インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

トルコ中銀の「本気」をどう捉えるべきか

~新体制は正統的な政策運営を着実に進める意向、あとはエルドアン大統領の「堪忍袋の緒」次第か~

西濵 徹

要旨
  • 24日、トルコ中銀は定例会合を開催して、政策金利を750bp引き上げて25.00%とする決定を行った。同行を巡ってはここ数年、「金利の敵」を自任するエルドアン大統領の下でインフレにも拘らず利下げする経済学の定石で考えられない政策対応を迫られた。しかし、インフレ長期化による国民生活の悪化で5月の大統領選でエルドアン氏は予想外の苦戦を強いられた。よって、再選後は財務相と中銀総裁に正統的な政策運営を志向する人材を登用するなど金融市場に配慮する姿勢をみせた。ただし、新体制は6月、7月と連続利上げに動くも、利上げ幅は事前予想を下回るなど失望を招き、反ってリラ相場は調整した。他方、その後はマクロプルーデンス政策の簡素化など正統的な政策運営に舵を切る前裁きを進め、24日は事前予想に反して大幅利上げに舵を切った。先行きもインフレ鎮静化に向けて「適時、且つ漸進的に必要なだけ」引き締めを実施する方針を示すなど、新体制に失望した金融市場にとりポジティブ・サプライズとなっている。ただ、先行きはエルドアン大統領の「堪忍袋の緒」との勝負であり、物価動向の行方を注視する必要があろう。

