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内外経済ウォッチ『欧州~ブレグジット投票から10年、英国の現在地~』(2026年6月号)

田中 理

目次

離脱後の英国の経済パフォーマンスは悪化

世界を震撼させた英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)の是非を問う国民投票から10年が経つ。EUの厳しすぎる規制から解放され、国家主権を取り戻せば、英国はかつての誇りと栄光を取り戻し、より豊かで、より安全で、より開かれた国になると訴えた離脱派の主張は、必ずしも実現していない。英国民の間には離脱への後悔も広がっており、各種の世論調査では半数以上が「離脱が間違いだった」と回答している。

離脱後の英国は、新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大、資源価格の高騰に端を発した歴史的なインフレと生活困窮、財源の裏付けがない大型減税策の発表で金融市場の激しい動揺を招いたトラスショックなど、様々な危機に見舞われてきた。政治の混乱も続き、この10年で5回首相が交代した。離脱後の英国の経済成長率は下方屈折し、インフレ率が高止まりするなど、経済パフォーマンスの悪化が続いている。金融業、専門サービス業、人工知能、バイオなどの分野では引き続き高い競争力を保っているが、通関手続きや原産地証明などの事務負担が増したことで、最大市場であるEU向けの輸出が伸び悩んでいる。EU向けの製造・販売・輸出拠点として英国に進出していた多国籍企業の一部は国外に流出し、産業の屋台骨を支えてきたEUからの移民労働者が国外に流出し、深刻な労働力不足に陥っている。

図表
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関係改善に動くが、EUへの再加盟は難しい

英国は自由貿易に背を向けるためにEUを離脱した訳ではない。保護主義的なEUを離脱し、独自に貿易交渉をすれば、より多くの国や地域と貿易協定を締結できると考えた。実際、離脱を決めた後の英国は、移行期間終了までに70近くの国や地域と貿易協定を締結した。これらの多くは離脱前の英国がEUの一員として交わした貿易協定の焼き直しに過ぎなかったが、英国はその後、オーストラリア、ニュージーランド、インド、シンガポールなど、離脱前に協定を結んでいなかった国とも貿易協定を締結した。日本も加わる環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)にも正式加盟を果たした。だが、EUもその後、これらの国の多くと貿易協定を締結し、英国がEUよりも有利な条件で貿易活動を行う余地は限られる。

離脱後に冷え込んだ英国とEUの関係は改善に向かっている。北アイルランドの国境検査の軽減、EUの研究助成プログラムへの再参加、英国水域でのEUの漁業アクセス継続、英国製品輸出時の食品安全基準や検疫検査の軽減などで合意した。では、英国が近い将来にEUに再加盟する可能性はあるのだろうか。残念ながら、近い将来にその可能性は低そうだ。EUの共通通貨の採用見送り、EU予算への拠出減免など、離脱前の英国に認められていた特権をEU側が認める可能性は低く、英国民の多くはそれを受け入れられないからだ。

図表
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田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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