インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

トルコ、新政権は市場に一定の配慮もリラ相場に明るい材料は乏しい

~シムシェキ氏の財務相就任も政策運営は困難を極める、外交面でも不透明要因が山積の状況が続く~

西濵 徹

要旨
  • トルコでは3日、先月の大統領選で勝利したエルドアン氏が就任の宣誓を行い、政権は3期目入りを果たした。今回の大統領選では長期に亘るリラ安とインフレが国民生活を苦しめるなど、エルドアン氏にとっては3度目の大統領選で初めて決選投票に持ち込まれるなど苦戦を強いられた。閣僚人事を巡ってエルドアン氏はかつて財務相と経済担当副首相を務めたシムシェキ氏と面談するなど、改革派閣僚の誕生が期待された。シムシェキ氏が財務相に就任したほか、政策の予見性向上に取り組む考えをみせるが、経済のファンダメンタルズが脆弱さを増すなかでの舵取りは困難を極めることは避けられない。外交面でも外務相に情報機関トップのフィダン氏を据えるなど、ウクライナ問題やスウェーデンのNATO加盟などでひと悶着ある可能性はくすぶる。リラ相場の安定は期待しにくく、先行きも不安定な地合いが続く可能性は高いと言えよう。

トルコでは3日、先月に実施された大統領選において勝利したエルドアン氏が就任の宣誓を行い、2014年から続くエルドアン政権は3期目入りを果たしている。エルドアン氏を巡っては、1993年に最大都市イスタンブールの市長に就任したことをきっかけに政治的な足場固めを図るとともに、その後に現在の最大与党であるAKP(公正発展党)を結党して党首に就任するとともに、2003年に当時の議院内閣制に基づく首相に就任して2014年まで3期に亘り首相を務めた。というのも、AKPの党規約では党首は最大連続3期まで、大国民議会議員の任期も3期までとされていたため、エルドアン氏は2014年に首相と同党党首を退任した上で同国初となる直接選挙で行われる大統領選に出馬し、当選して大統領に就任した。なお、同国の大統領は元々儀礼的な存在とされてきたため、エルドアン氏の大統領就任に際しては名目上では儀礼的な存在としつつ、大統領への権限集中を通じて実体上は実権型大統領に移行させる動きをみせた。さらに、2017年の憲法改正により議院内閣制が廃止されるとともに、名実ともに実権型大統領への移行が図られ、2018年の大統領選においてエルドアン氏が再選を果たしたことでエルドアン氏は『絶対的君主』としての足場固めを図った。また、AKPの党規約が維持されたことでベテラン議員が徐々に議員辞職を余儀なくされたことから、AKPや政府内にはエルドアン氏の『イエスマン』のみが残り、幅広い政策運営にエルドアン氏の意向が反映されやすい環境が築かれてきた。なお、現行憲法では大統領任期は2期までとされているものの、2期目に大国民議会が解散総選挙の実施を決定した場合は3期目入りが可能となる『例外規定』が盛り込まれていたため、今回の大統領選に際しては任期満了前の大国民議会の解散総選挙の実施が決定され、結果的にエルドアン氏が3期目入りを目指すことが可能になった経緯がある。過去20年に亘るエルドアン政権の下での経済成長率は世界金融危機を受けてマイナス成長を余儀なくされた2009年の前は平均で6%を上回り、その後も平均して6%を上回る堅調な伸びが続いており、経済規模は2.7倍となっている。こうした経済成長も追い風に、エルドアン政権が誕生した2003年の1人当たりGDPは4,685ドルであったものの、2008年には早くも1万ドルを上回るとともに、2013年には1.2万ドルを上回る水準に上昇するなど、経済面での躍進を大きく後押ししてきた。他方、エルドアン政権は当初こそ物価抑制を目的とする高金利政策を通じて海外資金の受け入れを積極化する動きをみせたものの、ここ数年はエルドアン氏が目指す『新オスマン主義』を内政、外交政策のみならず、経済政策にも援用するなかで不労所得を禁じる観点から高金利政策からの脱却を目指す姿勢をみせた。そうしたレトリックを元に同氏は『金利の敵』を自任するとともに、高インフレにも拘らず低金利政策を志向するという経済学の定石では考えられない政策を志向するとともに、結果的に中銀総裁や経済閣僚人事に介入して通貨リラの信認を著しく失墜させた。こうしたことは上昇基調を強めた1人当たりGDPがここ数年頭打ちする一因となり、インフレが常態化するとともに、昨年来の商品高を受けてインフレが大きく昂進する要因となってきた。結果、国民生活を取り巻く環境は厳しさを増したこともあり、今回の大統領選ではエルドアン氏は3度目にして初めて決選投票に持ち込まれるなど苦戦を強いられることに繋がったと考えられる(注1)。なお、エルドアン氏は大統領選後、新政権の発足に向けて閣僚候補などと面談を行い、なかでも改革派閣僚としてかつて財務相と経済担当副首相を務めるなど市場からの信認が厚いシムシェキ氏と面談したため、その処遇に注目が集まった(注2)。エルドアン氏が就任宣誓後に発表した閣僚名簿では財務相にシムシェキ氏が就任したほか、同氏は就任会見において経済政策の予見性向上に取り組むとともに、経済面で『合理的な根拠』に戻る以外の選択肢はないと述べるなど、エルドアン政権下で失墜した信認回復を目指す考えを示した。確かにシムシェキ氏が財務相や経済担当副首相を務めた2009~18年にかけてのリラ相場の調整の動きは緩やかなものに留まったものの、経常赤字と財政赤字の双子の赤字とインフレが慢性化するなど経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱さを理由に国際金融市場が動揺する度に資金流出の動きが強まるなどリラ安圧力に晒されてきた。足下では2月に発生した大地震の復興需要を理由に経常赤字、貿易赤字ともに赤字幅が拡大するなど経済のファンダメンタルズは悪化しており、仮に物価や為替の安定を目的に利上げを実施すれば景気に悪影響を与えるとともに、復興に支障が出ることで政権に逆風が吹くことも予想される。シムシェキ氏の財務相就任はエルドアン氏が金融市場に対して一定の配慮を示したと捉えられる一方、過去数年に亘って『実験的』な政策運営が行われてきたことの正常化は一朝一夕に行えるものではなく、シムシェキ財務相にとっては極めて大きな難題が待ち構えていることは間違いない。他方、同国はウクライナ問題でロシアとウクライナの『仲介役』を担う一方、NATO(北大西洋条約機構)加盟国としてスウェーデンの加盟申請に対して留保する姿勢を維持するなど重要な役割を担ってきた。新政権では外務相に情報機関である国家情報機構(MIT)のフィダン長官を任命するなど、これまで以上に外交工作を積極化させる可能性を示唆する動きもみられる。その意味では、リラ相場が本当の意味で安定する状況は期待しにくく、先行きも不安定な地合いが続く可能性は高いと判断出来る。

図表1
図表1

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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