骨太方針2024のポイント(財政計画編)

~物価上昇下で「既存歳出をどう増やすか」の議論も必要に~

星野 卓也

要旨
  • 骨太原案では2030年度までの新しい財政再建計画を含む「経済財政新生計画」が示された。基本的には従来計画の踏襲の色彩が強く、25年度PB黒字化目標や歳出抑制(歳出の目安)の枠組みを維持。26年以降の数値目標は設けられなかったが、歳出抑制は25~27年度にかけて継続する。

  • 近年は当初予算を絞って補正予算を緩める財政運営が続いている。財政運営の枠組みが維持されたことから、このスタイルは今後も続く可能性が高い。政策の予見可能性を高めて民間投資を促す観点では、中長期投資などの施策は当初予算への計上が望ましいと考える。

  • 政府は25年度のPB黒字化が視野に入ったとしている。しかし、その根拠となっているのは補正や基金からの歳出を含んでいない試算。24年度補正予算の繰越の影響が試算に顕れる25年1月の中長期試算で、政府の「25年度PB黒字化達成見込み」の認識は修正を迫られると予想。

  • ただし、20年代後半のPB黒字化は十分にあり得る。インフレ定着のもとでの税収増の下、当初予算の歳出抑制が継続する。これまでの補正予算による基金造成によって既に将来の支出枠は先取りで確保していることから、補正予算の規模は縮小していくことになる可能性が高い。

  • むしろ課題として顕在化しつつあるのが既存予算の「増やさなさすぎ」。「歳出の目安」は既存予算の名目横ばいに近い歳出水準を求めるものになっており、インフレ下では必要な既存予算も含めて一律で実質削減が進んでしまう。物価上昇の中でどの程度既存予算の歳出増を認めていくのか、という議論が「規模ありきの財政健全化」に陥らないために必要ではないか。

目次

「経済・財政新生計画」の5つのポイント

政府は骨太方針原案の中で、2030年度までの経済財政運営方針である「経済・財政新生計画」を示した。政府は2021年の骨太方針において、財政再建目標とそれにあたっての2022~24年度の予算編成方針を示しており、今回骨太方針はその最終年度、財政再建計画の改定タイミングに当たる。大枠を資料1でまとめた。ポイントは大きく5つである。

第一に、2025年度の国・地方の基礎的財政収支黒字化目標が維持された点。政府はかねてから2025年度の国・地方の基礎的財政収支の黒字化が視野に入った、というスタンスだ。直近の政府中長期財政試算に基づけば、成長実現ケース(高成長ケース)の基礎的財政収支はGDP比▲0.2%の赤字となっている。この試算は歳出を物価並みで増加する想定を置いており、従来通りの歳出改革を継続すれば収支がプラスに転じる、とはじいている(資料1)。“目標達成が視野”にあるにもかかわらず目標を変えるというのもおかしな話になる。2025年度のPB黒字化目標はそのまま継続する形になっている。

資料1.直近の政府財政試算(2024年1月公表)
資料1.直近の政府財政試算(2024年1月公表)

第二に、2026年度以降の数値目標が設けられなかった点だ。骨太原案では“(これまでの財政再建の取り組みを指して)計画期間を通じ、その取り組みの進捗・成果を後戻りさせることなく・・・”との記載はあるほか、第1章で「一定幅でのPBの黒字基調を維持していくことができれば、長期的な経済・財政・社会保障の持続可能性が確保される。」と記載されており、“均せば黒字”の状態がイメージされてはいるのだと考えられるが、それが具体的な数値目標になっているわけではない。ドーマー条件1の文脈でPBの「黒字化」までは説明を付けやすいが、債務残高比率低下の条件は成長率と金利の関係によって変わる。具体的な黒字幅の数値目標への落とし込みはこの点で難しいという側面もあるのかもしれない。

第三に、純利払い(金利受取-金利支払)を含む財政収支の目標は設けられなかった点。2018年の骨太方針の際には、財政収支の赤字をGDP比3%以内に抑える中間目標を設けていた。金利が上昇傾向にある中で、利払い費含む財政収支を財政の数値目標に組み入れる、といった可能性も考えられたが、今回はそうした記載はない。

