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2026.03.27
欧州経済
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イラン情勢
欧州のガス供給の不安材料
~脱ロシアとイラン情勢悪化で更なる価格上昇も~
田中 理
- 要旨
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- イラン情勢の悪化を受け、EUは4月15日に控えるロシア産原油の禁輸期限を延期した。今後は4月25日に控えるLNGの既存短期契約の禁輸期限を延期するかが焦点となる。欧州のガス輸入の中東依存度はそれほど高くないが、イタリア、ポーランド、ベルギーなどがカタールへの依存度が高い。今年は例年に比べてガスの在庫水準が低く、イラン情勢の悪化とロシア産ガス輸入の完全停止が重なれば、欧州のガス価格に更なる上昇圧力が及ぶ恐れがある。
欧州連合(EU)は24日、イラン情勢悪化によるエネルギー供給の不安定化を受け、4月15日に予定していたロシア産原油の完全禁輸措置の開始を延期した。ロシアによるウクライナ侵攻後、EUは対ロシア制裁の一環でロシア産化石燃料の禁輸措置を開始したが、制裁延長には半年毎に加盟国の全会一致の賛成が必要で、代替調達先が限られる内陸国で、ロシア産化石燃料に依存するハンガリーやスロバキアが難色を示し、延長が危ぶまれる事態が度々発生してきた。EUは2022年5月にロシア産化石燃料依存の脱却に向けた行動計画「REPowerEU(リパワーEU)」を策定し、2026年1月には法的拘束力を持つEU規則として正式に採択した。全会一致が必要な経済制裁とは異なる法的な枠組みのため、加盟国が拒否権を発動することが難しくなる。禁輸期限が定められ、期限後もロシア産ガスを輸入し続ける企業に対しては、全世界の年間売上高の少なくとも3.5%という重い制裁金が課せられる。1月以降、ロシア産化石燃料輸入の新規契約の締結が禁止され、延期された原油の終了期限に加えて、4月25日に液化天然ガス(LNG)の既存短期契約、6月17日にパイプラインガスの既存短期契約、2027年1月1日にLNGの既存長期契約、同年9月30日にパイプラインガスの既存長期契約の輸入が完全に禁止される。
EUは新たな禁輸期限を未定とするが、禁輸方針の撤回ではないと説明している。現在、ロシア産原油を輸入しているEU加盟国はハンガリーとスロバキアのみで、今後改めて禁輸措置が発動された場合、両国への影響は大きいが、EU全体の原油需給に与える影響は限定的だ(図表1)。両国はウクライナを通るパイプライン経由でロシア産原油を輸入するが、この輸送ルートは1月下旬以降、停止している。ウクライナ政府はロシアによる攻撃でパイプラインが破損したことが理由と説明しているが、両国政府はウクライナが政治的な理由で原油輸送を停止していると主張し、3月20日の欧州首脳会議で900億ユーロのウクライナ向け追加支援に拒否権を発動した。4月12日に総選挙を控えるハンガリーでは、親ロシアのオルバン首相が率いる与党が苦戦を強いられており、EUとの関係改善を訴える野党が政権を奪取する可能性がある。

欧州のガス輸入の中東依存度はそれほど高くないが、イタリア、ポーランド、ベルギーなどがカタール産への依存度が高い(図表2)。イランからのパイプライン輸入は、統計区分で欧州に分類されるトルコで、EU諸国向けの再輸出はされていない。カタールは24日、イランによるLNG施設への攻撃を受け、LNGの長期供給契約について不可抗力(供給義務免除)を宣言したとの報道もある。LNG輸入の3割以上をカタールに依存するイタリアのメローニ首相は25日にアルジェリアのアブデルマジド・テブン大統領と会談し、両国がシェールガスや海洋ガス探査などの共同プロジェクトを開始することで合意した。イタリアはエネルギー源のガス依存が高く、ロシアによるウクライナ侵攻以前はドイツと同様にロシア依存度が高かったが、主に北アフリカからのパイプライン経由や中東・北アフリカからのLNG輸入の増加で対応してきた。

4月25日に禁輸期限が迫るLNGの既存短期契約が延長されるかが次の焦点となる。欧州のエネルギー企業の多くは、ロシアによるウクライナ侵攻以前に、ロシアとの間でLNG供給の長期契約を結んでいた。欧州側が一方的にロシア産ガスの輸入を停止すると、多額の違約金をロシアに支払うことになり、むしろロシアを利することにもつながる。そこで既存契約については、段階を追って禁輸期限が設定された。現在、フランス、ベルギー、スペインなどが、輸送コストが低く、米国産などと比べて割安なロシア産LNGを輸入している。また、今年は例年に比べてガスの在庫水準が低く、これから不需要期に入るが、冬場の需要期に向けてガス需給に不安を抱えている(図表3)。ロシア産LNG輸入の完全禁輸が開始されれば、イラン情勢悪化の長期化と相俟って、欧州の天然ガス価格に更なる上昇圧力が及ぶ恐れがある。

田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

