「酷暑乗り切り緊急支援」とCPI

~電気・ガス代補助金の期間限定復活~

新家 義貴

要旨
  • 岸田首相は6月21日の記者会見で、「酷暑乗り切り緊急支援」として8、9、10月の3ヶ月間、電気・ガス料金の補助を行う方針を示した。また、現在実施されているガソリン・灯油補助金についても年内に限り継続するとの意向も示された。

  • 電気代・ガス代の補助の大きさは現時点で決まっていないが、報道によると24年4月使用分以前の水準(電気代で3.5円/kwh、ガス代で15円/㎥)に戻す形で調整が行われている模様。この場合、24年9~11月(あるいは8~10月)のCPIコアが▲0.5%Pt程度押し下げられる。今回の補助金復活による押し下げに加え、23年10月に実施された補助金半減の裏が出ることもあり、24年10月のCPIコアが+2%を割り込む可能性がある。

  • 電気代・ガス代補助金は3ヶ月間の期間限定復活、ガソリン・灯油補助金は年内限りとされているが、冬場の灯油需要増やエアコン需要増を考えると、すんなり終了できるかは疑問。ガソリン・灯油補助金については25年も延長される可能性が高いと思われるほか、電気代・ガス代補助金についても再々復活が議論される可能性が否定できない。

電気・ガス代補助金が復活

岸田首相は6月21日に記者会見を開き、「酷暑乗り切り緊急支援」として8、9、10月の3ヶ月間、電気・ガス料金の補助を行う方針を示した。本稿では、これによる消費者物価指数への影響を検討する。

23年1月使用分より開始された電気・ガス代の負担軽減策(電気・ガス価格激変緩和対策事業)は、当初、電気料金は家庭向けで1キロワットアワーあたり7円、ガス料金は1立方メートルあたり30円の補助が実施されていたが、23年9月使用分より電気料金で3.5円、ガス料金で15円に補助が半減されていた。これが24年5月使用分でさらに半減(電気料金で1.8円、ガス料金で7.5円)された段階で終了し、6月使用分以降は補助がなくなることが決まっていた。この補助金が、8月~10月の期間限定で復活することになる。また、現在実施されているガソリン・灯油補助金についても年内に限り継続するとの意向が示された。

具体的な内容については今後検討するとのことだが、CPIへの影響を考える上でのポイントが二つある。

① 使用分か、請求分か?

8月からの3ヶ月間補助を行うとされているが、開始のタイミングが「8月使用分」からなのか「8月請求分」からなのかは明示されていない。電気、ガス代は使用月の翌月に請求されるため、使用分か請求分かでタイミングが1ヶ月ズレる。消費者物価指数では請求分が反映されるため、8月使用分(9月請求分)からの場合は9月~11月のCPIが押し下げられ、8月請求分(7月使用分)からの場合は8月~10月のCPIが押し下げられることになる。実質賃金のプラス転化時期ともからんで微妙な違いが出る。

現時点では、党内調整や事務作業にかかる時間を考えて8月使用分(9月請求分)からの開始が念頭に置かれているように思える。もっとも、「酷暑乗り切り」というからには7月使用分(8月請求分)からが自然で、8月使用分(9月請求分)からでは世論の批判を浴びる恐れがある。仮に作業に目処がつくのであれば、7月使用分(8月請求分)からの開始に前倒しされる可能性も残る。

② 補助の大きさは?

日本経済新聞社によると、補助金の大きさについては、電気代が1キロワット時あたり3.5円で調整が行われているとのことである。これは24年4月使用分以前の水準(電気代で3.5円、ガス代で15円)まで戻すことを意味する。①24年5月使用分で半減された水準(電気代で1.8円、ガス代で7.5円)まで戻す、②24年4月使用分以前の水準(電気代で3.5円、ガス代で15円)まで戻す、③制度導入当初の水準(23年1月使用分~23年8月使用分の水準。電気代で7円、ガス代で30円)まで戻す、の3通りが考えられたが、どうやら②が選択される模様である。この場合、CPIコアへの単月の影響は▲0.5%Pt程度となる(①は▲0.25%Pt程度、③は▲1.0%Pt程度)。

一点注意したいのが、電気代の補助額については報道が出ているが、ガス代についてはまだ報道がないことだ。「酷暑乗り切り緊急支援」という名目であるだけに、(可能性は低いと思われるが)エアコン使用量が増える電気代は補助を厚めにする一方、ガス代については補助を抑制するといった形でまとまることもあるかもしれない。

