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資産運用のキホン ~その3:経験者と未経験者とで大きく異なる資産運用のイメージ~

嶌峰 義清

要旨
  • 老後の生活について、経済面での不安を抑えるためには、資産運用は欠かせない。

  • すでに資産運用を始めている人と、始めていない人の差は年収ではなく、資産運用に対するイメージや基本的な知識だ。

  • 老後の不安は多くの人が抱えているが、若い人ほど資産運用を行って、将来の経済的なリスクに備えたいと考える人は多い。

投資に踏み切れない人も、条件さえ整えば投資に前向きに

物価上昇が定着しつつある中で、持続可能な老後の生活には、退職金や年金に頼るのではなく、資産運用が必要だ。しかし、日本の資産運用人口は欧米に比べると低く、運用に踏み切れない人も多い。そこで、資産運用を行っている人と、行っていない人の間にどのような差があるのかを確認する。

金融庁が2021年に発表した「リスク性金融商品販売に係る顧客意識調査結果」によれば、資産運用という言葉から得られるイメージ(複数回答)として、投資経験者は「価格変動にかかわらず、商品を長期間保有する」(44.69%)、「様々な商品に投資する」(42.7%)、「少額の資金でも始められる」(42.2%)の順で多かった。これに対し投資未経験者では、「専門的な知識を要する」(40.4%)、「損失を被るリスクが非常に高い」(32.0%)、「少額の資金でも始められる」(22.9%)の順で回答が多かった。

資産運用という言葉のイメージ(複数回答)
資産運用という言葉のイメージ(複数回答)

投資経験者と未経験者のそれぞれの回答割合を見ると、資産運用の期間や対象、必要資金など、投資経験者が高い回答割合を示している、いわば“資産運用の基本的なイメージ”に対して、未経験者では回答割合が低く、資産運用への理解が進んでいないことが窺われる。一方で、投資未経験者は経験者よりもネガティブな項目での回答割合が高い。このことから、投資未経験者は資産運用に対して理解が進んでおらず、リスキーな印象を持っていることが更に資産運用に対する壁を作ってしまっていると考えられる。

同調査では、投資未経験者がこれまで金融商品を購入しなかった理由について、「余裕資金がないから」(56.7%)、「資産運用に関する知識が無いから」(40.4%)、「購入・保有することに不安を感じるから」(26.3%)、「預金など元本保証がある方が安心だから」(23.7%)となっており、資産を増やすことではなく、減ってしまうリスクを重視している傾向も確認された。

これまでリスク性金融商品を購入しなかった理由(複数回答)
これまでリスク性金融商品を購入しなかった理由(複数回答)

ただし、将来的にはリスク性金融商品を購入したいと思うかとの問いについて、「思う」との回答は全体では10.7%にとどまったものの、20歳代では26.3%、30歳代では23.2%と、比較的若い層では4分の1程度が将来的な資産運用の可能性は否定していない。

将来的にはリスク性金融商品を購入したいか(投資未経験者向け)
将来的にはリスク性金融商品を購入したいか(投資未経験者向け)

その理由について、「老後の生活資金を確保するため」との回答が73.3%と他を圧倒して高く、次いで「目的はないが、長期的に資産を増やすため」(30.8%)となっている。

このように、老後の生活に多逸する不安から、比較的若い世代を中心に機会さえあれば資産運用にも前向きな姿勢が窺われる。

運用に対する正しい理解と老後に対する正しい不安が投資への第一歩

ではどのようなきっかけがあれば資産運用に踏み切るのか。

「リスク性金融商品販売に係る顧客意識調査結果」(金融庁・2021年)によれば、投資経験者に対して資産運用を始めたきっかけは何か尋ねたところ(複数回答)、「余裕資金が生まれたこと」(34.9%)と、「老後の生活資金に関して不安を持ったこと」(33.8%)が概ね同程度で高かった。

そこで、まずは投資資金について考える。先にも紹介した日本証券業協会による「個人投資家の証券投資に関する意識調査【インターネット調査】(23/10/18)」によれば、有価証券を保有している同調査への回答者の年収は、300万円未満が42.8%、300~500万円未満が24.9%などとなっており、調査対象の平均年収は439万円となった。これは国税庁が発表した2022年の日本人の平均年収(458万円)とほぼ変わらない。

回答者(優香証券保有者)の年齢階層別年収
回答者(優香証券保有者)の年齢階層別年収

したがって、投資に踏み切れない理由として、資金面での余裕がないと考えている人の中には、生活スタイルの見直しによって投資資金の捻出をすることは可能な人も多く存在する可能性がある。

「投資信託に関するアンケート調査(NISA、iDeCo等制度に関する調査)」(一般社団法人投資信託協会、24/3)によれば、新NISA制度でのつみたて投資枠での月次積立投資希望額は「2万円未満」(25.6%)との回答が最も多く、次いで「1万円未満」(23.0%)、「4万円未満」(22.4%)と、毎月4万円未満とする回答が全体の70%以上を占めた。新NISAのつみたて投資枠が、若者の関心が高く資産運用の最初の投資先としても人気が高いつみたてNISAの後継とも言える点を勘案すれば、つみたて投資枠も“初めての投資先”となる人が増えてくるだろう。そこで、つみたて投資枠での月次積立希望額を年齢別に見ると、20代では「2万円未満」の回答割合(30.7%)が全世代(20代~70代)で最も高い割合となった。次いで、「4万円未満」(26.0%)、「1万円未満」(24.0%)となり、毎月の積立額が4万円未満とする回答割合は合計で80.7%と、こちらも全世代で最も高い割合となった。

新NISA(つみたて投資枠)での月次積立投資希望額
新NISA(つみたて投資枠)での月次積立投資希望額

「令和4年賃金構造基本統計調査」(厚生労働省、2022年)によれば、一般労働者の平均賃金(月額)は20~24歳で21.9万円、25~29歳で25.1万円となっている。大卒に限れば、20~24歳では23.4万円、25~29歳で26.5万円となる。20代ということで上記データを単純平均すれば、20代の平均賃金は23.5万円、大卒に限れば25.5万円となる。このうち約8割の人が毎月4万円未満の積み立てをNISAで行いたいと考えていることになる。賃金からNISAへの積立額を除くと約20万円となる。この全てを消費に回すわけではないと考えられるが、毎月の生活費を20万円程度に抑えて、老後の生活に備え始めようと考えている人が相当数存在していると言えよう。

そこで必要になるのが、家計面での自身の将来設計を把握し、ある程度の金融知識を身につけることと考えられる。先にも挙げた金融庁の「リスク性金融商品販売に係る顧客意識調査結果」によれば、「もし、あなたの立場に立ってアドバイスしてくれたり、手続きをサポートしてくれる人がいたら、リスク性金融商品を購入したいと思いますか」という投資未経験者への問いに対し、「購入したいと思う」と回答したのは20歳代で49.1%と最も多く、次いで30歳代(38.5%)、40歳代(31.3%)となった。逆に60歳代では12.3%にとどまり、「購入したいと思わない」との回答が54.2%を占めた。こうしたことから、若い世代ほど資金面の余裕やサポートする知識などの環境さえ整えば、投資には前向きなことが分かる。

金融商品についてアドバイスやサポートがあれば購入したいと思うか
金融商品についてアドバイスやサポートがあれば購入したいと思うか

そこで、本稿「Investment Navigator 資産運用のキホン」その4以降では、資産を増やしていくための必要な主要な金融商品について解説する。

嶌峰 義清


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

嶌峰 義清

しまみね よしきよ

経済調査部 シニア・フェロー
担当: 経済・金融市場全般、地政学

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