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2023.10.17
アジア経済
インドネシア経済
インドネシア・ジョコ大統領の「庶民派の仮面」はいよいよ剥がれるか
~副大統領選に長男出馬の布石か、一方で宗教右派が不満の受け皿となる可能性にも要注意~
西濵 徹
- 要旨
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- インドネシアでは来年2月に大統領選が予定され、残り4ヶ月を切るなかで選挙戦に向けた動きは本格化しつつある。主要3候補が立候補を表明する一方、タッグを組む副大統領候補の行方に注目が集まる。こうしたなか、高い人気が続くジョコ氏の支持獲得に向けて長男(ギブラン氏)の擁立を模索する動きが顕在化した。憲法上の年齢規定の変更を求める議員請願が憲法裁に上程され、反対多数で否決されるも、首長経験者を除外規定とするなどギブラン氏の出馬への道が拓かれた格好である。ジョコ氏は「庶民派」として大統領就任を果たしたが、就任後は親族が相次いで政界入りを果たすなど既存政治家と同様の動きをみせる。同国政界では国民の不満の受け皿として宗教右派が台頭する動きがみられる。同国は穏健派が多数を占めるなかで対内直接投資の受け入れを活発化させてきたが、ここ数年は宗教右派色とともに内向き姿勢が強まる動きもみられる。来年の大統領選や総選挙、統一地方選に向けた動きは、その後の同国の在り様にも大きな影響を与える可能性も予想されるだけに、その行方を注視する必要性は高いと判断出来る。
インドネシアでは、来年2月14日に大統領選挙(第1回投票)の実施が予定されており、残りの期間が4ヶ月を切るなかで『政治の季節』は佳境を迎えつつある。現職のジョコ・ウィドド大統領は、2014年の大統領選で勝利し、2019年の前回大統領選でも再選を果たして連続2期目となる一方、現行憲法において大統領任期は連続2期までとされており、ジョコ氏は次の大統領選に出馬出来ない。一方、足下においてもジョコ氏は依然として高い支持率を有しており、ジョコ氏による支持の行方は大統領選の行方に影響を与えるものと見込まれる。なお、大統領選挙には過去2回の大統領選でジョコ氏と激戦を演じたプラボウォ・スビアント氏(国防相)が昨年8月、自身が党首を務めるグリンドラ党から出馬する意向を表明している。その後も、昨年10月には首都のジャカルタ特別州知事であったアニス・バスウェダン氏が任期途中で辞職するとともに、ジョコ政権を支える与党連立に属するナスデム(国民民主)党が実質支援する形で独立候補として大統領選への出馬を表明した。さらに、今年4月にはジョコ氏が属する最大与党の闘争民主党が中ジャワ州知事のガンジャル・プラノウォ氏を大統領候補とする決定を行ったことを受け、出馬が取り沙汰されてきた主要3候補がそろい踏みしたことにより選挙戦の火ぶたが事実上切られた(注1)。闘争民主党による公認決定を巡っては、ジョコ氏はガンジャル氏が自身の『後継者』であるとの考えを示したものの、同党は党首であるメガワティ元大統領の影響力が強く、公認候補の決定にもメガワティ氏の意向が強く反映されるなか、ガンジャル氏とタッグを組む副大統領候補の行方に注目が集まってきた。上述のようにジョコ氏は依然として支持率が高いことを理由に、ジョコ氏の人気の高さを大統領選の追い風にしたいとの思惑が高まるなか、闘争民主党内では現行憲法で規定されている大統領選候補者の年齢規定(40歳以上)を「35歳以上」に引き下げる旨の議員請願が憲法裁判所に提出される動きがみられた。この背景には、ジョコ氏の長男でジョコ氏がかつて務めた同国中部のジャワ州スラカルタ(ソロ)市長のギブラン・ラカブミン・ラカ氏(36歳)を擁立したいとの思惑が影響していると考えられる。同国政界においては長らく、歴代政権が親族の重用や家族主義的な動きをみせることが根深い汚職体質を招いてきたこともあり、今回の動きに対して法律家をはじめとする識者が懸念を示すとともに、市民による反対デモが発生する動きもみられた。こうしたなか、憲法裁判所は16日に上述した議員請願に対して「6(反対)対2(賛成)」の反対多数で棄却する決定を下しており、表面的にはギブラン氏を副大統領候補に擁立することは不可能になったようにみえる。