チョン氏の下で「反腐敗・反汚職」を旗印にした派閥争いが激化しており、チョン氏を中心とする保守派が党中央で台頭する一方、急進派が放逐されてきたことが影響しているとされる。2021年にチョン体制が異例の3期目入りを果たし、チョン氏を中心とする保守派が党中枢人事を占める流れが構築されたことを受けて、派閥争いの動きは一巡したかにみられた。しかし、昨年から1年半の間に中央政治局員のみならず、いわゆる「四柱(党書記長、国家主席、首相、国会議長)」も併せて計7人が解任、ないし引責辞任に追い込まれるとともに、政治局員人事に欠員が生じる異常事態が続いている(注1)。さらに、党内における反腐敗・反汚職を旗印にした活動の背後では党、および政府内における意思決定が遅れることが常態化しているほか、内政面でも経済政策を中心に党による統制の動きが広がりをみせている。結果、ここ数年の同国を巡っては、米中摩擦に加えてデリスキング(リスク低減)を目的とするサプライチェーン見直しの動きも追い風に中国に代わる投資先として注目を集めているものの、投資環境の悪化がこうした動きに冷や水を浴びせる懸念が高まっている。なお、5月に開幕した国会(第15期第7回国会)では、党内序列2位の国家主席にチョン氏の最側近のひとりで反腐敗・反汚職の実働部隊を率いてきたトー・ラム前公安相(現在67歳)が昇格しており、チョン氏は今年4月に80歳を迎えるとともに、ここ数年は体調不良が指摘されてきたなかで将来的な世代交代を見据えた人事とみられている。他方、反腐敗・反汚職の実働部隊を長らく率いてきたラム氏の昇格を受けて、党内では今後も引き続き反腐敗・反汚職を旗印にした締め付けの動きが活発化することが予想されるほか、内政を巡っても統制色が強まることにより改革・開放路線が後退することが懸念される。足下の同国景気については、生活必需品を中心とするインフレが家計消費をはじめとする内需の足かせとなる一方、欧米など主要国を中心とする世界経済の拡大による外需の堅調さに加え、対内直接投資の活発な流入も追い風に底入れが促される展開が続いている(注2)。ただし、同国が対内直接投資の受け入れを拡大させる一因となってきた政治的な安定性の高さを巡っては、足下においても表面的には保たれている一方、上述のように意思決定の遅れが散見されるなど様々なところで悪影響が露呈する動きがみられる。事実、昨年はその影響で多くの地域で電力不足が顕在化するとともに、幅広い経済活動が制限される事態に発展するといった動きもみられた。他方、先月にはロシアのプーチン大統領が同国を訪問して首脳会談を行い、戦略的関係の強化で合意するとともに、石油・ガス、原子力科学、教育などに関する計11の協定書や覚書に調印する一方、直後には米国高官が相次いで同国を訪問しており、世界的に分断の動きが広がるなかで同国は欧米と中ロの間で「いいとこどり」を目指す姿勢を隠さない。そうした『中間派』としての立ち回りをみせるなか、18日に党政治局はチョン党書記長が病気療養に専念することを公表した上で、ラム氏が事実上の代行を務めることとなった。このタイミングでの病気療養の公表を巡っては、2年後(2026年)に控える次期党大会(第14回ベトナム共産党全国大会)後の最高指導部人事を見据えたものとの見方が強まっている。現在の党政治局員人事を巡っては、ラム氏をはじめとする公安部出身者が3分の1を占めるなど権力基盤を固めつつある一方、同党内においては経歴や出身地を背景にした複数の派閥が存在し、これまではそのバランスに配慮する人事配置が行われてきたものの、チョン体制下ではそのバランスが大きく崩れてきた。チョン氏自身を巡っては、上述のように反汚職・反腐敗を旗印に党内粛清を図るなど強力なイメージを有する一方、清廉なイメージが国民からの高い人気を集める一因となってきたなか、同氏の行方は党内のみならず、多くの国民にとっての関心事となっている。こうしたなかで不測の事態に発展すれば、権力移譲をきっかけに党内の派閥争いを抑えるくびきが外れる一方、抑えつけを図るべく締め付け方向に政策の舵が切られる可能性も懸念される。足下のドン相場は最安値圏で推移する一方、米ドル高圧力の一服を受けて調整の動きが後退する兆しがみられるものの、当面は再来年の次期党大会を見据えた動きに左右される可能性に留意する必要がある。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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