ロシア中銀、戦争中も次回の大幅利上げ示唆で「タカ派」姿勢崩せず

~労働力不足や霜害による食料インフレ懸念、プーチン政権の「尻拭い」を迫られる展開が続くか~

西濵 徹

要旨
  • ロシアでは今年3月の大統領選でプーチン氏が圧勝し、先月に通算5期目の政権がスタートした。ウクライナ戦争による戦時経済が長期化しているが、足下の景気は底入れするなど欧米などの経済制裁の影響を克服している。他方、足下のインフレは戦争長期化による労働力不足も影響して加速しており、先行きは霜害による食料インフレの懸念も高まっている。こうしたなか、中銀は7日の定例会合で政策金利を4会合連続で16%に据え置く一方、次回会合での大幅利上げに言及する「タカ派」姿勢をみせた上で、政府の財政運営に注文を付ける動きをみせる。プーチン氏は大統領選での圧勝を追い風に強気の外交姿勢をみせる一方、国内ではテクノクラートがその「尻拭い」をさせられている様子がうかがえる。足下ではインフレを受けてサービス業の企業マインドが悪化するなど景気減速に繋がる動きがみられる。ただし、プーチン政権は「我関せず」の姿勢を維持すると見込まれ、今後はプーチン政権の弊害が様々な面で現れると予想される。

ロシアでは今年3月に実施された大統領選においてプーチン氏が圧勝するとともに(注1)、先月に通算で5期目となる政権がスタートしている(注2)。大統領選を巡っては、プーチン氏以外に有力な候補者が立たなかったことに加え、選挙直前に反体制派を標的にした政府の締め付けの動きが活発化するなど『無風選挙』状態にあったと捉えられる。プーチン氏が主導するウクライナ戦争の正当性を示す観点からプーチン氏の『圧勝』が必要となるなか、選挙管理委員会の発表によれば投票率は77.49%と2018年の前回大統領選(67.50%)から+9.99pt上昇して過去最高となるとともに、プーチン氏の得票率も88.48%と前回(77.53%)から大幅に上昇するなど文字通りの圧勝を実現した。同国経済を巡っては、ウクライナ戦争を理由とする欧米などの経済制裁強化により大幅な下振れを余儀なくされたものの、世界的に分断の動きが広がるなかで中国やインドなど新興国との貿易拡大が経済制裁の『抜け穴』になるとともに、その後も軍事産業の拡大の動きが景気を押し上げている。さらに、ロシアも加わる主要産油国の枠組であるOPECプラスも価格維持を主眼に置いた動きをみせており、欧米などがロシア産原油に設定した価格を上回る推移が続くなど、ウクライナ戦争の継戦能力が維持される状況が続いている。結果、足下の実質GDPの水準はウクライナ侵攻直前の水準を上回るなど欧米などの経済制裁の影響を克服していると捉えられる。ただし、ウクライナ戦争は3年を経過するなど戦時経済が長期化している上、動員に伴う労働者不足が幅広く経済活動の足かせとなるとともに、インフレ圧力が強まっている。他方、ウクライナ戦争を機に同国経済は中国経済との関係を深化させており、国際金融市場ではこうした動きを反映して通貨ルーブルは人民元との連動性を強めてきたものの、足下では米ドル高の動きに一服感が出るなかでルーブル安の動きに歯止めが掛かるなど輸入インフレの懸念は後退している。ただし、足下のインフレは前年に頭打ちの動きを強めた反動で加速して中銀目標(4%)を大きく上回る推移が続いている。先行きについては前年から加速の動きを強めてきた反動で頭打ちに転じる可能性があるものの、足下の労働市場では労働力不足を理由に失業率は3%を下回る水準となるなど労働需給のひっ迫が賃金上昇圧力を招くなどインフレが粘着度を高める動きが顕在化している。さらに、足下では小麦の生産が盛んな同国南部で霜害が頻発し、乾燥も重なり小麦生産が大幅に下振れする可能性が高まっており、穀物をはじめとする食料インフレ圧力が強まる懸念も高まっている。こうしたなか、中銀は7日に開催した定例会合で政策金利を4会合連続で16.00%に据え置く一方、会合後に公表した声明文では先行きの政策運営について「次回会合での利上げの可能性を否定しない」、「インフレを目標域に回帰させるには4月時点の想定から長期間に亘って引き締め状態を維持する必要がある」との考えを示すなど、一段の金融引き締めの可能性に含みを持たせる考えを示している。その上で、その理由に「交易条件の悪化、インフレ期待の高止まり、足下の同国経済がバランスを欠く成長を続けるなかでインフレリスクが高まっていること」を挙げるとともに、「政府による大規模融資計画の維持が悪影響を与える」と政府の政策に注文を付ける姿勢をみせる。また、同行のナビウリナ総裁も今回の決定について「利上げも検討された」としつつ、「追加利上げが必要になる可能性が高まっており、インフレ圧力が緩和せず、インフレリスクが具現化すれば7月に大幅利上げが行われる可能性がある」とした上で、利上げ幅も100bpを上回ると言及するなど『タカ派』姿勢を強調している。プーチン氏は大統領選での圧勝を追い風にウクライナ戦争を継続するとともに、中国をはじめとする『友好国』との関係深化を強めることで世界の分断の動きを一段と加速させるなど強気の外交姿勢を維持しているほか、経済運営を巡っても自信を覗かせる動きをみせているが、その足下ではテクノクラートが『尻拭い』をさせられているのが実態であろう。足下ではインフレ加速により実質購買力に下押し圧力が掛かる動きがみられるなか、比較的堅調な推移をみせてきたサービス業の企業マインドが下振れするなど景気の足かせとなり得る動きが顕在化しており、政権に対する不満のマグマが溜まる兆候がうかがえる。こうした状況ではあるものの、プーチン政権は今後も『我関せず』の政権運営を続けると見込まれるほか、そうしたことの弊害が色々なところに現れる可能性に必要になっていることは間違いない。

図 1 インフレ率の推移
図 1 インフレ率の推移

図 2 ルーブル相場(対ドル、人民元)の推移
図 2 ルーブル相場(対ドル、人民元)の推移

図 3 雇用環境の推移
図 3 雇用環境の推移

図 4 製造業・サービス業 PMI の推移
図 4 製造業・サービス業 PMI の推移

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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