ただし、この棄却決定に関しては「地方政府の首長に選出された経験があれば、大統領選挙への出馬要件が満たされる」と除外規定が付記されており、現在スラカルタ市長を務めるギブラン氏は副大統領候補として出馬することが可能になるなど、その道が拓かれた格好である。なお、憲法裁判所の裁判長は2018年からアンワル・ウスマン氏が務めるが、アンワル氏は2021年に前妻と死別した後、翌22年にジョコ氏の妹であるイダヤティ氏と再婚するなどジョコ氏の義弟であり、今回の判断を巡って『出来レース』との見方もくすぶる。ジョコ氏は貧困家庭に生まれた後、大工や家具輸出業を営んだ後にスラカルタ市長を機に政界進出を果たし、ジャカルタ特別州知事を経て2014年に大統領に就任した経緯があり、同国政界においては長らく政治エリートやその親類縁者、元軍人などが占める状況が続いたため、異例の経歴を背景とする『庶民派大統領』として注目された。しかし、2020年に実施された統一地方選挙において、長男のギブラン氏がスラカルタ市長に、娘婿のボビー・ナスティオン氏が北スマトラ州のメダン市長に当選するなど、ジョコ氏の大統領任期の終了が近付くなかで親類縁者が相次いで政界進出を果たしており、庶民派の仮面が剥がれる動きがみられた。そうした中での今回の憲法裁による決定は、ジョコ氏自身が政界の階段を駆け上がってきた流れを息子に受け継ぎたいとの思惑を反映したものと捉えることが出来る。さらに、ジョコ氏の次男で起業家、Youtuberのケサン・パンガレプ氏が2019年の前回大統領選でジョコ氏支持をいち早く表明したインドネシア連帯党(PSI)の党首に就任し、来年11月に実施予定の統一地方選で西ジャワ州のデポック市長選に出馬する意向を明らかにするなど、政界進出の準備を進める動きをみせている。ケサン氏を巡っては、プラボウォ氏が党首を務めるグリンドラ党が推薦するなど接近する動きがみられるなか、ジョコ氏の主要支持団体のひとつである「プロジョ」が次期大統領にプラボウォ氏を支持する方針を明らかにする動きみられる(注2)。こうした動きの背景には、ジョコ氏とメガワティ氏の間で囁かれる『不仲説』が影響しており、ジョコ氏は闘争民主党の一党員として活動する一方、大統領選では党組織が票集めに奔走した経緯があり、ジョコ氏が大統領に就任した後にメガワティ氏が政策運営に口出しする動きを強めたことで、ジョコ氏が距離を置く姿勢をみせたことがある。また、メガワティ氏は自身の娘(プアン・マハラニ国民議会議長)に将来的な大統領就任への布石を打ちたいとの思惑を持つが、プアン氏は国民のみならず党内でも人気、人望ともに低いとされるなかで叶わない状況が続くなか、ジョコ氏の人気を党に繋ぎ止めることで実現のハードルを下げたいと考えている可能性がある。一方、ジョコ氏は自身の大統領退任後を見据えて親類縁者の政界進出を進めるなか、プロジョによるプラボウォ氏への支援表明の背後でギブラン氏が同陣営の副大統領候補となれば、そうした動きをさらに後押しする格好となる。他方、ここ数年の同国政界では堅調な景気拡大が続いているにも拘らず若年層を中心にフォーマルセクターでの雇用機会が乏しく、深刻化する政治腐敗などへの不満の『受け皿』として宗教右派(宗教保守主義)が支持を広げて台頭する動きがみられるなか、庶民派で名を売ったジョコ氏も結局は既存政治家と『同じ穴の狢』であることが露呈する動きは宗教右派のさらなる台頭を招くことも考えられる。世界最大のイスラム教徒を擁するも、その大宗は穏健であることが対内直接投資の受け入れなどを通じて近年の経済成長を後押しすることに繋がってきたと考えられるものの、ここ数年は様々な法律改正により宗教保守色を強める動きがみられ、政策運営を巡って内向き姿勢が強まる兆候も出ている。来年の大統領選や総選挙、統一地方選に向けた動きは、その後の同国の在り様を大きく左右するものとなる可能性に注意が必要になると言えよう。
注1 4月27日付レポート「インドネシア大統領選、主な顔ぶれが勢ぞろいで選挙戦実質スタート」
注2 10月16日付レポート「インドネシア大統領選に向けて新たに不透明要因が持ち上がる動き」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