第四に、当初予算抑制のための「歳出の目安」がほぼそのまま生きる形になった点。政府は、当初予算の歳出の伸びを一定以内に抑える「歳出の目安」を敷き、毎年度の予算編成で歳出削減のメルクマールとしている。今回骨太では計画当初の3年間(2025~27年度)について、これまでの歳出改革努力を継続する、とされた。黒字化達成後も同様の歳出削減を継続する形が想定されている。一方で、その注釈として、“その具体的な内容については、日本経済が新しいステージに入りつつある中で、経済・物価動向等に配慮しながら、各年度の予算編成過程において検討する”との記載も設けられた。目下の物価上昇を踏まえた記載であり、実際の予算編成時点における解釈の余地を残している。

第五に、「財政目標によって状況に応じたマクロ経済政策の選択肢が歪められてはならない」「(歳出抑制が)重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない」として、財政目標ありきの財政運営にくさびを打ったこと。以前の骨太方針でも記載された内容だが、財政黒字化のために必要な歳出を絞ることを諫めており、「経済あっての財政」のスタンスを明確にしている。

資料2.財政再建計画の内容・新旧比較
資料2.財政再建計画の内容・新旧比較

基本的には前例踏襲:「当初を絞って補正を緩める」も継続へ

今回の「経済・財政新生計画」の内容をみていくと、基本的には従来の予算編成方針を踏襲するものである。①歳出目安を通じた当初予算を抑制する一方で、②補正予算には制約を課さずに柔軟な運用を認めている。「重要政策の選択肢をせばめることがあってはならない」の一文も岸田政権の掲げる官民一体投資を優先する姿勢を強調している。「歳出の目安」を通じて当初予算を絞る一方で、補正予算を緩めて基金などを通じた中長期事業や短期的な景気浮揚策に充てる予算編成が近年の特徴であるが、この形は今後も続くということであろう。経済対策としての扱いになるかは不透明だが、今年も例年と同様に24年度補正予算の策定に向かう可能性が高い。

筆者は、かねてから中長期的に政策の予見性を高め、民間投資を促す観点でも、中長期事業は当初予算に計上するのが正攻法だと考えている。当初予算の規模を抑えることにのみ焦点を当てた現状の財政運営は、新規施策に必要な財政需要を補正予算に回す構図を生んでいる。そして、これは財政指標の予見可能性の低下にもつながっている。毎年編成される補正予算の規模は不透明であり、基金からどれほどの資金が支出されるかは不透明だ。そうした状況の中で、政府の中長期試算は歳出が「当初予算のみ」にとどまることを前提にシミュレーションがなされている。近年の予算編成の形をみると、その前提は現状から乖離していると言わざるを得ない。

PB目標はもはや予算編成の上で重要ではない

一部の報道では、今回の骨太方針において25年度PB黒字化目標が明記されたことが強調され、それが財政健全化姿勢の強まりであるように報じられている。しかし、PB目標が記載されたことそのものに大きな意味合いはないと思われる。過去2回、明記が見送られた骨太方針2022、2023でもPB黒字化を定めた「骨太方針2021に則った予算編成を行う」旨は示されていたので、PB黒字化目標そのものは継続している。骨太方針2021では、2022年度~2024年度の予算編成にかかる歳出抑制方針を定めていた。今回の骨太方針は2025年度の予算編成方針を新たに策定するものだ。骨太2021・2022は2025年度の予算編成については定めていないので、改めて財政目標が記載されたというだけである。実態は変わっていない。

そして、25年度PB目標は予算編成における重要性はほぼなくなっている。25年度PB黒字化を視野に入れた、としつつも25~27年度の3年間に全く同じような歳出抑制を行う、ということは、PB黒字化の達成可否に予算編成方針が左右されないことを意味している。そもそも「財政目標達成のために重要政策の選択が狭められてはならない」ため、25年度PB黒字化の目標自体に予算編成上の強制力はない。それゆえに重要なのは表面の財政目標ではなく、実際の歳出抑制方針を定めた「歳出の目安」なのである。

2025年1月中長期試算で黒字化達成見込みは修正を迫られるか

実際に25年度のPB黒字化は達成されるかというと恐らく難しい。先に述べたように補正予算や基金からの歳出増を想定していないため、決算時点でのPB(2025年度の決算PB(国民経済計算)は2026年末に公表される)は赤字になっている可能性が高いだろう。

