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2023.10.23
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インドネシア大統領選、届け出開始で選挙戦はいよいよ本格スタート
~ジョコ氏長男(ギブラン氏)はプラボウォ陣営の副大統領候補、世界最大の直接選挙の行方は如何に~
西濵 徹
- 要旨
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- インドネシアでは来年2月の次期大統領選まで4ヶ月を切るなか、主要3候補が出馬意向を示すなど選挙戦は実質スタートしている。一方、宗教右派が政界の動きを左右するなかで中東情勢の悪化が与える影響に注目が集まる。さらに、各陣営がタッグを組む副大統領候補を巡って、国民からの人気が依然高いジョコ大統領の支持を得るべく長男(ギブラン氏)の出馬を可能にする動きがみられた。こうしたなか、プラボウォ陣営がギブラン氏を副大統領候補とする方針を明らかにし、ジョコ氏と闘争民主党のメガワティ党首の亀裂は決定的となっている。他方、ジョコ氏は次期大統領選に関与しない考えを示すも、事実上の世襲による政治の私物化批判が強まる動きも出ている。足下では中東情勢の悪化による地政学リスクを嫌気して通貨ルピア安が進み、中銀は再利上げに追い込まれるなど難しい対応を迫られている。仮に中銀が一段の利上げに動けば政権に逆風が吹くなど大統領選の行方にも影響を与え得る。同国の行方は他の新興国や東南アジア情勢に影響を与えるほか、ジョコ氏肝煎りの首都機能移転などの行方にも影響を与えるであろう。
インドネシアでは、来年2月14日に大統領選(第1回投票)と国民協議会下院(国民議会)総選挙の実施が予定されるなか、大統領選に向けては主要3氏が立候補の意向を示すなど事実上の選挙戦が始まる一方、ここ数年の同国政界では宗教右派(宗教保守主義)を意識した動きが強まるなかでこのところの中東情勢を巡る不透明感の高まりが如何なる影響を与えるかに注目が集まっている(注1)。なお、現職のジョコ・ウィドド大統領は、現行憲法において大統領任期が連続2期までとされるなかで出馬することが出来ない一方、ジョコ氏は国民の間で依然として高い人気を有するなかでどの候補を支持するかの行方も注目された。同国政界は長らく政治エリートや親類縁者、軍人が牛耳る展開が続くとともに、親族の重用や家族主義的な動きが汚職体質の根深さに繋がってきた経緯があるなか、ジョコ氏は政治に無縁な異例の経歴を背景に『庶民派』として大統領に駆け上ってきた。しかし、大統領就任以降は長男(ギブラン・ラカブミン・ラカ氏)や長女の婿(ボビー・ナスティオン氏)が相次いで地方の首長となるなど親類縁者が相次いで政界進出を果たすなど、庶民派の仮面が剥がれる動きが顕在化してきた。さらに、次期大統領選に向けてはジョコ氏の支持を得るべく、主要候補とタッグを組む副大統領候補にギブラン氏の『ねじ込み』を模索する動きがみられた。現行憲法で規定されている大統領選、及び副大統領選の候補者を巡る年齢規定(40歳以上)について、これを35歳以上に引き下げる旨の議員請願が憲法裁判所に提出されたのは、現在36歳のギブラン氏を副大統領候補に擁立可能にすることでジョコ氏の支持を集めたいとの思惑が影響したと考えられる。なお、年齢規定に関する議員請願については反対多数で棄却される一方、除外規定として地方政府の首長経験者は出馬要件を満たすことが出来る旨が付記され、その決定を後押ししたのは憲法裁の裁判長でジョコ氏の義弟であるアンワル・ウスマン氏であるなど、事実上の『出来レース』とみることも出来る(注2)。さらに、直後には選挙管理委員会も憲法裁の判断を追認する意向を示しており、これによりギブラン氏は大統領選、及び副大統領選に出馬することが可能となっている。また、その前後にはジョコ氏の主要支持団体のひとつである「プロジョ」が次期大統領選の支持を巡っては、ジョコ氏が属する最大与党の闘争民主党(PDI―P)から出馬予定の候補を推さない姿勢を明らかにするなど、離反を示唆する動きがみられた。