インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

全人代終了で習政権3期目が本格始動、中国経済はどこへ行く?

~財政・金融政策は当面継続性が重視されるも、「青写真」を欠くなかでその行方は一段と見通しにくく~

西濵 徹

要旨
  • 中国で今月5日に開幕した全人代は本日全日程を終えた。昨秋に習近平指導部は異例の3期目入りを果たし、昨年末以降のゼロコロナ終了後初の全人代ゆえにその行方に注目が集まった。李克強氏など共青団出身者が最高指導部から外れ、改革派官僚の行方も不透明ななかで経済閣僚人事の行方が注目された。
  • 李克強氏は完全引退前最後の政府活動報告を公表し、成長率目標を引き下げる一方で雇用重視による経済の安定を目指す方針を示した。他方、習政権への「せめてもの抵抗」として形式主義や官僚主義による政策運営の硬直化を訴えた。ただし、政権3期目の政府人事は習氏の側近だらけで習氏にものを言える人は皆無となる。総理や副総理などの手腕はいずれも未知数であるなど、政策運営の見通しは立ちにくくなった。
  • 全人代での党・政府の機構改革では、金融市場のリスク対応を巡って国家金融監督管理局が設置されるなど政府の権限強化が図られる。他方、習近平指導部が主導するデジタル中国の推進に向けたデータ管理の強化、関連インフラの推進を図るとともに、科学技術面での「自立自強」、食料安全保障、環境保護も進める。また、党の機構改革では対米関係悪化を念頭に様々な統制による耐性強化を目指す方針も示されている。
  • 経済政策面で李強氏は雇用重視による経済の安定を重視するほか、改革開放の維持による民間セクターに配慮する姿勢をみせた。ただし、コロナ対策は成功したと強弁するなど、今後も政策運営を巡る真摯な検証は期待しにくい。多くの改革派官僚は留任するなど財政・金融政策の継続性が重視された模様だが、政権運営の青写真が不明確ななかで山積する課題への対応は一段と困難の度合いを増す可能性も考えられる。

中国で今月5日に開幕を迎えた全人代(第14期全国人民代表大会第1回全体会議)は本日(13日)に全日程を終えた。昨年秋の共産党大会(中国共産党第20回全国代表大会)と直後の1中全会(中国共産党第20期中央委員会第1回全体会議)を経て、習近平指導部は異例の3期目入りを果たしており、今回の全人代は政権3期目の道筋を付けるといった意味合いがある。さらに、ここ数年の同国経済は度々コロナ禍の影響を受けるとともに、当局が『ゼロコロナ』戦略に拘泥する展開が続いたこともそうした動きに繋がってきた。他方、当局によるゼロコロナ戦略の長期化が若年層を中心とする雇用環境の悪化を招いて国民の間に当局の対応への不満が高まり、全土で抗議運動が活発化して一部が政権や体制への批判に発展する事態となり、直後に一転して地方レベルでコロナ対応が緩和され、昨年12月初めには全土で行動制限が全面的に解除されてゼロコロナ戦略は事実上終了した。今年1月には国境も再開されるなど国内外で人の移動が自由となるなど名実ともにゼロコロナは終了しており、今回の全人代は3年に及んだゼロコロナが終了して初めての重要な会議となった。なお、集団指導体制が採られて以降の共産党・政府人事を巡っては、党総書記(国家主席)が外交を、国務院総理が経済(内政)を担うといった役割分担があったものの、習近平指導部の下では習氏の側近である劉鶴氏が経済担当の副総理に就任して以降、習氏の意向を汲む形で劉氏がマクロ経済政策や米中協議などの陣頭指揮を執る一方、総理である李克強氏の存在感は低下を余儀なくされた。さらに、昨秋の共産党大会、1中全会を経て李氏は党最高指導部(党中央政治局常務委員)人事から外れたことから、今回の全人代を経て政界を完全に引退する事態に追い込まれた。他方、習近平指導部3期目の党最高指導部、及び党中央政治局員は習氏の側近が大半を占めるとともに、共青団(共産主義青年団)出身の有力者が外れるなど、党内体制は完全に『習氏一強体制』になったと捉えられる(注1)。さらに、党内において『改革派官僚』と目される面々が相次いで党中央委員や中央委員候補から外れたこともあり、今回の全人代では習政権3期目の政府人事が決められるなかで経済閣僚の顔ぶれが大きく変わることも予想された(注2)。

