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2023.08.18
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マレーシア、4-6月は前年比で鈍化も、景気の実態は底入れを確認
~前期比年率では+6.32%の堅調な推移、ただ先行きは内・外需双方で不透明要因が山積の模様~
西濵 徹
- 要旨
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- マレーシアを巡っては、昨年は内・外需双方で底入れが進んで22年ぶりの高成長を記録した。しかし、インフレ昂進を受けて中銀は断続利上げを余儀なくされて物価高と金利高が共存したほか、世界経済の減速も重なり、年後半にかけて景気は頭打ちした。足下のインフレ率は鈍化するも、リンギ安圧力がくすぶり中銀は難しい対応を迫られるなか、世界経済の不透明感も増すなど景気の不安材料は山積する状況が続く。
- なお、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率+6.32%と2四半期連続のプラスで推移するなど景気の底入れが確認されている。インフレ鈍化が家計消費を押し上げたほか、公共投資の進捗は政府消費や固定資本投資を押し上げるなど、幅広く内需は堅調な推移をみせる。また、在庫調整の動きも確認されており、足下の景気の内容は見た目以上に良いと捉えられる。先行きは中国の団体旅行解禁は追い風となり得るも、世界経済の減速懸念や金利高の長期化が内・外需双方の足を引っ張ることは避けられないと見込まれる。
- 昨年の総選挙を経て誕生したアンワル政権を巡っては、縁故主義的な動きが顕在化する動きもみられ、その行方に注目が集まる。13日に実施された「信任投票」的な意味合いの強い6州での州議会選は、勢力こそ選挙前と同じ構図を維持したが、与党連合にとって厳しい内容となった。他方、宗教右派色の強い野党が躍進する動きもみられ、今後は経済の動き同様に政治の動きにも注意を払う必要性は高まっている。
マレーシア経済を巡っては、昨年は感染一服による経済活動の正常化が進むとともに、欧米など主要国を中心とする世界経済の回復も追い風にコロナ禍により疲弊した経済の回復が進み、昨年の経済成長率は+8.7%と22年ぶりの高成長となった。他方、同国経済はGDPに占める輸出の割合が8割弱とASEAN(東南アジア諸国連合)内でも輸出依存度が比較的高い上、財輸出に占める約2割、コロナ禍前には外国人観光客の1割強を中国(含、香港・マカオ)が占めるなど、中国経済への依存度が比較的高い。こうしたなか、中国によるゼロコロナ戦略への拘泥が景気の足かせとなる展開をみせたことは同国経済にとって外需の重石となることが懸念された。さらに、昨年は商品高による生活必需品を中心とする物価上昇、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨リンギ安に伴う輸入インフレ、景気回復を追い風とする賃金インフレが重なり、インフレ率が大きく上振れした。よって、中銀は物価抑制を目的に昨年5月にコロナ禍後初の利上げに動き、その後も物価と為替の安定を目的に断続利上げを余儀なくされたため、物価高と金利高の共存は家計消費など内需の足かせとなることが懸念された。事実、上述のように昨年通年の経済成長率は高水準となるも、年後半にかけては内・外需双方で重石となる動きが顕在化して景気は頭打ちの様相を強めた。なお、インフレ率は昨年8月を境に頭打ちに転じている上、年明け以降は商品高の一服に加え、米ドル高の動きも一巡するなどインフレ要因が後退しており、足下では頭打ちの動きを強めている。賃金インフレも追い風に高止まりしたコアインフレ率も昨年末を境に頭打ちに転じているものの、足下では依然としてインフレ率を上回る伸びが続いている。中銀はインフレが頭打ちに転じたことを理由に、今年1月に半年強に及んだ利上げ局面を一旦休止させたものの、中国景気を巡る不透明感やそれに伴う商品市況の調整がリンギ安を招くなど、輸入インフレの再燃が警戒されたことを受けて5月には3会合ぶりの利上げ実施に動くなど難しい対応を迫られてきた。先月には中銀総裁が交代し、新総裁の下での初会合においては再び利上げ局面を休止させたものの、足下のリンギ相場は調整の動きを強めるなどインフレ圧力がくすぶるなかで難しい判断を求められる局面が続いている。インフレ鈍化を受けて家計部門にとっては実質購買力の押し上げに繋がることが期待されるほか、中国政府が海外への団体旅行の解禁に動いたことはコロナ禍からの回復道半ばの状況にある観光関連産業にとって追い風となることは間違いないと捉えられる。ただし、国際金融市場においては米FRB(連邦準備制度理事会)が一段の金融引き締めに動くとの観測がくすぶるなか、商品市況の調整の動きも重なりリンギ相場に下押し圧力が掛かりやすい環境にあるなど、中銀にとってはインフレ鈍化にも拘らず金融緩和のハードルが極めて高い状況にある。その意味では、足下の同国経済にとっては世界経済を巡る不透明感に加え、金利高が内需の重石となることが懸念される状況にある。


