インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

中国経済、2023年は良好なスタートダッシュを切っている模様だが

~不均衡に加え、投資主導、国進民退色が強まるなかでその持続力には疑問符が付く展開~

西濵 徹

要旨
  • 中国では、全人代を経て習近平指導部の3期目は本格始動を果たした。昨年は当局のゼロコロナ戦略への拘泥が景気の足かせとなったが、戦略転換や春節連休を前に経済活動の正常化が進んでおり、企業マインドは底入れしている。他方、世界経済の減速懸念や国際金融市場の不透明感を理由に中銀は一段の金融緩和を決定したが、カネ余りが意識されやすい環境を勘案すれば不均衡状態が一層強まる懸念はくすぶる。
  • 国家統計局が公表した3月の企業マインドは、製造業で回復に一服感が出る一方、非製造業では11年弱ぶりの高水準に回復している。外需に不透明感がくすぶる一方、公共投資の進捗が建設業を押し上げるとともに、サービス業においても幅広く改善の動きがみられる。ただし、企業マインドの改善にも拘らず雇用調整の動きが強まるなど家計消費への悪影響が懸念され、景気回復の持続力に疑問符が付く可能性も残る。
  • 1-3月平均の総合PMIは57.0と昨年10-12月(46.2)から大きく上昇しており、今年の成長率目標(5%前後)の実現に向けたスタートダッシュは良好と捉えられる。ただし、経済の不均衡が顕在化するなかで投資主導、国進民退色の強い景気回復が続いていることは、その持続力に対する不透明感がくすぶる展開が続こう。

中国では、今月5~13日の日程で開催された全人代(第14期全国人民代表大会第1回全体会議)を経て、習近平指導部の3期目は本格始動を果たしている(注1)。昨年の共産党大会(中国共産党第20全国代表大会)を経て習近平指導部は異例の3期目入りを果たすなど、中国政治にとっては極めて重要な局面であったにも拘らず、経済面では当局によるゼロコロナ戦略への拘泥が幅広い経済活動の足かせとなる事態に直面した。結果、昨年の経済成長率は+3.0%と政府目標(5.5%前後)を大きく下回る水準に留まるとともに、昨年末にかけての性急な戦略転換による混乱を反映して10-12月の実質GDP成長率は前期比年率ベースでもゼロ成長となるなど景気に急ブレーキが掛かった。ただし、昨年末以降におけるゼロコロナ終了に加え、年明け以降は国境再開により国内外で人の移動も自由になるなど、1年のうち最も人の移動が活発になる春節(旧正月)連休を前に経済活動の正常化が図られた。こうしたことも追い風に、企業マインドは昨年末にかけて性急な戦略転換による混乱を反映して下振れしたものの、年明け以降は一転底入れの動きを強めており、中国経済を取り巻く環境は大きく改善に向かっている。他方、足下の実体経済の動きを巡っては、企業マインドは改善する一方で雇用の回復が遅れるなかで家計消費の回復は道半ばの状況が続くなどディスインフレ基調で推移しているほか(注2)、経済活動の正常化を受けたサプライチェーンの回復を追い風に外需の底入れが確認されるとともに、インフラ関連など公共投資の進捗が景気を押し上げる動きが確認されている。しかし、過去における景気回復局面同様に投資依存体質が続いているほか、民間部門は力強さを欠く一方で公的部門への依存度が高まる『国進民退』色が強まっている上、経済活動の正常化を受けて大都市部では調整が続いた不動産市況の底打ちが確認される一方で地方都市では調整の動きが続くなど、地方財政を含む構造問題は山積の状況が改めて露呈している(注3)。さらに、足下の世界経済は欧米など主要国を中心とする不透明感に加え、米国での銀行破たんをきっかけに国際金融市場に動揺が広がる懸念もくすぶるなど、外需の行方は見通しにくい状況にある。また、国際金融市場を巡る状況は中国金融市場における資金動向にも影響を与えることが懸念されるなか、中銀(中国人民銀行)は今月15日に預金準備率を25bp引き下げる決定を行っており(実施は27日付)、景気の下支えと金融市場の安定化を目的とする一段の金融緩和に舵を切っている。ただし、一昨年末以降における断続的な金融緩和を追い風に、中国金融市場においては『カネ余り』が意識されやすい状況となっており、一段の金融緩和実施により余剰資金が株式や不動産など資産市場に流入しやすい環境となり得る。こうした動きは景気を押し上げると期待される一方、経済格差の拡大を招くなど不均衡状態を一層深刻なものとする可能性があり、その後の対応を困難なものとすることに注意する必要があろう。