なお、全人代初日に公表された「政府活動報告」は李克強氏にとって国務院総理として最後の報告となるなか、今年の経済成長率目標を5%前後と昨年(5.5%前後)から引き下げる一方、都市部における新規雇用を1,200万人以上と昨年(1,100万人以上)から拡大させつつ、都市部の調査失業率を5.5%前後と昨年(5.5%以下)並みに抑えるなど雇用政策を重視することが示された(注3)。この背景には、上述のように当局によるゼロコロナ戦略への拘泥が長期化したことで若年層を中心とする雇用環境が悪化しているなか、今年は大卒者数が過去最高の1,158万人に達すると見込まれることから、雇用機会の創出が急務になっていることがある。他方、党・政府が直面する課題として、形式主義や官僚主義の影響で一部の地方政府で政策実施を巡る硬直化、過剰目標といった現実離れした対応が採られるなど、国民の意思を無視した形で権利を軽んじる動きがみられるなど、ゼロコロナ戦略への拘泥の背後で地方政府レベルにおいて過剰対応が採られたことを諫める動きをみせた。こうした動きは、全人代を経て退任する李克強氏にとっては3期目入りする習政権に対する『せめてもの抵抗』であったと捉えることが出来よう。他方、上述のように習政権3期目の陣容は習氏の側近だらけとなっている上、政府人事では習近平氏が順当に国家主席、中央軍事委員会主席に満場一致で選出されるとともに、国家副主席に党大会において年齢規定を理由に党最高指導部から離れた韓正氏が就任した。韓氏の前任の副主席は王岐山氏であり、王氏は胡錦濤政権において経済担当の副総理として手腕を発揮したほか、習政権1期目においては習氏の盟友として反腐敗・反汚職運動を主導して習氏の政敵を相次いで放逐して一強体制の構築を後押ししたが、完全引退となることで政権内において習氏に『物が言える』人は完全に居なくなる。また、習氏や前任の胡氏は国家主席の就任前に副主席として外交を担い、中央軍事委員会副主任として軍務を経験することで秩序立つ形で権力継承を進める流れがみられたものの、今回の人事においても『ポスト習』を明確に定めない状況が維持された。また、国務院総理には習氏の側近である李強氏が就任し、経済担当の副総理にも同様に習氏と長年に亘って付き合いがある何立峰氏が就任しており、経済政策は名実ともに習氏の影響力が強まることは避けられない。さらに、李氏は昨年上海市トップ(党委書記)としてロックダウン(都市封鎖)を主導するなど政策手腕に疑念が呈されたほか、過去の歴代総理は慣例として副総理を経験した上で総理に就任する流れがみられたものの、副総理を経ずに総理に就任している。そして、李氏は地方政府のトップの経験こそあれ国務院での勤務経験がなく、上述の上海市トップとしての対応の拙さも含めて行政手腕については不透明である。筆頭副総理にも習氏の長年の側近である丁薛祥氏が就任しており、党最高指導部で最も若い丁氏は年齢面で『ポスト習』と見做される向きがある一方、丁氏は地方政府のトップの経験がないなどこちらも行政手腕は未知数である。