このように、足下のマレーシア経済にとっては内・外需双方に不透明感がくすぶる動きがみられるものの、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率+6.32%と前期(同+3.82%)から2四半期連続のプラス成長で推移するなど、昨年末にかけて頭打ちの動きを強めた流れから一転底入れの動きを強めている様子が確認されている。なお、中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率は+2.9%と前期(同+5.6%)から鈍化して約2年ぶりとなる低い伸びとなっているものの、これは昨年の4-6月が感染一服による経済活動の正常化を追い風に高い成長を記録した反動が出ていることに留意する必要がある。事実、季節調整値ベースの実質GDPは昨年7-9月を上回りコロナ禍後で最も高い水準となっており、その意味では同国経済は着実に底入れしていると捉えられる。需要項目別では、世界経済の減速懸念の高まりを反映して輸出は力強さを欠く動きが続く一方、インフレ鈍化による実質購買力の押し上げを追い風に家計消費が大きく押し上げられている。また、インフラ関連をはじめとする公共投資の進捗の動きを反映して政府消費や固定資本投資も押し上げられているほか、昨年来の中銀による利上げ実施にも拘らず企業部門の設備投資意欲も底堅く推移しており、幅広く内需は底入れの動きを強めている。さらに、こうした動きを反映して輸入は輸出を上回るペースで拡大しており、純輸出(輸出-輸入)の成長率寄与度は前期比年率ベースで▲3.42ptと2四半期連続でマイナス寄与になったと試算される上、在庫投資の寄与度も同▲3.23ptと試算されるなど在庫調整が進んでいる様子もうかがえる。よって、1-3月は2四半期ぶりのプラス成長になるなど景気の底打ちが確認される一方、その内容は不透明要因が山積するものであったものの(注1)、当期については状況が改善していると捉えられる。分野別の生産動向を巡っても、家計消費など内需の堅調さを受けてサービス業の生産は底入れの動きを強めているほか、公共投資の進捗を反映して建設業の生産も大きく押し上げられている。一方、外需を巡る不透明感は製造業の生産の重石になっているほか、商品市況の調整の動きは鉱業部門の生産の下振れを招いている上、異常気象を反映して農林漁業関連の生産も減少傾向が続くなど、業種ごとの跛行色がこれまで以上に鮮明になっている。他方、中銀は今年の経済成長率見通しを+4~5%としており、年前半の経済成長率は+4.2%とこの範囲内に留まる一方、先行きについては中国による団体旅行客解禁の動きは関連産業の追い風となり得る一方、世界経済の減速懸念の高まりが外需の足かせとなることは避けられず、一段の下振れは避けられないと見込まれる。当研究所は今年の経済成長率は+3.4%と中銀見通しを下回ると予想しているが(注2)、現時点においてはこれを据え置く。


なお、同国では昨年11月に実施された連邦議会下院(代議員)総選挙の後、いずれの党も単独で半数を上回る議席が獲得することが出来ず、各政党が政権誕生に向けて綱引きを展開するなど政治空白に陥ることが懸念された。最終的にはアブドラ国王が仲裁する形で政党間協議が進められ、アンワル氏が率いる政党連合PH(希望連合)とBN(国民戦線)などが大連立構築で合意し、アンワル氏が20年以上の時間を経て政権奪取を果たすことに成功した。他方、アンワル首相を巡っては財務相を兼務するなか、自身の長女(ヌルル・イザー前下院議員)を経済・財政担当の上級顧問に任命するなど、経済運営に関するすべての権限がアンワル家に集中する動きが顕在化する動きがみられる。アンワル氏は元々、同国政界にまん延する縁故主義を痛烈に批判してきたほか、2018年の総選挙では構造改革と政治刷新を旗印にしたクリーンさを前面に押し出す形で独立後初の政権交代を主導し、昨年の総選挙でも同様の政権公約を掲げた経緯があり、政権の足下を揺るがすことが懸念された。今月12日には6州において州議会選挙が実施され、アンワル政権の発足後初めての主要選挙であることから『初めての信任投票』と見做されたことでその行方に注目が集まった。選挙結果は、PHを中心とする与党連合が首都圏のスランゴール州、ペナン州、ヌグリ・センビラン州の3州、野党連合のPN(国民同盟)はクランタン州、トレンガヌ州、ケダ州の3州で勝利するなど、選挙前と同じ構図が維持された格好である。なお、与党連合は都市部を中心にすべての州で議席を減らすなど厳しい審判が下されるとともに、与党連合に加わったBNは惨敗を喫するなど党勢衰退が一段と露わになった格好である。他方、野党連合のPNのなかでは宗教保守色の強い政党である汎マレーシア・イスラム党(PAS)が前回総選挙同様に躍進を遂げる様子が確認されており、同国政界においても今後は宗教右派の動きがカギを握る可能性が高まっている。今回の結果を受けてアンワル政権による政権運営に支障が出る見通しは極めて低いものの、上述のように与党連合に対する支持が低下する兆候がみられるなか、先行きの景気に対する不透明感も強まるなかで政権を取り巻く状況は徐々に厳しさを増す展開も考えられる。その意味では、政治の動きと同様に経済の動きにも注意を払う必要性は高まっている。
注1 5月12日付レポート「マレーシア景気は一旦底打ちも、外部環境を中心に不透明要因は多い」
注2 8月17日付レポート「グローバル(日米欧亜)経済見通し(2023年8月)」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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