ここ数年のトルコにおいては、『金利の敵』を自任するエルドアン大統領の下で、中銀はインフレにも拘らず利下げを実施するという経済学の定石では考えられない政策対応が採られてきた。一昨年末には中銀による利下げ実施をきっかけにリラ安の動きが加速したため、政府は国民に対してリラの保有を促すべく、保護預金制度(KKM)と称する制度を導入した。同制度では、政府がリラ建の定期預金を対象にリラ相場が想定利回りを上回る水準に調整した場合にその損失分をすべて補填する形となり、実質的な『米ドルペッグ』制度と捉えられる。さらに、その後も中銀は政府が主導する『ドル化政策』を後押しすべく、銀行預金に占めるリラ建比率の上昇を目的に、外貨預金残高に義務付けしている証券保全比率を引き上げるなど、対応を強化させた。しかし、昨年はウクライナ情勢の悪化を受けた商品高に加え、国際金融市場における米ドル高を受けたリラ安による輸入インフレも重なりインフレが大きく上振れしたものの、中銀は景気への悪影響を懸念して政策金利を据え置く一方、リラ相場の防衛のための為替介入により『時間稼ぎ』を狙う姿勢をみせた。さらに、インフレの昂進が続いているにも拘らず、中銀は昨年8月に先行きのインフレ鈍化を見越す形で利下げに動き、その後もインフレ鈍化を確認しつつ断続利下げを行うなど、世界的に米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀が一段の金融引き締めに動くなかで逆走状態に突入した。そして、今年2月に同国南部の隣国シリア付近において大規模地震が発生したことに加え、インフレが一段と鈍化する動きをみせたことも重なり、中銀は同月末に復興支援を目的に追加利下げを実施する対応をみせた。なお、政府と中銀が景気を重視せざるを得なかった背景には、今年5月の大統領選におけるエルドアン氏の再選を後押しする意味合いが大きかったとみられる。エルドアン氏は、過去2回の大統領選では1回目の投票で制する完勝を収める一方、今回は決選投票に持ち込まれるなど苦戦を強いられるも決選を制するなど(注1)、過去20年に亘り政権を担ってきた同氏の下で新たな5年を歩み出した。他方、新政権では長期に亘るインフレとリラ安が国民生活の悪化を招き、今回の大統領選での苦戦の一因となったことを受けて、財務相に金融市場からの信認が厚いシムシェキ氏、中銀総裁には金融業界での経験が長いエルカン氏を指名するなど、国際金融市場を意識した人事に動いた(注2)。エルカン新体制の下で中銀は6月、及び7月と連続で利上げ実施に舵を切ったものの、いずれも利上げ幅を小幅に留めたことに加え、リラ相場を実質的に下支えしてきた政策転換が図られるとの見方が強まり、反ってその後はリラ安の動きに拍車が掛かる事態を招いた。さらに、インフレ対応を目的とする最低賃金の大幅引き上げや大地震からの復興需要の発現に加え、リラ安に伴う輸入インフレも重なり、昨年11月を境に頭打ちしてきたインフレ率は足下で再び加速に転じるなどインフレが再燃する事態となった。一方、中銀は先月末以降、マクロプルーデンス政策の簡素化を図るべく信用引き締めと量的引き締めに動いており、具体的には預金準備率引き上げのほか、企業、及び家計向けの信用の伸びの上限を引き下げるなどの対応を採っている。さらに、中銀は上述したKKMの解除にも着手しており、具体的には企業や個人に対してKKM口座を更新せず通常のリラ建預金口座に移行するよう促す対応を強化している。この背景には、リラ安によってKKM口座が全銀行の預金口座の約4分の1に拡大しており、結果的に補填のための政府による歳出が大幅に膨張して財政を圧迫していることがある。そして、先月末には金融政策委員会のメンバーである3人の副総裁も交代しており、いずれも米国への留学経験を有するなど政策転換を示唆する動きがみられた。このように、新体制の下では『正統的な』政策運営を後押しすべく様々な改革が着手されるなか、中銀は24日に開催した定例会合において政策金利である1週間物レポ金利を750bp引き上げて25.00%とする決定を行った。利上げ決定は3会合連続ながら、6月(650bp)、7月(250bp)と事前予想を下回る利上げ幅に留まり失望感が強まったのと対照的に、今回は小幅利上げに留まるとみられたなかで一転して大幅利上げに動く『ポジティブ・サプライズ』に繋がった。この決定を受けて、調整の動きを強めてきたリラ相場は一転底入れする動きをみせているものの、依然として6月以降の『失望』を取り返すには至っていない。会合後に公表した声明文では、今回の決定について「早期にディスインフレ路線を確立し、インフレ期待を固定化し、価格設定行動の悪化を抑制すべく金融引き締めプロセスの継続を決定した」とした。物価動向について「インフレ基調は継続的に上昇しており、年末時点では想定の上限近傍で推移する可能性を示唆している」としつつ、「引き締めスタンスを勘案すれば、来年には想定通りのディスインフレ基調が確立される」との見通しを示す。その上で、政策金利について「基調インフレの低下を確保するとともに、中期的なインフレ目標実現に必要な金融・財政環境の創出が目的」としつつ、「金融引き締めはインフレ見通しの大幅な改善が実現するまで適時、且つ漸進的に必要なだけ一段と強化される」との姿勢を改めて示した。そして、前回会合同様に「市場メカニズムの機能性向上とマクロ金融安定化のため、既存のマクロプルーデンス政策の枠組の簡素化と改善を進める」とした上で、「簡素化プロセスはその影響を分析しつつ段階的に進めるべく、引き続き量的引き締めと選択的な信用引き締めを行う」との考えを示した。先行きの政策運営については「インフレ動向を注視しつつあらゆる手段を断固として行使する」とした上で、「データに基づく形で予見可能な枠組で決定を行う」との従来からの姿勢をみせるが、今回は予想外の大幅利上げに動いたことで金融市場の見方は好意的な方向に傾くことが期待される。ただし、定例会合の直前にはエルドアン大統領が、足下におけるインフレ加速の動きについて一時的なものとの認識を示すとともに、政府は生活費上昇による家計支援策を検討していることを明らかにするなど財政措置を講じる構えをみせている。こうした状況を勘案すれば、今回の大幅利上げは極めて望ましい一歩と捉えられる一方、エルドアン大統領がこれを承認したかは不透明であり、仮にインフレ鎮静化に手間取る展開が続けば再び人事権を濫用して中銀への介入を強めることも懸念される。来年3月に予定される統一地方選挙前に一定の成果を上げることが出来るか、物価動向の行方を注視する必要があると言える。

図1 リラ相場(対ドル)の推移
図1 リラ相場(対ドル)の推移

図2 リラ相場(対ドル)の推移
図2 リラ相場(対ドル)の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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