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2023.07.21
アジア経済
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トルコ中銀、追加利上げを約束も「馬力不足」感は否めない
~一段の引き締め継続を明言も、実質金利はマイナスと投資妙味は乏しく、リラ相場は厳しい状況が続く~
西濵 徹
- 要旨
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トルコで5月に実施された大統領選ではエルドアン氏が再選を果たし、新たな政権の下での政策運営に注目が集まった。財務相にシムシェキ氏、中銀総裁にエルカン氏が選ばれ、正統的な金融政策に舵が切られることへの期待が高まった。先月に開催された新体制下初の金融政策委員会では利上げが決定されたものの、利上げ幅は事前の市場予想を下回るものに留まり、反ってリラ安が進む事態を招いた。足下のインフレは依然高止まりしており、リラ安の悪影響が懸念されるなか、中銀は20日の定例会合でも2会合連続の利上げを決定するも、利上げ幅は250bpと前回会合を下回った。先行きについて一段の引き締めを継続する考えをみせるも、実質金利は大幅マイナスが続くなど投資妙味の乏しい状況は変わらない。足下の外貨準備高も過小状態が続くなか、リラ相場を巡る状況は厳しい展開となることは避けられないと予想される。
トルコでは、5月に実施された大統領選においてエルドアン氏が再選を果たした(注1)。これを受けて、エルドアン氏は2003年に当時の議院内閣制に基づく首相に就任し、その後は2014年に大統領に転じるとともに、2017年の憲法改正を受けて実権型大統領となるなど、過去20年の長期に亘って政権に当たってきたが、新たな政権任期を歩み始めている。他方、エルドアン政権が長期化した背後では、与党AKP(公正発展党)や政府にはエルドアン氏の『イエスマン』のみが登用される状況が続き、様々な面でエルドアン氏が目指す『新オスマン主義』に基づく政策運営が行われてきた。経済政策を巡っては、不労所得を禁じることを目的に高金利政策からの脱却を目指し、エルドアン氏は『金利の敵』を自任するとともに、高インフレにも拘らず低金利を志向する経済学の定石では考えられない政策運営が志向された。ただし、こうした政策を志向するなかで中銀との軋轢が表面化する動きがみられ、2019年以降には3代連続(チェティンカヤ氏、ウイサル氏、アーバル氏)で総裁が更迭されるとともに、その後も副総裁や政策委員も更迭されるなど、その独立性が危ぶまれる動きが顕在化した。結果、中銀は金融市場からの信認を失うとともに、通貨リラ相場も大きく調整して輸入インフレ圧力が強まり、昨年来の商品高も重なりインフレ率は大きく加速する事態を招いた。その後は商品高の動きが一巡していることを受けてインフレ率は頭打ちに転じているものの、依然高止まりしているほか、最低賃金の大幅引き上げや年金受給開始年齢の実質引き下げなどを受けてコアインフレ率は再加速しており、インフレの鎮静化にほど遠い状況が続いている。こうしたなか、大統領選を経て発足した新政権においては、かつて財務相と経済担当副首相を務めて金融市場からの信認が厚いシムシェキ氏を財務相に(注2)、米国金融業界での経験が豊富なエルカン氏を中銀総裁に据えるなど金融市場に一定の配慮を示す動きがみられた(注3)。なお、先月には新体制の下で初めての金融政策委員会が開催され、3年3ヶ月ぶりの利上げ実施を決定するなどインフレ抑制を目的とした『正統的』な政策運営に舵が切られたものの、利上げ幅が事前の市場予想を大きく下回ったことで反ってリラ安に歯止めが掛からない事態を招いた(注4)。リラ安に歯止めが掛からない事態を招いた背景には、新体制の下ではリラ安阻止に向けた為替介入や事実上の資本規制といった措置が変更されるとの思惑が影響したとみられる。こうしたなか、20日に新体制下で2回目となる金融政策委員会が開催され、政策金利である1週間物レポ金利を250bp引き上げて17.50%とする決定を行うなど、利上げ幅は先月(650bp)から縮小するとともに、今回も事前の市場予想を下回る対応に留まった。会合後に公表した声明文では、今回の決定について「出来る限り早くディスインフレ軌道を確立し、インフレ期待の安定化を図り、価格決定行動の悪化を抑制すべく金融引き締めプロセスの継続を決定した」として、前回会合とほぼ同じ文言を示した。なお、足下の物価動向について「内需の堅調さ、賃金やリラ相場に起因するコスト上昇圧力、サービスインフレの粘着性を理由にインフレ基調の上昇が示唆される」とした上で、先行きについて「税制や価格決定行動の悪化が一段のインフレ圧力に繋がると予想する」との見方を示している。その上で、政策運営の決定について「基調的なインフレの低下や中期目標の実現に向けて必要な財政・金融環境を醸成すべく決定され、インフレ見通しの大幅な改善が実現されるまで『適時、且つ漸進的に必要なだけ』引き締めを強化する」と一段の金融引き締めを継続する姿勢をみせている。他方、前回会合と同様に「市場メカニズムの機能性向上とマクロ金融安定化のため、既存のマクロプルーデンス政策の枠組の簡素化と改善を進める」とした上で、「簡素化プロセスはその影響を分析しつつ段階的に進めるべく、量的引き締めと選択的な信用引き締めを行う」との考えを示している。そして、先行きの政策運営について「インフレ動向を注視しつつあらゆる手段を断固として行使する」とした上で、「データに基づく形で予見可能な枠組で決定を行う」との考えを強調している。中銀の決定については、金融市場が新体制に対して過大な期待を抱いて勝手に失望しているに過ぎないと捉えられるものの、足下の金融市場においては米FRB(連邦準備制度理事会)が高金利政策を長期に亘り維持するとの見方がくすぶるなか、多くの新興国がインフレ鈍化にも拘らず高金利政策を維持せざるを得ない事態に直面している。結果、多くの新興国で実質金利がプラス化して資金流入が促される動きがみられるものの、トルコについては2会合連続の利上げ実施にも拘らず実質金利は大幅マイナスの状況が続いており、投資家にとって投資妙味の極めて乏しい状態にある。その意味では、外貨準備高も極めて過小な状態が続いており、リラ相場を取り巻く環境は厳しい展開が続くことは避けられないと予想される。



注1 5月29日付レポート「トルコ大統領選、エルドアン氏が決選投票を制して幕を下ろす」
注2 6月5日付レポート「トルコ、新政権は市場に一定の配慮もリラ相場に明るい材料は乏しい」
注3 6月12日付レポート「トルコリラは新たな財務相と中銀総裁の下で輝きを取り戻せるか」
注4 6月23日付レポート「トルコ中銀、エルカン新体制下の初会合は大幅利上げもリラ安に歯止め掛からず」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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