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2023.08.14
新興国経済
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ロシア経済
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ウクライナ問題
ロシア景気は想定以上の速さで底入れも、中銀は物価高とルーブル安に苦慮
~ウクライナ情勢は見通しが立たないなか、テクノクラートは「板挟み」状態に追い込まれる展開が続く~
西濵 徹
- 要旨
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- ロシア経済は、同国のウクライナ侵攻を理由に欧米などが経済制裁に動く一方、中国などの「友好国」や欧米にも中ロにも同調しない「中間派」の国々との貿易が制裁の「抜け穴」となる状況が続く。また、ロシアやサウジが自主減産に動いて原油相場の底入れを促しており、ロシア産原油の価格は上限を上回るなど戦費調達は容易になっている。さらに、制裁の抜け穴も追い風に景気は底入れの動きを強めており、今年4-6月の実質GDP成長率は前年比+4.9%とプラスに転じ、季節調整値ベースでもウクライナ侵攻前を回復している模様である。他方、労働力不足やルーブル安がインフレ圧力を招くことを警戒して、中銀は先月に戦争中にも拘らず利上げに動いたが、直近7月のインフレ率は中銀目標を上回るなど一段の金融引き締めを迫られる可能性が高まっている。中銀はルーブル安懸念に対応して財政規則に基づく外貨買入を年末まで停止する決定を行ったが、ルーブル安阻止には一段の強力な措置を迫られる可能性は高い。ウクライナ情勢の見通しが立たず、テクノクラートは「板挟み」の状況に追い込まれる状況は避けられないであろう。
ロシア経済を巡っては、同国によるウクライナ侵攻を受けて欧米などが経済制裁に動く一方、中国をはじめとする経済制裁に同調しない『友好国』や欧米にも中ロにも同調しない『中間派』の国々との直接貿易のほか、これらの国々を通じた迂回貿易、並行貿易の拡大を通じて制裁の影響を回避する動きがみられる。結果、欧米などによる経済制裁が強化された直後は物資不足を理由に幅広い経済活動に悪影響が出たほか、商品高や通貨ルーブル相場の急落に伴う輸入インフレも重なり大幅にインフレが加速する事態に直面するなど、景気が急減速する事態に見舞われた。しかし、上述のように様々な形で欧米などの経済制裁の『抜け穴』の動きが広がるとともに、同国にとっての主力の輸出財である原油や天然ガスなどの国際価格が上振れしたことも重なり、その後の景気は一転底入れの動きを強めている。なお、昨年末以降は世界経済の減速が意識される形で原油などの国際商品市況は頭打ちの動きを強めたことを受けて、同国政府は今年3月に自主減産を実施し、同国同様に原油相場の下支えを目指すサウジアラビアなどの産油国も今年5月に自主減産に、サウジは7月と8月を対象に一段の追加減産に動くなどの対応をみせている(注1)。結果、足下の原油価格は供給不足が意識される形で底入れの動きを強めており、足下のロシア産原油の価格はG7(主要7ヶ国)とEU(欧州連合)、豪州が合意した上限を上回る推移が続くなど、戦費調達を下支えする格好となっている。さらに、今年4-6月の実質GDP成長率(速報値)は前年同期比ベースで+4.9%と5四半期ぶりのプラスに転じており、昨年の同時期は欧米などの経済制裁の影響で大きく下押し圧力が掛かった反動が出ていることを考慮する必要はあるものの、大きく底入れの動きを強めている模様である。分野別では、ウクライナの東部や南部における復興進捗を反映した建設需要を反映して建設業の生産が大きく押し上げられているほか、卸売や小売などサービス業の生産も堅調な推移をみせており、欧米などの経済制裁の影響が完全に一巡しているものと捉えられる。また、仮にこの数値を元に季節調整値ベースの実質GDPを試算すると、ウクライナ侵攻直前の水準を上回るなど、想定以上のペースで欧米などの経済制裁の影響を克服している模様である。他方、このように足下の景気が底入れの動きを強めていることを受けて、インフレ圧力が強まるなど新たなリスクが高まる動きもみられる。昨年に大きく上振れしたインフレ率は、年明け以降にその反動で大きく下振れして中銀目標を下回る動きをみせたものの、中銀は先月の定例会合において1年強ぶりの利上げに舵を切るなど、戦争中にも拘らず金融引き締めに動く異例の対応をみせている(注2)。その理由について、中銀は需要拡大の動きが労働力不足に伴う生産能力を上回る状況が続いていることに加え、ルーブル安による輸入インフレを警戒する姿勢をみせている。こうしたなか、上述のように足下の景気が中銀想定を上回るペースで底入れの動きを強めていることも影響して、直近7月のインフレ率は前年比+4.3%と早くも中銀目標(4%)を上回る水準に転じており、中銀は一段の金融引き締めを迫られる可能性が高まっている。そして、上述のように原油の国際価格は底入れしているものの、足下のルーブル相場は調整の動きを強めるなど輸入インフレ圧力に繋がることが懸念されるなか、中銀はルーブル安阻止を目的に財務省に代わって実施している外貨買入を年末まで休止する決定を行っている。なお、同国の予算規則では、原油・ガス収入に関連して収入不足の際はソブリン・ウェルス・ファンドである国民福祉基金が外貨を売却する一方、収入超過の際は外貨の買入を行うこととなっており、中銀がその実務を担う役割を負っている。原油などの国際価格の底入れを受けて収入超過が生じるなかで外貨の買入を行わざるを得ない状況を示唆しているが、その背後で中銀は難しい対応を迫られていることは間違いない。その意味では、今後はルーブル相場の安定を目的に一段の措置を迫られることは避けられないものの、戦争中にも拘らず大幅利上げを実施するハードルは高いなかで『複雑なパズル』を説く対応が迫られる局面が続くことは避けられず、ウクライナ情勢の見通しが立たないなかでテクノクラートは『板挟み』の状況に追い込まれることになろう。



注1 7月4日付レポート「サウジとロシアは自主減産により「同じ夢」をみることが出来るか」
注2 7月24日付レポート「ロシア中銀、戦争中にも拘らずインフレを警戒して大幅利上げを決断」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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