インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

マレーシアも世界的に広がる「資源ナショナリズム」に傾斜へ

~時期やその影響は不透明ながら、資源国に広がる動きや行方に注意を払う必要性は高まっている~

西濵 徹

要旨
  • ここ数年、資源国において「資源ナショナリズム」の動きが広がりをみせており、ドミノ的に左派政権への移行が進む中南米諸国で顕著になっている。なお、アジアでも左派政権ではないものの、インドネシアやフィリピンがすそ野産業の拡充を目的に資源ナショナリズムに傾く姿勢をみせる。こうした動きが広がる背景には、資源関連収入の国内還流、投資拡大による産業のすそ野拡充、環境配慮を目指すほか、近年の新興国の発言力拡大など環境変化も影響していると考えられる。こうしたなか、マレーシアのアンワル首相もレアアースの禁輸を目指す姿勢を示している。具体的な時期は不透明だが、中国に代わる調達先を模索する動きが広がるなかでその波に乗ろうとの思惑が透けてみえる。鉱物資源を海外からの輸入に依存するわが国にとっては、資源国における動きやその行方に注意を払う必要性は高まっていると判断出来る。

ここ数年、いわゆる『資源国』とされる国々が多い中南米諸国においては、社会経済格差の拡大に加え、ここ数年のコロナ禍による経済の混乱も重なり、ドミノ的に左派政権が誕生する『ピンクの潮流』と呼ばれる動きが広がりをみせている。左派政権が誕生している背景には、新自由主義的な経済政策が採られてきた背後で社会経済格差が広がり、国民の間に社会主義的な経済政策への転換を求める声が強まったことがある。さらに、左派政権は資源関連産業の国有化を進めることにより、資源関連収入の国内還流を優先するとともに、増大する社会政策に関連した歳出の裏打ちとすることを目指しているものと捉えられる。事実、中南米ではチリにおける銅、メキシコの銀、ボリビアの錫、ペルーの鉛や亜鉛といった世界的に比較して埋蔵量が豊富な鉱物資源を対象に国有化を目指す動きが広がっている。さらに、世界的なEV(電気自動車)普及拡大を受けて電池の電極材料として注目を集めるリチウムを巡っても、チリ(注1)やメキシコ、ペルーが国有化を目指す動きも確認されている。こうしたいわゆる『資源ナショナリズム』の動きを巡っては、アジアの資源国においても国有化とは異なる形で広がりをみせる流れが出ている。インドネシアのジョコ・ウィドド政権は左派ではなく、国有化に舵を切る動きこそみせないものの、精錬・精製といったすそ野産業の拡大による雇用機会の創出を目指してニッケルの未加工鉱石の禁輸に動いたほか(注2)、その後もボーキサイトや銅にもその対象を広げるとともに、輸出税を課すなどの対応を強化している。フィリピンのドゥテルテ前政権も左派政権ではなかったものの、インドネシアの真似をする形でニッケル関連産業の高付加価値化を目指す動きをみせており、マルコス現政権もこうした動きに意欲をみせていることを勘案すれば、今後も推進されることが予想される。なお、このように資源国において資源ナショナリズムの動きが広がりをみせている背景には、近年の資源価格の高騰にも拘らずその利益が充分に国内に還元されていない、経済成長のすそ野が広がらない、採掘の背後で環境問題が顕在化していることが挙げられる。他方、このところの世界経済を巡っては、G7(主要7ヶ国・地域)など主要先進国のGDPが占める割合が5割を下回るなど存在感の低下が進む一方、いわゆるグローバル・サウスと称される新興国・途上国の存在感とともに、その発言力が高まっていることも影響しているとみられる。さらに、ここ数年の世界においては米中摩擦に加え、デリスキング(リスク低減)を目指したサプライチェーンの見直しの動きが広がり、鉱物資源に関連して中国に代わる調達先を模索する流れを追い風にしたいとの思惑も影響していると考えられる。こうしたなか、アジア有数の資源国であるマレーシアにおいてもアンワル首相が資源の搾取や損失を防ぐとともに、国内産業の促進を図ることを目的に、レアアース(希土類)の輸出を禁止する方針を明らかにしている。具体的な時期については明言していないものの、同国内での原材料加工の促進を通じたすそ野産業の拡大によるビジネスモデルの創出に加え、雇用機会の拡大を通じて実体経済の押し上げに資するとの考えを示している。米国地質調査所(USGS)の最新データに基づけば、同国におけるレアアースの推定埋蔵量は3万ドルに留まるものの、中国が4,400万トンと世界最大(世界の33.8%)の埋蔵量を誇るなか、上述のようにデリスキングによる中国に代わる調達先の多様化を目指す動きが広がるなかで対内直接投資の呼び込みを狙ったものと捉えられる。なお、アンワル政権がこうした内向き姿勢を強めている背景には、先月実施された州議会選挙において政権を支える与党連合が都市部を中心にすべての州で議席を減らすなど厳しい審判が下される一方、宗教保守色の強い政党が躍進を果たしたことも無関係ではないと考えられる(注3)。その意味では、今後も資源国において直接投資の呼び込みを目的とした動きが広がりをみせることも考えられ、様々な鉱物資源を海外からの輸入に依存するわが国にとってこうした動きの行方に注意を払う必要性は高まっている。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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