インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

インドネシア中銀のペリー総裁が突然の辞任発表

~次期総裁人事次第では市場の信認低下と資金流出圧力が強まる可能性~

西濵 徹

要旨
  • インドネシア中銀のペリー・ワルジヨ総裁が7月27日、辞任した。プラボウォ大統領はすでに辞任を受理し、上級副総裁のデストリ・ダマヤンティ氏を暫定総裁に指名した。辞任理由は個人的なものとされ、詳細は明らかにされていない。ペリー氏は中銀で30年以上のキャリアを持ち、2018年に総裁就任し、2023年に再任された。安定した政策運営で市場の信認を得ていたものの、任期を2年弱残しての突然の辞任となった。

  • 中銀では、今年1月にも副総裁が任期途中で辞任し、後任に大統領の甥のトマス・ジワンドノ氏が就任した経緯があり、金融政策への政治的影響が懸念された。背景には、プラボウォ大統領が掲げる経済成長率8%目標があり、達成には内需喚起のための一段の金融緩和が必要との見方がある。さらに、2022年の改正中銀法や6月に成立したP2SK法により、中銀の政策目標に経済成長・雇用支援が追加されたほか、危機時の財政ファイナンスや国会による中銀への勧告、理事解任なども可能となり、独立性への疑念が強まっている。

  • 次期総裁は大統領が候補者を提示し国会が承認する仕組みだが、過去にはトマス氏のように法律上の資格要件を無視して承認された例もある。プラセティヨ官房長官は現時点で候補者は未提示としているが、仮にトマス氏が昇格すれば市場の懸念が強まる可能性がある。年明け以降、指数算出会社や格付機関がインドネシア資産の格下げ・見通し引き下げを検討しており、株価指数やルピア相場はすでに調整・資金流出圧力に直面している。次期総裁人事の行方次第では、資金流出圧力がさらに強まる懸念がある。

インドネシア政府は7月27日、中銀(インドネシア銀行)のペリー・ワルジヨ総裁が辞任したことを明らかにした。プラボウォ大統領はすでにペリー氏の辞任を受理し、暫定総裁に上級副総裁のデストリ・ダマヤンティ氏を指名している。プラセティヨ・ハディ官房長官によれば、ペリー氏は書簡でプラボウォ大統領に辞意を伝えたと説明する一方、個人的な理由で辞任したと詳細に関する言及を控えた。ペリー氏は、中銀で30年以上のキャリアを積み、2007年から2009年まではIMF(国際通貨基金)に出向し、2013年に副総裁、2018年に総裁に就任するなど、中銀業務に精通している。その後、2023年に総裁に再任されて2期目に入り、安定した政策運営により金融市場から高い信認を得てきたものの、任期満了まで2年弱を残して突然の辞任となった。

中銀を巡っては今年1月、副総裁であったジュダ・アグン氏が任期満了まで1年余りを残して突如辞任し、後任にプラボウォ大統領の甥(姉の長男)で財務副大臣を務めていたトマス・ジワンドノ氏が就任した。トマス氏は、プラボウォ氏の甥であるうえ、政権を支える最大与党・グリンドラ党の財務担当を務めていたため、金融政策が政府だけでなく、グリンドラ党の意向を反映したものとなる懸念が高まった。背景には、プラボウォ氏が自身の任期中に同国の経済成長率を8%に引き上げる目標を掲げていることがある。同国の平均成長率はここ数年5%程度で推移しており、目標実現には経済成長率を約3ポイント押し上げる必要がある。このため、経済成長のけん引役である個人消費など内需喚起を目的に一段の金融緩和を迫られるとの見方が広がった。

さらに、中銀ではここ数年、その独立性への疑念が強まっている。2022年に成立した改正中銀法では、中銀の政策目標に、従来からの物価とルピア相場の安定に加え、経済成長の支援が追加された。さらに、大統領が危機的事態を宣言した際には、中銀が政府から国債直接購入を認める「財政ファイナンス」も可能となった。6月に成立した金融システムの監督・規制を規定する金融部門発展強化法(P2SK法)では、中銀の政策目標に経済成長と雇用創出の支援が追加されたほか、国会が独立した金融規制当局(金融サービス庁(OJK))や中銀に勧告を行うことが可能となっている。加えて、中銀の理事会メンバーを解任することも可能となるなど、中銀に対する政治介入が懸念されている。

こうしたなか、金融市場の関心は次期総裁人事に移っている。次期総裁の任命には、大統領と国会の双方が関与する。具体的には、大統領が候補者を国会に提示し、国会が適格性審査を経て承認する。法律上、理事会メンバーの候補者が指名時点で行政官や政党の構成員であることは禁じられているにもかかわらず、前述したトマス氏の副総裁就任時にはこれを無視して国会はトマス氏を承認した経緯がある。プラセティヨ氏は次期総裁人事について、プラボウォ大統領は候補者を提示していないとしているものの、仮にトマス氏の昇格を提示すれば、金融市場が懸念を急速に強めることが予想される。

年明け以降の金融市場では、インドネシア資産に対する「格下げ」が意識されている。株式市場では、指数算出会社の3社(MSCI、FTSEラッセル、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス)がフロンティア市場への格下げの可能性を含めた審査を実施している。大手格付機関2社(ムーディーズ、フィッチ)も格付け見通しをネガティブに引き下げるなど、将来的な格下げの可能性を示唆している。こうした事情を反映して、年明け以降の主要株価指数(ジャカルタ総合指数)やルピア相場は調整の動きを強めるとともに、ルピア相場は6月に対ドルで最安値を更新するなど、資金流出圧力に直面した(図1)。次期総裁人事の行方によっては、市場の信認低下を通じて資金流出圧力が一段と強まる可能性に注意が必要である。

図表
図表

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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