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2023.10.10
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パキスタン、総選挙先延ばしの背後で治安情勢に不透明感が高まる
~治安情勢は最悪期を過ぎた経済に影響を与えるなか、日本にとっても無視出来ないことに要注意~
西濵 徹
- 要旨
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- パキスタンではコロナ禍や洪水による景気低迷に加え、外貨不足に伴うデフォルトが懸念される状況が続く。しかし、IMFによる支援決定のほか、中国による債務繰り延べなどを受けて外貨準備の減少に歯止めが掛かるなど最悪期を過ぎている。他方、過去数ヶ月はインフレが頭打ちに転じる動きがみられたが、商品市況の底入れを受けて底打ちしており、中東情勢の悪化などに伴い高止まりする懸念がくすぶる。8月の議会下院の解散を受けて、来月までに実施が予定された総選挙は選挙区の区割り変更を理由に来年1月まで先延ばしされる見通しとなっている。他方、隣国アフガニスタンでのタリバン復権以降、同国ではイスラム過激派によるテロが頻発し、総選挙を前にテロが活発化する動きもみられる。同国経済は最悪期を過ぎたが、治安情勢は経済に影響を与えるなか、その行方は日本経済にも無関係ではないことに要注意と言える。
ここ数年のパキスタンは、コロナ禍による景気低迷に加え、昨年は一時国土の3分の1が冠水する豪雨被害が直撃して主力産業である農業が壊滅的な打撃を受ける一方、商品高や国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ルピー安に伴う輸入インフレを追い風にインフレは大きく上振れして経済に深刻な悪影響が出たほか、外貨不足を理由に対外債務のデフォルト(債務不履行)に陥る懸念が高まった。同国政府はデフォルト回避を目的に、友好国を中心とする諸外国に対して資金支援を要請したほか、IMF(国際通貨基金)からの支援受け入れに向けて燃料補助金の廃止をはじめとする財政引き締めに舵を切るとともに、金融引き締めに動くなどの対応をみせた。こうした政策面での努力を受けて、IMFは7月に総額22.5億SDR(約30億ドル)規模のスタンドバイ取極に基づく金融支援が理事会で承認されるとともに、直後に8.94億SDR(約12億ドル)の融資が実施されるなど経済の立て直しに向けた動きは着実に前進している(注1)。さらに、その後も中国政府が新たに6億ドル相当の融資借り換えを承認したほか、中国輸出入銀行も24億ドル相当の同国向け融資の返済を2年間繰り延べすることで合意するなどの動きもみられる。こうした動きも追い風に、一時は外貨準備高が月平均輸入額の1ヶ月分にも満たない推移が続くなど危機的状況に直面したが、8月末時点の外貨準備高は47.70億ドルに増加して月平均輸入額の1.08ヶ月分となっており、依然低水準ではあるものの最悪期を過ぎていると捉えられる。他方、昨年末以降は商品高や米ドル高の動きが一巡したことを受けて、世界的にインフレが頭打ちに転じる動きがみられたものの、同国ではルピー安が収まらず輸入インフレ圧力が掛かる展開が続いたことでインフレ率が一段と上振れする展開が続いた。なお、IMFによる支援決定も追い風にルピー安の動きに一服感が出たことに加え、外貨の節約を目的にロシア産原油を割安な価格で輸入するなどの取り組みを進めたこともあり(注2)、今年5月を境にインフレ率は頭打ちに転じる動きが確認されてきた。しかし、足下では主要産油国による年末までの自主減産延長の動きに加え、異常気象の頻発を理由に農産物の禁輸、輸出制限の動きが広がりをみせるなかで商品市況は再び底入れの動きを強めるなど、インフレの再燃に繋がる動きが顕在化している。さらに、中東情勢を巡る不透明感が高まる動きがみられるなど一段と原油価格が上振れすれば、インフレ鎮静化の道筋がみえない展開が続くことも予想される。他方、同国政界を巡っては、カーン前首相の失職を機に同氏に近い多数の議員が辞職した結果、議会下院は4割近くが空席となる異常事態が続くなか、8月にシャリフ首相が議会下院の解散を決定したことで『政治の季節』は佳境を迎えている。憲法規定を勘案すれば来月上旬までに総選挙を実施する必要があるものの、先月末に選挙管理委員会は最新の国勢調査に基づく選挙区の区割り変更が必要であることを理由に、早くとも実施は来年1月下旬にずれ込むことを明らかにしている。他方、カーン前首相を巡っては。8月末に高等裁判所が同氏に対する有罪判決(首相在任中に外国首脳から受領した寄贈品の売却に関して政府への報告を怠ったもの)の効力を停止する決定を下したものの、別の容疑(国家機密の漏洩)を理由に保釈は見送られたため、現時点において次期総選挙に出馬出来ない状況にある。こうしたなか、同国においては隣国のアフガニスタンにおいてイスラム主義組織のタリバンが復権して以降、過激派による越境攻撃が増加するなど治安情勢が悪化する動きがみられるなか、過激派組織のISがイスラム強硬派と繋がりが深いとされる保守派政党を標的とする自爆テロを展開している。先月末にも南西部や北西部などにおいてイスラム過激派による自爆テロが相次いで発生したことを受けて、同国政府はすべての不法移民を対象に今月末までに国外退去を命じるなど、強硬手段に訴える動きをみせている。他方、ISをはじめとするイスラム過激派は、中国が一帯一路の一環として支援する中国パキスタン経済回廊を非難するとともに、関連権益を対象に断続的なテロ攻撃を展開してきた経緯があり、今後も同様の動きが激化していく可能性がある。同国はインド洋における地政学上重要な要衝のひとつであるなか、同国の動向はシーレーンを通じて日本経済にとっても決して無関係ではないことを勘案すれば、経済の立て直しのみならず、治安情勢の行方にも注意を払う必要性が高いと捉えられる。



注1 8月2日付レポート「パキスタン、経済の立て直しが緒に就く一方、治安情勢の不安が再燃」
注2 6月13日付レポート「パキスタンがロシア産原油輸入を開始、人民元建で決済している模様」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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