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2023.07.10
アジア経済
その他アジア経済
国際的課題・国際問題
ウズベキスタン大統領選、「出来レース」でミルジヨエフ氏の終身化へ
~独裁化が進む一方、地政学上重要さが増すなかでどのように付き合うかを冷静に考える必要がある~
西濵 徹
- 要旨
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- 中央アジアのウズベキスタンでは今年5月に改憲案に対する国民投票が行われ、圧倒的多数の賛成を得て承認された。改憲では様々な国民の権利拡大が謳われる一方、ミルジヨエフ大統領が事実上終身化を図ることが可能となり、独裁化が進むことが懸念された。こうしたなか、9日に改憲を受けた前倒しでの大統領選が行われたが、その内容の出来レースぶりを勘案すればミルジヨエフ氏が再選される見通しである。同国はロシアのウクライナ侵攻を巡って中立的な立場を示すが、昨年はロシア向け輸出が拡大するなど欧米などの対ロ制裁の「抜け穴」となってきた。また、地政学上重要性が増していることも追い風に、中ロと欧米などとのバランス外交を展開する動きをみせる。今後も海外から注目を集めることが予想される一方、その背後で進んでいる「異様さ」と今後の世界に与える影響などにも注意を払う必要性は高まっていると言えよう。
中央アジアのウズベキスタンでは今年5月、国民の社会的・法的保護の拡大を目的とする憲法改正案に対する国民投票が行われ、9割以上の圧倒的多数の賛成票を得る形で承認された。なお、同国政府は今回の改憲の目的について、表向きには死刑制度の廃止、個人情報保護、社会福祉支援の拡充、男女平等、労働者権利の保護、個人所有権の保護など様々な国民の権利拡大を謳うとともに、国民議会上院の定数削減(100→65議席)といったような内容を喧伝してきた。その一方、大統領任期を巡って現行の5年から7年に延長した上で最長で連続2期14年とするも、発効時の大統領は適用対象外とされている。現職のミルジヨエフ氏は2016年に初代大統領であったカリモフ氏が急逝したことを受けて実施された同年末の大統領選において、事実上のカリモフ氏の後継となる形で当選を果たすとともに、2021年に実施された前回大統領選でも圧勝したものの、憲法規定上は2026年に大統領任期が満了する形となる。しかし、上述のように改憲規定ではミルジヨエフ氏が次期大統領選に出馬することが可能となり、結果的に事実上の『終身化』に道筋を付ける内容が盛り込まれた格好である(注 )。ここ数年、旧ソ連諸国においては2020年にロシアで改憲案が成立してプーチン大統領の終身化が事実上可能になったほか(注 )、昨年にもベラルーシで改憲案が成立してルカシェンコ大統領が事実上『院政』を敷くことが可能となるなど、権力者の終身化への道筋が付けられる流れがみられる。こうしたなか、今月9日に憲法改正を受けて前倒しでの大統領選挙が実施され、ミルジヨエフ氏を含む4人が出馬しているものの、ミルジヨエフ氏は無所属で立候補するも与党が支援するとともに、他の3人はいずれも与党を支える『体制内与党』から形だけの出馬が図られた格好である。事実、反体制派からは大統領選への出馬に必要となる政党登録すら認められないなど弾圧されていることを勘案すれば、今回の大統領選は完全な『出来レース』と捉えることが出来る。よって、本日(10日)にも選挙管理委員会が暫定的な選挙結果を公表する見通しであるが、どのようにみてもミルジヨエフ氏の圧勝が予想されるとともに、同氏の統治基盤が一段と強固、且つ長期政権を築くことが可能となることで、同国はカリモフ前政権時代に『先祖帰り』する可能性が高まっている。旧ソ連諸国の間ではロシアによるウクライナ侵攻を巡って事実上『中立的』な立場を示す国が広がりをみせる一方、欧米などがロシアに対する経済制裁を強化する動きをみせるなか、昨年以降は同国からロシアへの輸出額が大きく上振れする動きが確認されるなど、いわゆる迂回輸出の拡大を通じて欧米などの経済制裁の『抜け穴』となっている様子がうかがえる。また、昨年9月には同国でSCO(上海協力機構)首脳会議を開催して中国とロシアの間を事実上取り持つ動きをみせる一方、今年3月には米国のブリンケン国務長官が同国を訪問して関係強化を協議するなど、欧米と中ロが対立の動きを強めるなかでバランス外交を展開している。他方、今年5月に広島で開催されたG7(主要国)サミットの背後で中国が主催した中国・中央アジアサミットにおいては、同国を含む中央アジア諸国の首脳が中国の西安に集い、中国への支持を表明するとともに、中国と各国の二国間協力を深化させる方針が示されるなどの動きもみられる。同国は歴史的に『ロシアの裏庭』と見做される一方、地理的には中国による外交政策の一帯一路を巡ってその『入口』に当たるなど地政学的に重要性が増しているほか、豊富な天然資源を擁するなどその重要性も高まっている。そのように海外からの注目が高まる一方、その背後で進んでいる『異様さ』と今後の世界に与える影響などについて注意を払う必要性は高まっていると捉えられる。

注1 5月2日付レポート「ウズベキスタン、改憲成立でミルジヨエフ大統領の「終身化」に道」
注2 2020年7月2日付レポート「ロシア:憲法改正成立へ、プーチン氏の「永世大統領」化はほぼ確実」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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