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2023.06.23
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トルコ中銀、エルカン新体制下の初会合は大幅利上げもリラ安に歯止め掛からず
~金融市場が勝手に期待し、勝手に失望したに過ぎないが、不安山積の状況は何も変わっていない~
西濵 徹
- 要旨
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- 22 日、トルコ中銀はエルカン新総裁の下で初めての金融政策委員会を開催し、政策金利を 650bp 引き上げ15.00%とする決定を行った。先月の大統領選で再選を果たしたエルドアン氏は、財務相にシムシェキ氏、中銀総裁にエルカン氏を指名するなど、ここ数年で失墜した金融市場の信認向上に配慮する姿勢をみせた。金融市場ではエルカン氏が大幅利上げに動くことを期待する一方、インフレが高止まりするなかで過大な期待を抱いたため、結果的に市場予想を下回り、大幅利上げにも拘らずリラ安に歯止めが掛からない事態となっている。中銀は先行きの追加利上げに意欲をみせるも、来年 3 月に統一地方選が予定されるなど景気下支えに意識が向かいやすい上、過去にエルドアン氏と対立して中銀総裁が更迭されたことを勘案すれば、エルカン氏も同様の目に合うとの見方はくすぶる。経済のファンダメンタルズが急速に悪化するなか、今後は外貨準備を巡って同国への中東諸国やロシアの影響力が増す可能性に注意が必要と考えられる。
トルコでは、先月実施された大統領選において現職のエルドアン氏が再選を果たした(注1)。この結果を受けて、エルドアン氏は 2003 年に当時の議院内閣制に基づく首相に就任し、2014 年に大統領に転じるとともに、2017 年の憲法改正により実権型大統領となるなど 20 年の長期に亘って政権運営に当たってきたなか、新たな5年の政権任期を歩み出している。ただし、長期に亘るエルドアン政権の下で与党AKP(公正発展党)や政府にはエルドアン氏の『イエスマン』のみが登用される格好となり、幅広い政策運営にエルドアン氏の意向が強く反映されてきた。こうした動きを反映して、エルドアン氏が目指す『新オスマン主義』に基づく政策運営が内政、外交に加え、経済政策にも援用されて不労所得を禁じることを目的に高金利政策からの脱却が図られた。このようなレトリックを元にエルドアン氏は『金利の敵』を自任し、高インフレにも拘らず低金利を志向する経済学の定石では考えられない政策運営を志向し、時に中銀との間で軋轢が表面化する事態を招いた。事実、中銀総裁は 2019 年以降だけで3代連続(チェティンカヤ氏、ウイサル氏、アーバル氏)で更迭されたほか、2021 年に就任したカブジュオール前総裁の下ではインフレ昂進にも拘らず連続利下げが実施され、副総裁や政策委員が更迭されるなど、その独立性が危惧される動きがみられた。他方、こうした中銀の対応は国際金融市場からの信認低下を招いており、通貨リラ相場は過去数年で大きく下落して輸入インフレに繋がるとともに、昨年来の商品高も重なりインフレ率は昨年 10 月に+85.5%と大幅に加速した。ただし、インフレ率が頭打ちしたことを受けて中銀は昨年末にかけて断続利下げに動いたほか、今年2月に発生した大地震の復興支援を目的に追加利下げに動くなど、一段の金融緩和に舵を切る動きをみせてきた。また、政府は物価高騰による国民生活への悪影響軽減を目的に最低賃金の大幅引き上げや年金受給年齢の引き下げなどに動いており、商品市況の上振れ一巡も追い風に足下のインフレ率は鈍化する一方、コアインフレ率は高止まりするなどインフレ収束にほど遠い状況が続いている。こうしたなか、大統領選を経て発足した新政権の政策運営の行方に注目が集まり、かつて財務相と経済担当副首相を務めて国際金融市場からの信認が厚いシムシェキ氏が財務相に(注2)、中銀総裁には米国の金融業界での経歴が豊富なエルカン氏を指名するなど(注3)、エルドアン氏は金融市場の『見る目』に配慮する姿勢をみせた。22 日にエルカン新体制下で初の金融政策委員会が開催され、政策金利である1週間物レポ金利を650bp 引き上げて 15.00%とする決定を行った。同行による利上げ実施は、アーバル元総裁の下で実施され直後に同氏が更迭されることとなった 2020 年3月以来で3年3ヶ月ぶりとなり、中銀がエルドアン氏の求める低金利政策からの脱却に舵を切ったと捉えられる。ただし、足下のインフレ率は+39.6%と今回の大幅利上げにも拘らず実質金利は大幅マイナスの状況は変わらず、その引き締め効果については限定的と捉えられる。さらに、事前にはシムシェキ氏とエルカン氏のタッグにより大幅利上げに動くとの『過大な期待』が高まっていたこともあり、予想を下回る利上げ幅を理由にその後もリラ相場は最安値を更新するなど歯止めが掛からない事態に直面している。会合後に公表した声明文では、今回の決定について「出来る限り早くディスインフレ軌道を確立し、インフレ期待の安定化を図り、価格決定行動の悪化を制御すべく金融引き締めプロセスを開始した」とした上で、先行きについて「インフレ見通しの大幅な改善が実現されるまで、適時適切なタイミングで漸進的に金融引き締めが強化される」との考えを示した。他方、今回の『一歩目』が市場予想を下回ったことに加えて「市場メカニズムの機能性向上とマクロ金融安定化のため、既存のマクロプルーデンス政策の枠組の簡素化と改善を進める」としており、「簡素化プロセスはその影響を分析しつつ段階的に進める」としたものの、リラ安阻止に向けた為替介入や事実上の資本規制などの対応が変更されるとの思惑も、今回の大幅利上げ決定にも拘らずリラ安を招いた一因となった可能性もある。また、同国では来年3月に統一地方選挙が予定されており、政権や与党AKPは景気を重視する姿勢を強めることも予想されるなか、仮に中銀が一段の金融引き締めに舵を切った場合も、その後はエルドアン大統領の意向を受ける形で人事面での圧力を受け、更迭される可能性は充分考えられる。足下においては大地震からの復興需要の発現も影響して、経常赤字と財政赤字の『双子の赤字』はともに赤字幅が拡大する動きが確認されるなど経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は悪化しているほか、外貨準備高も減少の動きを強めており、対外支払いに対する懸念が高まる動きもみられる。ここ数年、同国はアラブ首長国連邦(UAE)やカタールなど中東諸国に加え、中国や韓国などとの通貨スワップ協定締結により外貨確保に取り組んできたものの、当面は中東諸国やウクライナ情勢を巡って関係深化が進むロシアなどの影響力がこれまで以上に強まる可能性にも注意が必要と捉えられる。



注1 5月 29 日付レポート「トルコ大統領選、エルドアン氏が決選投票を制して幕を下ろす」
注2 6月5日付レポート「トルコ、新政権は市場に一定の配慮もリラ相場に明るい材料は乏しい」
注3 6月 12 日付レポート「トルコリラは新たな財務相と中銀総裁の下で輝きを取り戻せるか」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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