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2023.04.21
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ウクライナ問題
ロシア経済は中国との結び付きを強めるなかで新たな問題も顕在化
~人民元決済の拡大に伴うルーブル安圧力は新たな輸入インフレ圧力を招く可能性も~
西濵 徹
- 要旨
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- ロシアによるウクライナ侵攻から1年以上が経過するが、依然見通しの立たない状況が続く。欧米などの制裁はロシア経済に深刻な打撃を与えると予想されたが、商品市況の上振れによる交易条件の改善や輸出以上に輸入が減少したことで昨年の経済成長率は▲2.1%に留まった。足下では中国やインドへの輸出拡大、「同盟国」を通じた輸入拡大により国民生活への悪影響は緩和しているとみられ、企業マインドもサービス業を中心に改善する。G7は制裁強化を模索するが、同盟国による「抜け穴」はその影響を相殺している。
- 昨年のインフレ上振れの反動により、3月のインフレ率は大幅に鈍化して目標を下回る水準となった。しかし、財政状況の悪化や労働力不足などによるインフレ圧力はくすぶる展開が続く。欧米の制裁などに伴い外貨準備高は一時減少したが、昨年末以降は再び増加に転じており、財政面では依然継戦能力は高いと捉えられる。他方、中国との経済深化により人民元決済が拡大するなかで足下のルーブル相場は人民元に対して調整するなどルーブル安圧力を招いており、今後は輸入インフレ圧力が強まる可能性もあろう。
ロシアによるウクライナ侵攻から1年以上が経過しているものの、依然として見通しの立たない状況が続いている。他方、ロシアによる侵攻開始を受けて欧米などはロシアへの経済制裁を強化したほか、その後も事態が長期化していることを受けて制裁対象を拡大させてきた。また、昨年末にはG7(主要7ヶ国)とEU(欧州連合)、豪州がロシア産原油を1バレル=60ドルとする上限設定で合意し、今年2月からは石油製品に対して軽油やガソリンなどは1バレル=100ドル、重油などは1バレル=45ドルとする上限設定で合意するなど『圧力』を強めている。欧米などの制裁強化を受けて、欧米資本を中心とするグローバル企業はレピュテーションリスク(評判リスク)を嫌気してロシア事業から撤退する動きをみせるなど、対内直接投資や証券投資は大きく縮小、後退している。なお、制裁強化による経済への悪影響が懸念されたものの、昨年の経済成長率は▲2.1%と前年(+5.6%)から2年ぶりのマイナス成長に転じるも、当初において大幅マイナス成長に陥るとみられた状況は回避された。この背景には、欧米などの制裁により輸出量は下振れする一方、需給ひっ迫懸念を受けた原油をはじめとする商品高が交易条件の改善を通じて国民所得を下支えしたほか、輸入は輸出を上回るペースで減少したことでGDPの下振れが抑えられたことが影響したと捉えられる(注1)。欧米などの制裁強化の影響が最も色濃く現われた昨年4-6月は前期比年率▲17.69%と大幅マイナス成長となるも、7-9月(同+2.10%)、10-12月(同+2.21%)とプラス成長となり緩やかに底入れするなど最悪期を過ぎつつあると捉えられる。なお、10-12月には欧米などの制裁強化に伴い下押し圧力が掛かった輸出が大きく底入れしており、中国やインドなどがロシア産原油を拡大させていることが影響しているとみられる一方、欧米などの制裁に加わっていない『同盟国』からの輸入拡大のほか、同盟国を経由した並行輸入により欧米などからの輸入減少を補う動きが確認されている。その結果、足下の景気底入れの動きが緩やかなものに留まる一因になっている。ただし、その後も同盟国による輸入や同盟国を経由した並行輸入の拡大により欧米などの制裁による悪影響は緩和されているとみられ、年明け以降の企業マインドはサービス業を中心に改善の動きを強めるなど、一見すればその影響を克服していると捉えられる。G7などはロシアに対する全面禁輸など一段の制裁強化を検討している模様であるが、上述のように同盟国による『抜け穴』がその効果を相殺することで結果的にロシアへの圧力が効きにくい状況が続くことが予想される。


なお、欧米などの制裁強化を受けた通貨ルーブル相場の調整に伴う輸入インフレに加え、商品高の動きも重なりインフレ率は大きく上振れしたものの、その後のルーブル相場は落ち着きを取り戻しているほか、同盟国からの輸入、及び並行輸入により需給ひっ迫懸念が後退したため、インフレ率は昨年5月をピークに頭打ちの動きを強めてきた。さらに、直近3月のインフレ率は昨年に大きく上振れした反動で大きく鈍化して前年同月比+3.51%となっているほか、コアインフレ率も同+3.74%とともに中銀の定めるインフレ目標(4%)を下回る水準となるなど、一見するとインフレが収束している様子がうかがえる。しかし、これは統計における『前年のウラ』が大きく影響していることを考慮する必要があり、3月についてもインフレ率は前月比+0.37%、コアインフレ率も同+0.37%と上昇傾向が続いている。さらに、ウクライナ侵攻に伴う軍事費増大に加え、戦争状態の長期化により国民の不満増大を抑える観点から政府は最低賃金の大幅な引き上げや年金給付額の拡充、子育て世代や公務員に対する現金給付、企業の資金繰り支援や補助金給付などのバラマキ政策を展開している。そして、戦闘長期化による労働力不足の深刻化は賃金上昇を通じて新たなインフレ圧力となることも懸念される。他方、欧米などの制裁強化による上限設定が歳入の下押し要因となることが懸念されたものの、中国やインドなどによる輸入拡大に加え、主要産油国であるOPECプラスが自主的に追加減産に動いたことも重なり(注2)、足下では上限を上回る推移が続いている。なお、ウクライナ侵攻直後に政府が公表を取り止めた外貨準備高を巡っては再び公表されている。それによれば、外貨準備高は年央にかけて減少が確認されるなど国際金融市場における米ドル高を受けた目減りのほか、軍事費調達に向けたソブリン・ウェルス・ファンドである国民福祉基金の取り崩しの動きが影響した可能性があるものの、昨年末以降は米ドル高の一服の動きも重なり再び増加に転じており、財政面での『継戦能力』は依然として極めて高いことがうかがえる。他方、昨年大きく調整したルーブル相場はその後に落ち着きを取り戻すとともに、一転上昇する動きをみせてきたものの、足下においてルーブル相場はじり安の展開となっている。中銀は足下のルーブル安について輸出業者による納税などを目的とする外貨売却が減少したことが影響していると説明しているものの、上述のように中国との貿易が急拡大するなかでこの動きに呼応する形で人民元を通じた決済取引が急拡大しており、人民元需要の拡大を反映してルーブルの対人民元相場が調整していることが影響している可能性がある。その意味では、ロシア経済は急速に中国経済との連動の動きを強めているとみられる上、ルーブル相場の対人民元での下落が新たな輸入インフレ圧力となる可能性にも注意が必要と言える。



注1 2月24日付レポート「ロシア経済が当初の想定に比べて下振れしなかったのは何故か?」
注2 4月3日付レポート「OPECプラスが予想外の追加減産決定、価格下支えの動きを強める」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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