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ウズベキスタン、改憲成立でミルジヨエフ大統領の「終身化」に道

~地政学的に重要な位置にあり、欧米と中ロの綱引きが強まる一方、その背後で強まる「異様さ」に注意~

西濵 徹

要旨
  • 中央アジアのウズベキスタンでは、2016年に独立から一貫して大統領を務めたカリモフ氏の死去を受け、ミルジヨエフ氏が大統領に就任した。同氏の下で開放路線が採られて欧米との関係改善が図られる一方、地理的な関係も影響して中ロとの関係も深まる状況にある。昨年にはミルジヨエフ氏が提唱した改憲案を巡りデモが発生し、多数の死傷者が出る事態となるなど混乱した。その後デモの発端となった条文は撤回に追い込まれたが、先月に国民の社会的・法的保護を目指す改憲案への国民投票が実施され、圧倒的多数で承認された。ただし、改憲案では大統領任期が延長され、ミルジヨエフ氏の事実上の「終身化」に繋がる内容が盛り込まれるなど、長期安定政権の構築が可能となる。同国は地政学的に重要な位置にあり、ウクライナ問題や米中摩擦がその重要性を高めているが、その背後で「異様さ」が強まる動きには要注意と言える。

中央アジアのウズベキスタンを巡っては、1991年の旧ソ連崩壊に伴う独立以降、初代大統領となったイスラム・カリモフ氏による独裁体制の下、隣国のカザフスタンと同様に強固な政権基盤の下で強権的な統治が採られてきた。なお、2016年にカリモフ氏が急逝したことで政治体制に影響が出ることが懸念されたものの、同年末に実施された大統領選では事実上の『後継』とされたミルジヨエフ首相が9割を上回る得票により圧勝を果たし、2代目の大統領に就任した。ミルジヨエフ大統領の下では、対外的に開放された政策への転換が図られるとともに、カリモフ前政権下で悪化した欧米などとの関係改善が図られるなどの動きもみられた。他方、同国は伝統的にロシアとの関係が深いことに加え、近年は中国が外交政策である『一帯一路』を通じて関係深化を図っており、中ロが主導する上海協力機構(SCO)に参加する動きもみられる。このように地理的に重要な位置にある同国を巡っては、欧米と中ロが綱引きをする動きが活発化してきた経緯がある。こうした外部環境も追い風にここ数年の同国は比較的安定した経済成長を実現しており、ミルジヨエフ氏は2021年に実施された前回大統領選においても8割を上回る得票により再選を果たすなど、安定的な政権基盤の維持に成功してきた。しかし、昨年に同氏が提唱した憲法改正をきっかけに、同国西部のカラカルパクスタン自治共和国において大規模デモが発生し、政府が事態の鎮静化を目指して治安部隊を派遣して衝突したため、多数の死傷者が出るとともに、多数の人が拘束されるなど大きく混乱する事態に発展した(注1)。大規模デモが発生した背景には、現行憲法においては同自治共和国が住民投票を経て独立することを可能とする一方、改憲案では同共和国の主権、及び分離独立に関する条項がすべて削除されており、事実上自治権限が縮小することに対する反発が強まったことがある。こうした事態を受けて、その後にミルジヨエフ大統領はカラカルパクスタン自治共和国に対して1ヶ月間の非常事態宣言を発令するとともに、改憲案から同自治共和国に関する条項を撤回する事態に追い込まれた。他方、改憲案におけるそれら以外の条項を巡っては、死刑制度の廃止をはじめ、個人情報保護の強化や教育・保健医療など社会福祉支援の拡充、男女平等、労働者権利、個人所有権の保護といった国民の社会的・法的保護を強化する内容が盛り込まれるほか、国民議会上院の定数削減(100→65議席)といった、表面的にみれば良い内容が中心となっている。ただし、改憲案では大統領任期が現行の5年から7年に延長され、最長で2期14年としているものの、発効時の大統領は適用対象外とされており、現職のミルジヨエフ氏は2026年の任期満了後も再任されることが可能であり、最長で2040年まで大統領となる事実上の『終身化』に道筋が付けられる。なお、旧ソ連諸国においてはここ数年、憲法改正を通じた大統領の事実上の終身化に道筋が付けられる動きがみられ、2020年にはロシア(注2)、昨年にもベラルーシの改憲成立によりルカシェンコ大統領が事実上の『院政』を可能とする内容が盛り込まれた。ただし、今回の改憲案を巡る国民投票に際して、政府公表は国民の社会的・法的保護に関する内容を大きく示す一方、大統領任期に関する内容はほぼ報じられることなく、先月30日の投票日を迎えることとなった。選挙管理委員会に拠れば、国民投票の投票率は84.54%に達するとともに、うち90.21%という圧倒的多数の賛成票を得る形で改憲案は承認された模様であり、これによりミルジヨエフ大統領の終身化が可能となる。これによりミルジヨエフ大統領の統治基盤は一段と強固になるとともに、長期的な安定政権を築くことも可能となるほか、カリモフ前政権時代に『先祖帰り』する可能性も高まっていると判断出来る。その背景には、昨年のデモ鎮圧を巡ってはその後にUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が透明性のある独立した調査を要請したほか、欧米などが反発する動きをみせたものの、その後も事実上隠ぺいされる状況が続いており、欧米などはミルジヨエフ政権に対する不信感を強めていることがある。ただし、上述したように同国の地理的な重要性が影響する形で、今年3月には米国のブリンケン国務長官が同国を訪問してミルジヨエフ大統領と会談して関係強化を協議するなど、欧米などがロシアによるウクライナ侵攻を機にロシアへの経済制裁を強めるなかで地理的な『抜け穴』となることに配慮する動きをみせている。その一方、昨年9月には同国でSCO首脳会議が開催されたほか、中ロの間を事実上取り持つ格好となるなどバランス外交を展開する動きもみられる。他方、近年の同国は『IT立国』を掲げるとともに、ロシアによるウクライナ侵攻を機にロシア人技術者が海外に流出する動きを強めるなかでその受け入れを積極化させてきたものの、昨年のデモ発生に際してはインターネットの遮断を通じて情報統制を図る動きをみせるなど、逆風に繋がる動きもみられた。同国を含む中央アジア地域は近年、地政学的にその存在を巡る重要性が増しており、ロシアによるウクライナ侵攻や米中摩擦もそうした動きを後押ししているものの、その背後で進む『異様さ』の動きにも留意する必要があろう。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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