インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

ケニア、公務員給与遅配でデフォルトリスクが懸念される事態に

~新興国の債務問題が一層厳しくなるなか、国際社会は何らかの道筋を付けられるかが重要な局面に~

西濵 徹

要旨
  • ケニアでは昨年8月の大統領選後、結果を巡る混乱が懸念されたが、最終的にルト氏への穏便な政権移行が図られた。同国経済はコロナ禍の克服が進む一方、商品高に加えて通貨シリング安も重なりインフレが高止まりしている。足下の国際金融市場では米ドル高に一服感が出るも、対外デフォルト懸念が嫌気される形でシリング安は収まらず、中銀は一段の利上げを余儀なくされるなど難しい対応を迫られる状況が続く。
  • 商品高による輸入増が対外収支の悪化を招くとともに、資金流出も重なり、昨年来の外貨準備高は減少の動きを強めている。商品高の一服にも拘らず対外収支は悪化が続いている上、OPECプラスの自主減産による原油価格の上振れを勘案すれば今後も減少傾向を強める懸念は残る。こうしたなか、政府は利払い負担を理由に公務員給与を遅配するなど、対外的な資金繰りの厳しさを露呈する事態も顕在化している。世界経済にとっては国際社会が新興国の債務問題に何らかの道筋を付けられるか否かが重要になっている。

アフリカ東部のケニアでは、昨年8月に実施された大統領選において、ケニヤッタ前政権下で副大統領を務めたルト氏とキバキ元政権下で首相を務めたオディンガ氏による事実上の一騎打ちによる激戦の結果、ルト氏が僅差でオディンガ氏に勝利した(注1)。しかし、両者の得票率の差は1ptにも満たない僅差であったことに加え、選挙管理委員の間から集計結果に責任が持てないとの見解が示されたほか、敗北したオディンガ陣営も選挙結果の無効を主張する動きが出るとともに、抗議行動の一部が暴徒化するなど政情不安が懸念される事態となった。その後、最高裁判所が開票結果を支持する見解を示したほか、オディンガ陣営も最高裁の判断を尊重する姿勢を示したことで昨年9月にルト氏が正式に大統領に就任しており、最終的に穏便な形で政権移行が行われた(注2)。ケニアについては、サブサハラ(サハラ砂漠以南のアフリカ)地域ではナイジェリア、南アフリカ、アンゴラに次ぐ4番目の経済規模ではあるものの、元々英国の植民地であったことで独立後も欧米諸国と関係が深く、東アフリカ諸国のなかでは政治が比較的安定し、周辺国から多数の難民を受け入れるなど積極的な和平調停に動き地域で重要な役割を果たしてきた経緯がある。さらに、モンバサ港は東アフリカ最大の貨物取扱量を誇るとともに、歴史的に中東とアフリカを結ぶ拠点となるとともに、首都ナイロビも東アフリカ経済の中心地である上、周辺国と比較して工業化が比較的進んでいる。他方、同国経済は他のアフリカ諸国と異なり資源国ではなく、GDPの約2割を農業が占めるなど農業国という特徴を有する。こうした状況ながら、コロナ禍に際しては深刻な景気減速に見舞われるも、ワクチン接種率の低さにも拘らず、国民の平均年齢の低さも後押しする形で経済活動の正常化が図られたほか、欧米など主要国を中心とする世界経済の回復の動きも追い風に景気は底入れしてコロナ禍の影響を克服している。他方、同国はエネルギー資源や穀物などを輸入に依存しており、昨年以降は商品高に伴い生活必需品を中心にインフレが顕在化するとともに、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨シリング相場の調整の動きが輸入インフレを招く懸念が高まり、中銀は昨年5月に約7年ぶりに利上げに動いたほか、その後も物価と為替の安定を目的に断続利上げを迫られる状況に直面している。インフレ率は昨年11月をピークに頭打ちしているものの、依然として中銀目標を大きく上回る推移が続いており、物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせる懸念が高まっている。さらに、昨年末以降の国際金融市場では米ドル高に一服感が出ているにも拘らず、シリング安は収まらず中銀は先月にも追加利上げを余儀なくされており、昨年以降の利上げ局面における利上げ幅は累計250bpに及んでいる。

図表1
図表1

図表2
図表2

なお、国際金融市場においてシリング安圧力が収まらない背景には、同国がケニヤッタ前政権下で中国を中心とする海外からの債務を増大させてきたことが影響している。さらに、今後は返済が本格化することによる債務負担の増加が予想されるなか、通貨安の進展に伴い債務負担が一段と高まることが警戒されている。ここ数年のアフリカにおいては、ザンビアやケニアが相次いで対外債務のデフォルト(債務不履行)を宣言するなど対外的な資金繰りが悪化する動きがみられるなか、通貨安の加速によりそうした懸念が一段と広がりをみせるとの見方が出ている。同国においても昨年来の商品高に伴う輸入増も追い風に対外収支は悪化している上、資金流出の動きも重なり外貨準備高は減少傾向を強めており、2月末時点における外貨準備高(流動部分)は66.03億ドルとなっている。2月末時点における外貨準備高は昨年の月平均輸入額の3.8ヶ月分と試算されるなど、他のデフォルトに陥ることが懸念される国々と比較して極端に低い状況にはないと捉えられるものの、商品高の動きに一服感が出ているにも拘らず外貨準備高の減少に歯止めが掛からない状況にある。さらに、来月からは主要産油国の枠組であるOPECプラスが自主減産に動く方針を決定しており(注3)、この決定に伴い国際原油価格は上振れしていることを勘案すれば、先行きも対外収支を取り巻く状況は困難が続く可能性が高まっている。また、足下の国際金融市場においては米国での銀行破たんをきっかけに不透明感が広がる動きがみられるなか、コロナ禍後における世界経済のけん引役となってきた欧米など主要国経済の行方にも不透明感が強まっており、こうした環境変化によるリスク回避姿勢もシリング安に歯止めが掛からない一因になっているとみられる。こうしたなか、同国政府は利払い負担の増大を理由に公務員給与の支払いを延期する決定を行うなど、政府部門の資金繰りが極めて厳しい状況にあることが明らかになっている。報道によれば、大統領経済顧問のンディ氏は同国がデフォルトに陥ることはないと言明した上で、「返済資金は調達可能であり、かなりの犠牲を払うことになるものの支払いは可能である」と語るなど『火消し』に躍起になっている模様である。ただし、外部環境も経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)も着実に悪化しているなか、世界経済にとっては国際社会が新興国の債務問題に何らかの道筋を付けることが出来るか否かが重要な局面になりつつある。

図表3
図表3

図表4
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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