消費者物価指数への影響

ここで、電気・ガス代補助金が24年8月使用分(9月請求分)から開始され、前述②の「24年4月使用分以前の水準(電気料金で3.5円、ガス料金で15円)まで戻す」と仮定した場合のCPIコアへの影響を考える。電気・ガス代補助金によるCPIコアへの水準としての下押しは、23年2月の導入当初には▲1.0%Pt程度、23年10月以降は▲0.5%Pt程度、24年6月に▲0.25%Pt程度、7月からはゼロである。これが9~11月には▲0.5%Pt程度となり、12月以降は再びゼロとなる。

なお、CPIへの影響を見る上では、前年の裏の影響を勘案することも重要だ。そこで、電気・ガス代負担軽減策のCPIコア前年比に与える影響度合いを見たものが次項の図である。

負担軽減策によるCPIへの押し下げ寄与は、23年2月に前年比で▲1.0%Pt程度だったものが23年10月に▲0.5%Ptに縮小していた。それが、24年2月には制度開始から1年が経過し、補助が半減されたものと制度開始当初のものとの比較となったため、前年比で+0.5%Pt程度の押し上げとなった。これが、24年6月にはさらに半減されて+0.75%Pt程度のプラス寄与、7月の打ち切りにより+1.0%Pt程度の押し上げとなる。これが9月は補助金復活により+0.5%Ptに縮小し、10、11月には23年10月の補助半減の裏がでることも加わって寄与はゼロとなる。また、12月以降は補助金終了で+0.5%Ptへと寄与が拡大した後、25年6、7月には24年の再縮小と打ち切りの影響が1年が経過することで一巡し、CPIへの影響はゼロとなる。一方、25年9~11月は前年の補助金期間限定復活の裏が出ることで+0.5%Ptのプラス寄与、12月以降は再びゼロとなる。

電気代・ガス代補助金のCPIコアへの影響度合い(前年比寄与度)
電気代・ガス代補助金のCPIコアへの影響度合い(前年比寄与度)

なお、元々想定されていた、24年5月使用分(6月請求分)を最後に補助が終了するケースと比較すると、24年9月~11月が▲0.5%Ptの下振れ、25年9月~11月が+0.5%Ptの上振れとなる。年度でみれば24年度が▲0.13%Ptの下振れ、25年度が+0.13%Ptの上振れだ。

このように、前年の裏も絡んで複雑な動きとなることが予想されるため、CPIの先行きを予想する上で注意が必要である。これまでCPIコアは、補助金終了により7~8月に前年比で+2%台後半まで上昇し、その後は+2%台前半へと緩やかに鈍化することが予想されていた。これが、今回の補助金復活により、そのパスが変わる。23年10月に実施された補助金半減の裏が出ることに加え、新たな補助金復活による押し下げが加わることで、24年10月のCPIコアが+2%を割り込む可能性が高まったことに注意しておきたい。また、実質賃金のプラス転化のタイミングに影響する可能性もあるだろう。

出口はあるか

今回の電気代・ガス代補助金の復活とガソリン・灯油補助金延長を巡る騒動は、一度始めた補助金を終了することがいかに難しいかを改めて示すものとなった。

ガソリン・灯油補助金については、昨年6月以降段階的に縮小され、9月末で終了する予定だったが、ガソリン価格が上昇を続け、過去最高値を更新するなかで国民の不満が著しく高まったことを受け、政府は再度の延長・拡充に追い込まれたという経緯がある。今回の電気代・ガス代補助金の復活も、それとよく似ている。補助金終了に伴う電気代・ガス代の急上昇が大きく報道されたことで国民からの批判が強まったことが、(期間限定とはいえ)一度終了した補助金の復活という異例の措置に繋がった。

そう考えると、電気代・ガス代補助金は果たして3ヶ月間の期間限定復活のみで終了できるのか、ガソリン・灯油補助金は年内いっぱいで終了できるのかという点については不透明感が大きい。特にガソリン・灯油補助金については、終了は政治的に難しいのではないだろうか。仮に年内いっぱいで終了する場合、真冬の時期に灯油補助が打ち切られることになるが、消費量急増期での終了は大きな批判に繋がるだろう。電気代・ガス代についても、今回は「酷暑乗り切り」の名目だが、冬の暖房需要増加については対処しなくてよいのかという批判が起こることは必至だ。

補助金終了をソフトランディングさせるには、補助金が無くても、ガソリン・灯油価格や電気代・ガス代が大きく上昇しない状況であることが求められる。もっとも、その実現には原油価格の大幅下落や円高の急速な進展、あるいはその組み合わせが必要となる。ただし、原油価格が大きく下落する状況という場合、世界経済が変調をきたしている可能性が高い。円高の急速な進展についても、米国経済の急減速や株式市場の混乱がきっかけとなる可能性がある。こうした状況下で果たして補助金の終了が決定できるだろうか。

ガソリン・灯油補助金については25年も延長される可能性が高いと思われるほか、電気代・ガス代補助金についても再々復活が議論される可能性は否定できないだろう。

新家 義貴


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新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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