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2023.10.16
アジア経済
インドネシア経済
インドネシア大統領選に向けて新たに不透明要因が持ち上がる動き
~宗教右派の台頭で中東情勢はどう影響するか、ジョコ氏支持者は党公認から離反の動きをみせる~
西濵 徹
- 要旨
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- インドネシアは、来年2月の大統領選に向けて残り4ヶ月を切るなど政治の季節は佳境を迎えている。現職のジョコ氏は憲法規定で出馬出来ないなか、ポスト・ジョコの行方に注目が集まる。主要3候補が大統領選に名乗りを上げて実質的な選挙戦はスタートする一方、ここ数年の同国政界では宗教保守を強く意識した動きが広がりをみせる。中東情勢を巡る不透明感の高まりは、宗教保守層を中心に如何なる動きをみせるか新たな不透明要因となり得る。他方、ジョコ氏の支持者の間で所属党(闘争民主党)公認から離反する動きがみられ、ジョコ氏とメガワティ党首との間にすき間風が吹く事態も予想される。選挙戦は残り4ヶ月を切るなかで大統領選や同時に実施される総選挙を巡る動きは一段と激化することは避けられないであろう。
インドネシアでは、来年2月14日に大統領選挙(第1回投票)と国民協議会下院(国民議会)の総選挙が予定されており、残すところ4ヶ月弱となるなど『政治の季節』は佳境を迎えつつある。現行憲法では大統領任期は連続2期までとされており、現職のジョコ・ウィドド大統領は次期大統領選に出馬することが出来ない。ただし、ジョコ氏は依然として高い支持率を誇る展開が続いており、ジョコ氏の支持の行方は大統領選に影響を与えることが予想される。ジョコ政権の2期目入りに当たっては、計7党による大連立を形成することで政治的安定を重視する姿勢が採られ、過去2回の大統領選でジョコ氏と激戦を演じたプラボウォ・スビアント氏を国防相への就任と同氏が率いるグリンドラ党も連立入りを果たした。他方、ジョコ氏が属する最大与党の闘争民主党においては、党首であるメガワティ・スカルノプトリ元大統領が厳然とした影響力を有するなか、上述したようにジョコ氏に対する人気が高いなかで党内における『ポスト・ジョコ』の選定に手間取る展開が続いてきた。というのも、メガワティ氏自身は娘のプアン・マハラニ国民議会議長を次期大統領候補に擁立したいとの思惑を持っていたものの、プアン氏は国民のみならず党内でも人気、人望ともに低いと評されるなど、その実現のハードルは極めて高かったとされる。こうしたなか、同党は大統領選まで残り1年となった今年4月に党大会を開催し、以前から大統領選に出馬する意向を示してきた中ジャワ州知事のガンジャル・プラノウォ氏を候補に擁立する方針を決定した(ガンジャル氏は先月知事を退任)。その上で、ジョコ氏もガンジャル氏を『後継者』とする考えを示した。他方、現政権において国防相を務めるプラボウォ氏は『3度目の正直』による捲土重来を期すべく昨年8月に自身が属するグリンドラ党の大統領候補として出馬する意向を表明している。両氏以外にも、昨年10月に首都ジャカルタ特別州知事であったアニス・バスウェダン氏が任期途中で辞任した上で、与党連立に属するナスデム(国民民主)党が実質支援する形で大統領候補として出馬する意向を示しており、主要3候補がそろい踏みする形で選挙戦は実質スタートしている(注1)。大統領選を巡っては、3氏以外の候補による出馬の可能性が取り沙汰されてきたものの、先月までに与野党や地域政党などが入り乱れる形で3氏への支持を表明する動きが広がりをみせており、プラボウォ氏にはグリンドラ党を含む7党、ガンジャル氏には闘争民主党を含む4党、アニス氏にはナスデム党を含む4党が支持を表明している。ここ数年の同国政界においては宗教右派(宗教保守主義)を強く意識した選挙戦略を採ることで保守的な有権者に対する支持固めを図る動きがみられ、アニス氏がジャカルタ特別州知事に当選した2018年の同選挙のほか、ジョコ氏とプラボウォ氏が激戦を演じた翌19年の前回大統領選においてそうした動きが激化した経緯がある。なお、インドネシアは人口の9割弱がイスラム教徒であるなど世界最大のイスラム教徒を擁するものの、その大宗は穏健派とされる一方、堅調な景気拡大が続いているにも拘らず若年層を中心にフォーマルセクターでの雇用機会が乏しい状況が続いているほか、深刻化する政治腐敗などへの不満の『受け皿』として宗教右派が支持を広げて台頭しているとされる。今年4月に同国で開催予定であったU-20(20歳以下)サッカーワールドカップ(W杯)を巡っては、同大会に出場予定のイスラエル代表に対して参加を認めないよう求める動きが活発化するとともに、一部の政治家が同調する動きをみせたことでFIFA(国際サッカー連盟)が開催権はく奪に動く事態に発展した(注2)。ガンジャル氏はこうした動きに同調した結果、それまで世論調査ではガンジャル氏がトップを独走する動きが続いたものの、若年層を中心とするサッカー熱の高さが影響してその後は一転してプラボウォ氏の猛追を許すなど逆風が吹く動きに繋がった。ただし、足下の中東情勢を巡る不透明感の高まりを巡っては、同国が元々パレスチナを支持する一方でイスラエルと国交を有していないことも影響して、パレスチナ支持(イスラエル批判)を目的とするデモが発生する動きがみられるなど、事態が深刻化した場合にどのような動きが広がるかは見通せない。こうしたなか、ジョコ大統領の主要支持団体のひとつである『プロジョ』が次期大統領候補にプラボウォ氏を支持することを明らかにするなど、ジョコ氏の支持者の間でポスト・ジョコを巡って評価が分かれていることが明らかになった。プロジョ自体はあくまでボランティアにより構成される支持団体であり、ジョコ氏自身がプラボウォ氏の支持を明言している訳ではないものの、上述のように所属する闘争民主党はガンジャル氏を推薦候補とするなかで意見を巡る対立が表面化したことは新たな不透明要因となり得る。闘争民主党内においては元々、ジョコ氏個人に対する人気に依存してきたことを受けて、ジョコ氏とメガワティ党首の間で折り合いが決して良いとは言えない状況が続いてきたが、離反の動きが鮮明になれば両者の間に『すきま風』が吹くことも予想される。こうした動きは大統領選と同時に実施される総選挙での政党間の合従連衡の動きにも影響するなか、選挙戦は残り4ヶ月を切るなかで激化の様相を強めることは避けられないであろう。
注1 4月27日付レポート「インドネシア大統領選、主な顔ぶれが勢ぞろいで選挙戦実質スタート」
注2 4月11日付レポート「インドネシアで台頭する宗教右派を背景とする問題が再び露呈」
西濵 徹
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- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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