さらに、全人代を経て党・政府の機構改革が行われる。同国においてはここ数年、地方政府の債務問題や不動産セクターを巡る問題など金融市場のリスク要因が山積するなか、国家金融監督管理局を設置して銀行保険監督管理委員会(銀保監会)の機能に加え、中国人民銀行(中銀)による金融機関を対象とする監督管理業務、証券監督管理委員会(証監会)の投資家保護機能などを傘下に収める形で権限強化を図る方針が示された。また、習近平指導部が主導する『デジタル中国』に基づくデジタル経済・社会の構築と推進を図るべく、国家発展改革委員会の傘下に国家データ局(国家数据局)を新設してデータの一元管理を担うとともに、デジタル中国を推進する中央インターネット安全・情報化委員会弁公室(中央網絡安全和信息化委員会弁公室)と協調して関連インフラの構築を図るとしている。そして、科学技術部を再編して機能強化を図るとともに、技術開発面での戦略的な新興産業の育成やサプライチェーンの重点補強による『自立自強』を支えるほか、食料安全保障が課題となるなかで農業生産面での科学技術の向上を側面支援するとともに、自然保護の面での科学技術の向上を側面支援する取り組みも強化される。他方、こうした動きに呼応するように党の機構改革も行われており、今後の米中摩擦の激化や台湾有事など将来的な不測の事態も念頭に、党・政府による統制を強化するとともに外部からの圧力への耐性強化をはかる意図も透けてみえる。事実、習近平国家主席は全人代閉幕式での演説において、科学技術と教育の重要性を強調するとともに、科学技術面での自立自強の推進による『社会主義現代化強国』の実現を目指しつつ、経済と安全保障の融合による国家安全保障の重要性に言及しているほか、台湾独立に警鐘を鳴らしつつ国防・軍事の現代化推進を強調する考えを示している。その意味では、外交や内政、とりわけ治安対策などの面で習氏の意向がこれまで以上に色濃く反映される可能性が高まっているほか、対外的には強硬姿勢が採られるとともに、国内的には統制色の強い政策運営がなされると予想される。

経済政策を巡っては、李強総理が全人代最終日に開催した記者会見において、今年の経済成長率目標(5%前後)の達成は容易ではないとの見方を示すとともに、その実現に向けては努力が必要になるとの考えを示している。その上で、今年の経済運営に当たっては引き続き雇用対策を最重要課題に据える姿勢を示すとともに、国内・外に不透明要因が山積するなかで経済の安定に向けてマクロ経済政策の調整・改善に努める考えをみせている。また、近代的な市場システムの構築を加速させるとともに、改革開放路線の深化を断固として進めるほか、民間セクターを取り巻く環境改善に向けた取り組み強化による競争環境の改善により経済成長の質的向上を図るなど、ここ数年の規制強化による懸念が高まっている民間セクターに配慮する姿勢をみせた。そして、ここ数年に亘って激化の一途を辿る米中摩擦を念頭に、両国は協力出来るだろうと述べるなど関係改善に向けた考えを示しており、その背景には経済の安定に向けて外需の安定が不可欠となっていることも影響しているとみられる。なお、コロナ禍対応を巡っては大勝利を収めたと主張するとともに、政府による戦略と政策は完全に正しかったとの考えを示したものの、上述のように自身がトップを務めた上海市での対応を勘案すれば、このように強弁せざるを得なかったのが実情であろう。その意味では、今後も政策対応について当局による真摯な検証が行われる可能性は低く、党・政府ともに指導部人事は習氏の側近だらけとなるなど修正能力が大きく低下していることを勘案すれば、その度に強弁する形で押し切られる展開が続くと予想される。他方、政策運営の方向性については、昨年末の中央経済工作会議において討議された内容をなぞるなど具体性に乏しいことを勘案すれば、政策の『青写真』を見通すことは難しくなっていると捉えられる。また、昨秋の共産党大会を経て改革派官僚の行方に注目が集まったものの、事前には年齢の問題で引退が確実視されていた中国人民銀行の易鋼総裁(行長)や財政部の劉昆部長の留任が決定されるなど、政策の継続性が重視された模様である。そして、中国人民銀行の党委書記と副行長を兼務する郭樹清氏は全人代財政経済委員会の副主任委員に就任することが明らかとなるなど、この点でも財政、及び金融政策については継続性を重視していると捉えることが出来る。よって、個別具体的な政策運営に対する懸念は払しょくされると見込まれる一方、その政策の目的である青写真が不透明であり、構造問題が課題山積となるなかで時間経過とともに状況は一層厳しいものとなる可能性も予想される。習政権3期目は本格始動を果たしたものの、その先行きについては様々な不安を抱えながらの展開となることは間違いない。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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