図表1
図表1

さて、31日に国家統計局が公表した3月の製造業PMI(購買担当者景況感)は51.9と3ヶ月連続で好不況の分かれ目となる水準を上回るなど、景気の底入れが続いていることが示されたものの、前月(52.6)から▲0.7pt低下するなどその動きに早くも一服感が出ている様子がうかがえる。足下の生産動向を示す「生産(54.6)」は前月比▲2.1ptと大幅に低下するなど早くも増産の動きに一服感が出ているほか、先行きの生産活動に影響を与える「新規受注(53.6)」は同▲0.5pt低下している上、「輸出向け新規受注(50.4)」も同▲2.0pt低下しており、世界経済の不透明感が強まっていることに加え、米中摩擦なども外需の足かせになっているとみられる。一方、世界経済の減速懸念の高まりを受けた原油をはじめとする商品市況の調整の動きを反映して「購買価格(50.9)」は前月比▲3.5pt低下しており、商品高による物価上昇に直面するも製品価格への転嫁が当局により事実上禁止されてきた企業部門にとっては収益面でプラスになることが期待される。さらに、商品市況の調整を追い風に企業部門は原材料の調達を活発化させているとみられ、「購買量(53.5)」は前月比±0.0ptと横這いで推移している上、先行きに対する期待を示す「将来活動期待(55.5)」も同▲2.0pt低下するも依然50を大きく上回る水準を維持しており、先行きの回復を見越した動きもみられる。他方、増産の動きに一服感が出ていることを反映して「完成品在庫(49.5)」は前月比▲1.1pt低下して2ヶ月ぶりに50を下回る水準となるなど、在庫復元余力は再び拡大していると捉えられる。なお、上述のように経済活動の正常化が進んでいるにも拘らず「サプライヤー納期(50.8)」は2ヶ月連続で50を上回る水準を維持するも、前月比▲1.2pt低下するなど人繰りの厳しさが足かせとなっている可能性がある。こうした状況にも拘らず「雇用(49.7)」は前月比▲0.5pt低下して2ヶ月ぶりに50を下回るなど再び調整圧力が強まる動きがみられるなど、家計消費の足かせとなる懸念はくすぶる。

図表2
図表2

一方、建設業やサービス業の動向を示す非製造業PMIは58.2と3ヶ月連続で好不況の分かれ目となる水準を上回るとともに、前月(56.3)から+1.9pt上昇して2011年5月となる高水準となっている。分野別では「建設業(65.6)」が前月比+4.6ptと大幅に上昇している上、「サービス業(56.9)」も同+1.3ptとともに上昇しており、建設業における大幅な上昇の動きがマインドを大きく押し上げている様子がうかがえる。サービス業のなかでも小売関連や運輸関連、IT関連、金融関連など幅広い分野で改善の動きが確認されるなど、GDPの半分以上をサービス業など第3次産業が占めることを勘案すれば、足下の景気は着実に底入れしていると捉えられる。足下の事業活動が大きく改善しているとともに、先行きの事業活動に影響を与える「新規受注(57.3)」は前月比+1.5pt上昇して3ヶ月連続で50を上回る水準を維持する一方、「輸出向け新規受注(48.1)」は同▲3.8pt低下して2ヶ月ぶりに50を下回る水準となるなど、外需の不透明感が強まっている様子がうかがえる。製造業と同様に商品市況に一服感が出ていることに加え、それに伴うエネルギー価格の下落などを反映して「投入価格(50.3)」は前月比▲0.8pt低下している一方、EC(電子商取引)の活発化を受けた価格競争が激化するなかで「販売価格(47.8)」も同▲3.0ptと大幅に低下しており、商品市況の一服が収益面でプラスとなるかは極めて不透明と捉えられる。さらに、企業マインドの改善にも拘らず「雇用(49.2)」は前月比▲1.0pt低下して2ヶ月ぶりに50を下回るなど再び調整圧力が強まっているほか、「サプライヤー納期(52.4)」も同▲2.8pt低下するなど人繰りの厳しさがサプライチェーンの足かせとなっている様子がうかがえる。この背景には、近年の賃金上昇を受けた人件費拡大を警戒して企業部門が雇用拡大に及び腰になっていることも影響しているとみられるほか、厳しい雇用環境が続く若年層を中心に家計消費の足かせとなる展開が続くと予想される。

図表3
図表3

なお、製造業と非製造業を併せた総合PMIは57.0と前月(56.4)から+0.6pt上昇しており、1-3月の平均値は55.4と昨年10-12月(46.2)から+9.2ptと大幅に上昇するなど景気は底入れの動きを強めていると捉えられる。上述のように昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率+0.0%となったものの、1-3月についてはプラス成長となることは必至とみられる上、今年の経済成長率についても+1.3ptのプラスのゲタが生じていることを勘案すれば、全人代で示された政府目標(5%前後)の実現は容易になりつつあると捉えられる。ただし、足下の同国経済については様々な不均衡が顕在化している上、そうした矛盾を抱えつつも以前からの投資主導による景気回復に依存せざるを得ない展開をみせている上、国進民退色が強まっている状況を勘案すれば、その持続力に対する不透明感がくすぶる展開が続くであろう。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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