インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

トルコ中銀、5会合連続の利上げもリラの信認回復はほど遠いか

~実質金利は依然として大幅マイナス、エルドアン氏に対する信頼性の乏しさもリラ売りの一因か~

西濵 徹

要旨
  • 26日、トルコ中銀は5会合連続の利上げに加え、2会合連続で利上げ幅を500bpとして主要政策金利である1週間物レポ金利を35.00%とする決定を行った。シムシェキ財務相とエルカン中銀総裁の下で「正統的」な政策運営は着実に進められているが、足下ではインフレが再加速しており、大幅利上げにも拘らず実質金利は大幅マイナスが続くなど投資妙味は極めて乏しい。保護預金制度の廃止を受けてトルコ国民は外貨や金預金を増加させるなど、実需面でもリラ相場に調整圧力が掛かりやすい状況が続く。中銀は先行きの利上げ継続を示唆するが、結局はエルドアン氏に対する信頼性の乏しさがリラ相場の重石となる状況は変わらない。これまでの無茶苦茶な政策運営が足かせとなり、リラ相場が輝きを取り戻すのは難しいと言える。

26日、トルコ中央銀行は定例の金融政策委員会を開催し、政策金利5会合連続で引き上げるとともに、利上げ幅を先月の前回会合同様に500bpとして主要政策金利である1週間物レポ金利を35.00%とする決定を行った。トルコでは、5月に行われた大統領選後の内閣改造において、財務相に金融市場からの信認が厚いシムシェキ氏、中銀総裁に金融業界での経験が長いエルカン氏を据え、ここ数年のエルドアン政権の下で経済学の定石では考えられない政策運営が採られたことで失墜した国際金融市場からの信認回復を強く意識した人事配置がなされた。新体制の下、中銀は6月以降断続的な利上げに動くとともに、8月には市場予想を大きく上回る利上げを実施してことに加え、リラ相場の実質的な米ドルペッグ制を企図した保護預金制度(リラ建定期預金を対象に、リラ相場が想定利回りを上回る水準に調整した場合に当該損失をすべて政府が補填する制度)の解除を進めるなど、『正統的』な政策に転換を図る姿勢をみせた(注1)。先月初めの中期財政計画の公表に際しては、エルドアン大統領が緊縮的な金融政策によりインフレ率を一けた台に抑えると述べるなど、従来からの考え(高金利がインフレを招く)と真逆の考えを示すとともに、保護預金制度の解除を後押しする考えをみせるなど『変心』をうかがわせる動きをみせた(注2)。さらに、中銀は先月の定例会合でも500bpの利上げ実施に加え、さらなる利上げ実施に含みを持たせる考えを示すなど、正統的な政策運営に向けた足取りを着実に前進させる姿勢をみせてきた(注3)。こうした経済チームによる努力も追い風に、主要格付機関の間では同国に対する見方が改善する流れが出ているものの、リラ相場を巡っては調整の動きに歯止めが掛からず、足下においては最安値を更新する展開が続いており、国際金融市場からの信認は一向に改善する兆しがみられない状況にある。この背景には、昨年末以降のインフレ率は前年に大きく上振れした反動で頭打ちの動きを強めてきたものの、足下では主要産油国による自主減産延長や中東情勢を巡る不透明感の高まり、異常気象の頻発による農作物の生育不良を理由に輸出禁止や制限に動く国が広がりをみせるなかで商品市況は底入れしており、食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレが再燃していることがある。トルコのインフレ率もこうした動きに加え、最低賃金の大幅上昇や年金受給年齢の引き下げ、リラ安に伴う輸入インフレが重なり加速の動きを強めており、6月以降の中銀による大幅利上げにも拘らず実質金利(政策金利-インフレ率)は大幅マイナスで推移するなど、投資妙味が向上しない展開が続いている。さらに、上述した保護預金制度の廃止を受けて、トルコ国内において外貨預金や金預金が拡大する動きが確認されるなどリラへの実需が低下していることもリラ売り圧力が収まらない事態を招いているとみられる(注4)。今回も500bpもの大幅利上げにも拘らず、実質金利は大幅マイナスの状況を脱することは出来ない状況が続く。なお、会合後に公表した声明文では、引き続き「早期にディスインフレ路線を確立し、インフレ期待を固定化し、価格設定行動の悪化を抑制すべく金融引き締めプロセスの継続を決定した」との考えを示している。その上で、先行きの政策運営について「金融引き締めはインフレ見通しの大幅な改善が実現するまで適時、且つ漸進的に必要なだけ一段と強化される」、「市場メカニズムの機能性向上とマクロ金融安定化のため、既存のマクロプルーデンス政策の枠組の簡素化と改善を進める」、「簡素化プロセスはその影響を分析しつつ段階的に進めるべく、引き続き量的引き締めと選択的な信用引き締めを行う」とする従来からの姿勢を改めて強調している。そして、「インフレ動向を注視しつつあらゆる手段を断固として行使する」、「データに基づく形で予見可能な枠組で決定を行う」との従来からの考えも改めて強調している。ただし、同国では来年3月に統一地方選挙が予定されており、エルドアン氏や政権を支える与党AKP(公正発展党)は大都市部の首長の座の奪還を目指しているが、インフレの長期化や金利上昇は内需の足かせになる上、輸出の半分以上を占めるEU経済の頭打ちが意識されるなかで国内・外双方で景気の不透明感が強まる懸念が高まっている。さらに、中東情勢の悪化を巡ってエルドアン氏は、イスラエルとの関係改善に向けた動きを止めるとともに、同国寄りの欧米を批判した上で、この問題に関連してロシアと接近する動きをみせるなど、中東情勢を巡る不透明要因となる可能性がくすぶる。他方、エルドアン政権はスウェーデンのNATO(北大西洋条約機構)加盟に向けた批准法案を議会に提出しており、欧州の安全保障環境に対して一定の配慮を示すなど『バランス外交』を展開する動きをみせている。こうした欧米と中ロを両天秤に測る外交政策を演じていることは、地域における同国の存在感を高める一方、結果的にエルドアン氏の思惑で様々な政策運営が左右されるとの疑念を招いており、『シン・経済チーム』による努力も信用されない一因になっている可能性がある。その意味では、これまでの無茶苦茶な政策運営が足かせとなる形で、先行きもリラ相場がかつての輝きを取り戻すことは難しいのが実情であろう。

図表1
図表1

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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