政府が「PB黒字化が難しい」と認識を改めるのは来年1月になると考えている。このタイミングで、24年度補正予算と25年度当初予算の閣議決定を経て、中長期試算の見直しが行われる。過去の試算では、秋~年末に編成された補正予算については、その一部について翌年度への繰越・支出を想定して試算される。政府が目標としているPBはSNAベース、つまり決算ベースなので、24年度補正予算の翌年度繰越を想定することで25年度のPB指標は悪化する。中長期試算でこの点が示されることで、政府の25年度PB黒字達成見込みは修正を迫られるとみている。

20年代後半の黒字化は十分達成しうる

もっとも、財政収支自体は税収増や補正予算の縮減によって赤字を縮小させる傾向にある(資料3)。23年度はテクニカルな要因を背景とした年度前半の税収伸び悩み2などによって改善ペースは鈍っているが、赤字の縮減は続くとみられる。物価上昇の定着によって名目税収は増勢を取り戻す可能性が高い中、当初予算の歳出は「歳出の目安」による歳出抑制が続く。これまでの補正予算による基金造成によって既に将来の支出枠は先取りで確保していることから、今年も含めて補正予算の規模自体は年を経るごとに縮小していくことになる可能性が高いだろう。25年度の黒字化は難しいとみているが、経済の安定推移を前提とすれば20年代後半のPB黒字化は十分に達成しうる数字である。

資料3.資金循環統計でみた政府部門の資金過不足(GDP比)
資料3.資金循環統計でみた政府部門の資金過不足(GDP比)

物価上昇下で既存歳出を「どう増やすか」の議論がもっと必要である

むしろ、表面化していきそうなのが既存の当初予算の「増やさなさすぎ」の問題だ。「歳出の目安」は物価上昇にいくらか配慮されてはいるものの、高齢化要因などを除くと名目額で横ばいに近い予算編成を求めるものとなっている。このため、当初予算における物価上昇を加味した実質的な歳出規模は減少傾向にある(資料4)。

資料4.当初予算の一般歳出:名目/実質の伸び率(前年度比・当初予算対比)
資料4.当初予算の一般歳出:名目/実質の伸び率(前年度比・当初予算対比)

物価上昇に沿った予算増額を求める声は徐々に顕在化している。今回の骨太原案を受けて、自民党の厚労部会では歳出目安の注釈にある“その具体的な内容については、日本経済が新しいステージに入りつつある中で、経済・物価動向等に配慮しながら、各年度の予算編成過程において検討する”の文言を本文に格上げするよう求める声があるようだ。当初予算の歳出はほぼ名目横ばいの予算編成を求められることで、インフレが進むほど実質目減りが進む構造になっている。特に、公定価格によって報酬が決まる医療・介護などの産業にとっては、この「経済・物価動向等に対する配慮」が実際の予算編成でどうなるのかが重要な問題になる。また最近、国立大学協会が財務状況を「もう限界」だとする声明を発表し、授業料の値上げや交付金の増額を求めていることが話題になった。声明には近年の物価高騰も要因に挙げられているが、これもインフレ下での「歳出の目安」を通じて、財政支援の実質目減りが進んだことと無縁ではないだろう。

歳出の目安に限らず財源確保の議論などの際にも、施策の必要額などが「名目値」で議論されることが多い。長年物価が上がらなかった経済のもとではその点はさして問題にならなかったが、予算編成も名目で考える慣習から抜け出る必要がある。歳出内容の取捨選択、効率化の議論は必要であり、一律で物価に合わせて増やせばいいというものではないだろう。しかし、インフレ下で名目横ばい・前年同様の予算編成を続ければ、本来必要な予算も含めて一律で実質目減りが進んでいくことになる。それで財政均衡は実現するかもしれないが、それは歳出の中身を考慮しない「規模ありきの財政健全化」になりかねないのではないか。物価上昇にどう既存予算を対応させていくのかという議論が、物価上昇定着が見えてきた日本においてあまりに足りていないように思われる。


1 名目利子率と名目経済成長率が同水準との仮定の下で、基礎的財政収支が均衡していれば債務残高(対GDP比)が一定となり発散しないというもの。財政の持続可能性を議論する際にしばしば用いられる理論。

2 Economic Trends「2023 年度税収は減少か~年度前半を中心にテクニカル要因が下押し~」(2024年5月8日)を参照。

星野 卓也


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