こうしたなか、19日に大統領選と副大統領選の候補者の届け出が開始され、闘争民主党からは大統領候補に先月に中ジャワ州知事を退任したガンジャル・プラノウォ氏、副大統領候補にジョコ政権で政治・法務・治安担当調整相を務めるマフッド・マフモディン氏(通称マフッドMD)とのタッグで選挙戦に突入することを明らかにした。また、昨年10月に首都ジャカルタ州知事を任期途中で辞任して大統領選への出馬意向を示したアニス・バスウェダン氏は無所属の独立系候補として大統領選に出馬する一方、副大統領候補にはジョコ政権下の与党連立を構成するイスラム教徒を支持基盤とする国民覚醒党(PKB)のムハイミン・イスカンダル党首(現、国民議会副議長)とタッグを組むことで、宗教右派を意識した選挙戦を展開するとみられる。他方、過去2回の大統領選においてジョコ氏と激戦を演じるも、ジョコ政権2期目では大連立に加わるとともに、国防相を務めるなどジョコ氏と接近してきたプラボウォ・スビアント氏は自身が率いるグリンドラ党の大統領候補になり、副大統領候補にギブラン氏を据えることを明らかにするなど、ジョコ氏の人気を追い風に『3度目の正直』を目指す方針とみられる。なお、ジョコ氏自身は次期大統領選には直接的に関与しない方針を明らかにしているものの、現地報道などでは大統領退任後も政治的な影響力を維持すべくギブラン氏を後押しするとともに、水面下ではプラボウォ陣営の支持集めに奔走しているとされる。プラボウォ陣営の決定により、ジョコ氏と闘争民主党のメガワティ党首(元大統領)との亀裂は決定的となったと判断出来る。ただし、こうした動きを受けてジョコ氏による政治の私物化を批判する声が高まるとともに、首都ジャカルタでは学生などを中心に大規模な抗議デモが展開され、ジョコ氏の辞任を求めるなどの動きもみられる。大統領選を巡っては、有権者数は前回大統領選から一段と増えて2億481万人が投票する世界最大の直接選挙となるとともに、有権者の半分以上を40歳未満が占めるなど『風』が影響しやすい傾向もうかがえる。世論調査においては、プラボウォ氏がガンジャル氏に対して僅差ながらリードするとともに、アニス氏は両氏に少々水をあけられる展開が続いているものの、副大統領候補が揃う形での『タッグ』が決まったことで流れが変わる可能性もくすぶる。他方、足下の国際金融市場においては中東情勢を巡る不透明感の高まりを嫌気する動きが広がるなか、同国では通貨リンギ相場が調整の動きを強めるなど輸入インフレの再燃を危惧する向きが出ており、中銀は先週(19日)の定例会合で9会合ぶりの再利上げに追い込まれるなど難しい対応を迫られている(注3)。足下の同国は国際金融市場の動揺への耐性が充分とは言えない状況にある上、仮にリンギ安の動きに歯止めが掛からず中銀が一段の金融引き締めを迫られれば、ジョコ氏の人気に陰りが出ることで選挙戦の行方に影響を与える可能性もある。同国の行方は、昨年のロシアによるウクライナ侵攻を機に世界的に欧米などと中ロとの間で分断の動きが広がるなか、どちらの陣営にも与しない『中間派』の立場を取るいわゆるグローバルサウスと称される新興国の筆頭格のひとつである同国の対応、ひいては東南アジア地域の情勢をも左右することが予想される。その意味では、ジョコ氏の『化けの皮』が剝げた後の同国政界を巡る動きやその行方は、ジョコ政権の『肝煎り』である首都機能移転政策の動向を含めて注意を払う必要性が極めて高いと捉えられる。

注1 10月16日付レポート「インドネシア大統領選に向けて新たに不透明要因が持ち上がる動き」
注2 10月17日付レポート「インドネシア・ジョコ大統領の「庶民派の仮面」はいよいよ剥がれるか」
注3 10月19日付レポート「インドネシア中銀、ルピア安の加速に直面するなかで9会合ぶりの利上げ再開」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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