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エンゲル係数は最高更新

~圧迫される品目は何か?~

熊野 英生

要旨

エンゲル係数の低下は、豊かさを示す指標とされるが、今、その数字が2000年以降で最高になっている。異常気象等で数年来、生鮮食品や穀物などの品目が上がっているためだ。家計は、不要不急の消費を節約し、さらに定例的に支払っている費用にもメスを入れて支出削減対象にしている。

目次

2000年以降で最高

家計支出に占める食料品の割合は、エンゲル係数と言われる。学校の教科書では、エンゲル係数が低くなるほど豊かだと教えられた。最近は、その豊かさ指標が逆に上昇している。日本人の生活が貧しくなっていることを象徴しているようでもある。

データは、総務省「家計調査」(2人以上世帯)から計算したエンゲル係数の12か月移動平均値である。その移動平均値が、月次で遡及できる2000年12月以降のデータでは、2023年9月に過去最高を記録して、その後数ヶ月に亘って最高を更新し続けている。そして、2023年4月~2024年3月(2023年度)にかけて29.8%となり、あと僅かで30%の大台に乗る(図表1)。

(図表1)エンゲル係数の推移
(図表1)エンゲル係数の推移

少しベースは異なるが、暦年データでもっと昔まで遡ると、1978年(30.2%)以来の高さになる。実に45年ぶりの高水準という図式だ。過去を振り返ると、1970年代初頭と1980年前後は2度の石油危機があった。当時は賃上げの勢いも強かったので、エンゲル係数はおおむね低下傾向を継続していた。ところが、近年は家計の高齢化もあって、世帯収入が増えにくくなっている。外生的な価格高騰に対して、家計の収入が増えにくく、消費支出全体に比べて食料品の負担感が高まることになる。マクロでは賃上げがいくらか進んでいるが、年金生活世帯が増えて世帯の高齢化が進んでいることは、家計が外的ショックに脆弱になる構造を作っている。

異常気象の悪影響

これまでのエンゲル係数の上昇は、食料品の値上がりなのだが、特徴としては生鮮食品の上昇が先導していることもある(図表2)。通例エコノミストが物価を見る際、価格の季節変動が大きい生鮮食品を除くことを習慣的に行っている。しかし、近年の異常気象は、地球温暖化が表面化していることで起こっている。ここ数年間の生鮮食品を異様なほどに上昇させているのは、趨勢的な高騰とみた方がよい。これは、単なる季節変動ではない。生鮮食品以外にも、オレンジ果汁、コーヒー、カカオなどが上がっている。穀物ではコメの国際市況が上がっている。穀物市況は、2022年に大きく上がって、最近になって再びいくつかの品目がさらに高騰している様相である。これらの市況高騰は、これまでの海外の干ばつ、水害などが時間差を置いて、収穫などに悪影響を与えていることが原因だ。

今夏も猛暑が予想される。そうなると、海外では異常気象が昨年同様に穀物などの収穫に悪影響を与えるに違いない。すると、今年から来年にかけて食料品の高騰が継続する可能性がある。生鮮食品や原材料になる穀物などの価格高騰が一過性のものだと考えてはいけないだろう。

(図表2)食料品の価格指数の推移
(図表2)食料品の価格指数の推移

実質消費の減少

食料品は、値上がりしても消費数量を減らしにくい必需品と言われる。実際のデータを調べると、必需品であっても、やはり値上がりすれば消費数量は減っている。実際に、食料品の品目の中で、食品価格全体が値上がりする中、より数量が削減されやすいものもいくつかあった。実質消費=消費数量が、食料品価格の上昇に伴って減少しやすかったのは、①主食用調理品(お弁当類)、②魚介類、③飲料である。食料品の価格上昇に対して、実質消費が下落しやすい品目である。これらは、食料品の中で、需要に対する価格感応度が高い品目とも言えるだろう。

お弁当は、なるべく割安なものを選ぶ傾向が強く、値段が高ければ買い控えられやすい。魚介類は、ここ数年で値上がりが目立ったので、高齢者などの買い控えが起こりやすかったとみられる。飲料も、砂糖や容器の値上がりで随時値上がりしている。その影響で、不要不急の消費対象として節約されやすかったのだろう。

次に、食料品以外で節約されやすい品目は何だろうか。これは、食料品価格の上昇に対して、実質消費が減りやすい品目は何かという視点である。家計支出のリストラ対象になりやすいのは、①通信費、②仕送り・交際費、③教育費(塾費用など)、④家事雑貨、⑤月謝、などである。通信費は、しばしば家計を圧迫するほどに増えていると言われる。生活に余裕がなくなると、節約の対象になって料金プランの変更などが行われるのだろう。不要不急という意味では、仕送りや交際費に節約の矛先が向かうことはイメージしやすい。意外なのは、通信費もそうだが、塾費用や月謝のように定例的に支払っているものにも節約圧力が働いていることだ。これは、家計が食料品の値上がりがごく一時的なものではないとみて、少し長いスパンで節約をせざるを得ないと考えることの反映なのだろう。

熊野 英生


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