インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

チリ中銀、5会合連続で金利据え置き決定も、先行きの利下げ実施に含み

~中国景気の不透明感に懸念も、金融市場は左派退潮を好感、ペソ相場の安定は利下げを促すか~

西濵 徹

要旨
  • 南米チリでは、左派のボリッチ政権が誕生したことにより、伝統的に新自由主義的な経済政策が志向された状況が変化するとみられた。ただし、昨年のボリッチ政権誕生以降の同国経済は物価高と金利高の共存が足かせとなるなどスタグフレーションに直面してきた。昨年後半以降のインフレ鈍化を受けて足下の景気には底打ち感が出ているが、本調子にはほど遠い状況が続く。中銀は昨年末に利上げ局面の休止に動いており、19 日の定例会合でも 5 会合連続で政策金利を据え置いた。しかし、今回は政策委員間の票が割れるとともに、先行きの利下げ実施に含みを持たせる姿勢をみせる。他方、ボリッチ政権は起死回生へリチウム産業の国有化を目指す資源ナショナリズムに舵を切る動きをみせたが、政権支持率が低迷するなかで公約に掲げた憲法改正の行方も見通せない状況にある。中国景気を巡る不透明感は通貨ペソ相場の足かせとなり得る一方、金融市場では左派退潮を好感する向きもみられ、インフレ鈍化を促すと期待される。

南米チリは、一昨年の大統領選において左派のボリッチ氏が勝利して同国史上最年少の大統領が誕生するとともに、ここ数年中南米で広がりをみせている『ピンクの潮流』と呼ばれる流れが及んだ。同国においては、伝統的に新自由主義的な経済政策、貿易政策が採られてきたものの、政権交代により大きく転換が進むことが予想された。他方、コロナ禍に際しては国是としてきた『全方位外交』によるワクチン調達、接種の積極化を追い風に経済活動の正常化が進むとともに、ピニェラ前政権による財政出動なども追い風に、マクロ経済面では比較的早期にコロナ禍による悪影響の克服が図られた。しかし、一昨年以降は商品高に伴い生活必需品を中心とする物価上昇が顕在化するとともに、昨年以降は国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ペソ安による輸入インフレも重なり、中銀は一昨年後半以降に物価と為替の安定を目的に断続的、且つ大幅利上げを余儀なくされた。結果、昨年以降は経済活動の正常化によるペントアップ・ディマンドの動きが一巡するなか、物価高と金利高の共存が実質購買力を下押ししたことで景気は一転頭打ちした。さらに、物価高と金利高の共存が長期化したことで主力産業である銅鉱山でストライキが頻発したことも重なり、昨年は3四半期連続のマイナス成長となるテクニカル・リセッションに陥るなど、景気後退と物価高が共存するスタグフレーションに直面してきた。なお、通貨ペソ相場は昨年7月に史上最安値を更新したほか、インフレ率も昨年8月に一時 30 年ぶりの水準に加速したものの、米ドル高の動きが一巡したことで輸入インフレ圧力は後退しているほか、その後のインフレ率は頭打ちに転じている。よって、中銀は昨年 12 月の定例会合において約1年半に及んだ利上げ局面を休止させており、その後もインフレを警戒して政策金利を据え置く対応を維持してきた。このようにインフレ圧力が緩和する動きがみられるほか、銅鉱山で発生したストライキの動きも一巡していることを受けて、今年1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+3.37%とプラス成長となるなど景気に底打ち感が出ている。しかし、物価高と金利高の長期化を受けて家計消費は弱含む展開が続いているほか、企業部門による設備投資も低調な推移をみせており、足下の景気は公的需要に対する依存度を強めている。このように足下の景気は本調子にほど遠い状況が続く一方、足下のインフレ率は頭打ちしているものの、依然中銀の定めるインフレ目標(3±1%)を大きく上回る推移をみせており、中銀は 19 日に開催した定例会合において政策金利を5会合連続で 11.25%に据え置いている。ただし、先月までの4会合については前回一致により金利据え置きを決定していたものの、今回は「3(据え置き)対2(50bp の利下げ)」と票が割れるなど政策委員の間で利下げを主張する動きが広がりをみせている様子がうかがえる。事実、会合後に公表された声明文では、先行きの政策運営について「依然としてインフレリスクは残るも均衡しており、経済が適切な方向に進めば短期的に利下げプロセスを開始することになる」とした上で、「利下げ幅とタイミングについては経済動向とインフレへの影響を考慮する」と早晩利下げに動く可能性に含みを持たせている。同国では上述のように左派政権が誕生し、4月にはリチウム産業の国有化を発表するなど『資源ナショナリズム』の動きをみせるも(注1)、景気低迷の長期化を受けて政権支持率は低下しており、政権が公約に掲げた憲法改正の行方に不透明感が強まるなど政策運営の行方も不透明になっている(注2)。インフレ鈍化を受けて金利が低下すれば景気の追い風になると期待されるほか、低迷が続く政権支持率の反転に繋がる可能性はある。一方、主力の輸出財である銅や炭酸リチウムなどは中国景気の動向に左右される傾向があり、ゼロコロナ終了により底入れが期待された中国景気が早くも息切れする兆しをみせるなかでは景気浮揚に繋がるかは見通しが立たない。なお、ペソ相場については左派政権の退潮により急進的な政策運営に舵が切られる可能性が後退していることを好感する向きがみられ、ペソ相場の安定はインフレ圧力の後退を促すことで先行きの利下げ期待を後押しすることも期待される。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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