- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- インフレ圧力に動かされる日銀
- 要旨
-
- 5月の企業物価統計では、輸入物価、国内企業物価がともに高い伸び率を示していた。いずれ消費者物価にも上昇圧力がかかっていくだろう。
- 日銀が6月の金融政策決定会合(6月15・16日)で、利上げに動くだろうという観測が強まっている。その背景には、FRBが先々利上げに動くという観測が高まり、潜在的なドル高圧力が強まっていることがあろう。実のところ、日銀はFRBに背中を押された格好である。
- しかし、日銀の利上げで円安が止まる保証はどこにもない。6月会合で日銀が先々の利上げの方向性に、何らかのアナウンスを加えるかどうかも注目される。
輸入物価の上昇
政府・日銀は、4月末・5月初にかけて大規模な為替介入を実施した。5月末の外貨準備高は、前月末に比べて▲12.3兆円も減っていた。これだけの規模の介入資金を投じたのに、ドル円レートは一時的▲5円程度の円高にはなったが、介入効果には持続性はなく、約1か月後の6月初には1ドル160円に戻ってしまっている。潜在的なドル高円安圧力は強いと認識した方がよい。
6月15・16日の金融政策決定会合では、日銀は利上げに動く公算が高い。その理由のひとつは、今、利上げをしなければ円安の加速が起こりかねないからだ。
インフレ圧力の高まりは、輸入物価の上昇から窺われる。2026年5月の企業物価統計では、各種のエネルギー価格の上昇が確認された(国内物価3月前年比2.8%→4月同5.3%→5月同6.3%、図表1)。輸入物価の方は、前年比25.5%の上昇で、不足が心配されるナフサの代替調達を急いでいるせいもあったとみられる。輸入ナフサは、前年比98.1%まで上昇している(4月同50.5%、3月同▲6.9%)。

実のところ、世界的なインフレ傾向は、原油などエネルギーに限定されない。ここ半年間でメモリーなど半導体価格は急上昇し、その派生効果もあって銅価格も上がっている。非鉄関連では、アルミ、亜鉛、鉛などが軒並み価格上昇している。その効果は、情報通信機器、家電製品、自動車などのコスト上昇にも波及していくだろう。
日本は2021年頃から、輸入価格が国内物価以上に上昇し、海外から輸入すればするほどに国内への物価上昇の波及が進むという同調作用が生じている。早々に日銀が利上げを開始していれば円高になって、輸入価格上昇の圧力も減圧したかもしれないが、2022年以降は円安局面に移行して、輸入物価からの上昇圧力には拍車がかかるかたちになっている。
FRBの動向
日銀を追加利上げに動かすのは、米国のFRBの動向である。2026年5月の雇用統計が強い雇用拡大を示したため、ウォーシュ新議長の下でいずれ年内のどこかで利上げをするという観測が台頭してきている。次回FOMCは日銀会合の直後にある。もしも、日銀が利上げを6月会合で見送って、FRBが利上げに前向きな変化をみせれば、これも円安ドル高の要因になる。つまり、日銀はFRBの利上げ観測に背中を押された格好なのだ。
市場観測は、FRBの次の一手が年内利上げになると予想するが、まだ不確実性がそこにはある。トランプ大統領は今の時点では敢えてウォーシュ議長の判断に物申すことはしない構えなのだが、ついつい口が滑って利下げを強要する発言が飛び出さないとも限らない。ウォーシュ議長の新たな船出に対して、無用の政治的圧力をかけると、米金融政策は柔軟な対応ができなくなり、かえって将来の利下げに動きにくくなる。ウォーシュ議長は、目先は利上げに動いたとしても、いずれは早期に引き締めを終えて、利下げに動きたい腹だろう。トランプ大統領は今は自制しておいた方が自分に良い結果になると思うが、果たしてそれができるだろうか。
隠れた円安問題
筆者は、日銀にとって隠れた大問題として、+0.25%の利上げをしたとしても、それで十分に円高にならない可能性が残ることがあると思う。日銀だけをみている人は、政策金利を1.00%まで上げられたことは、歴史的水準に達して凄いという話になるだろう。しかし、FRBの政策金利水準は3.50~3.75%で比較にならない位に高い。日本の長期金利も2.7~2.8%だから、+0.25%ポイントはさほど大きな幅ではない。また、インフレ予想も2.2%近くあるので、0.75%の政策金利を1.00%に引き上げたところで、大勢に影響はないかもしれない。FRBもいずれ利上げに動くとすれば、日銀よりも利上げペースは早いだろう。ドル高圧力が強まるとき、日銀の利上げは相対的に小さな効果しか及ぼせない可能性もある。
日銀はこれまで先々の利上げの到達点や中立金利水準に関して曖昧にしてきた。緩和的な環境を維持することを強調して、高市政権を刺激しないように配慮してきた。しかし、引き締めを意図しない利上げは、進みすぎた円安水準を是正するには迫力不足である。6月会合では、日銀がその先の利上げに関してどこまでコミットするのかにも注目が集まる。
熊野 英生
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。