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欧州に波及する銀行危機

~米銀不安と何が違うか?~

熊野 英生

要旨

スイス大手銀行の経営危機へと、米銀行不安は飛び火した。投資家のリスク許容度が低下して、経営悪化先への眼が厳しくなっている。ECBは3月16日に追加利上げを決め、インフレ退治を優先させた。利上げの摩擦は出尽くしておらず、まだ鎮静化に舵を切ったとは言い切れない。

目次

欧州でも銀行問題

3月15日に欧州で新しい火種が表面化した。スイスの経営悪化銀行(実名は憚られるので「S銀」とする)は、スイス国立銀行から最大500億スイスフラン=7.1兆円もの資金供給を受けられると発表された。米国での連鎖的な銀行破綻が飛び火した格好だ。金融市場には、この連鎖がどこまで広がるのかという不安が広がっている。スイス国立銀行の巨大資金供給は、その不安を鎮静化させたいという強い意志の表れだ。

まず、なぜ米国の銀行危機が、遠く離れた欧州に連鎖したのかを考えよう。それは、投資マネーが世界中で連結しており、世界中の投資家がリスクに過敏になっているからだ。市場全体でリスク許容度が下がると、最も金融システムの弱いところで不安が強まる。S銀の経営悪化が注目されたのは、2021年秋のヘッジファンド運用の損失からだった。損失額が、S銀では他の金融機関よりも大きかったことがある。2022年秋にも一時的に問題視されたが、事業再建策を発表して凌いでいる。それが今また再燃した。米銀行が債券運用で損失を出したのとは少し事情が異なると感じられる。S銀には3月14日に危機管理の問題が浮上したことや、15日の筆頭株主の追加増資の否定も報道による不安もあったとは思う。しかし、筆者は金融市場全体のリスク許容度が下がって、以前からあった問題に火が付いたと考えている。経済学で言えば、供給側の要因より、需要側の要因(=投資家のリスク許容度低下)によって、リスクプレミアムが上昇したという理屈である。

米銀問題との違い

米国の銀行問題が連想によって、欧州の銀行問題に波及したと思う人が多いだろう。しかし、筆者は単なる連想だけには止まらない変化があることを指摘したい。

米国の銀行問題では、預金引き出しが問題になった。それに対しては、金融当局が全額保護を宣言した。これはかなり効果がある。預金保護が行われる限りは、預金者には損失が生じないからだ。預金者が25万ドル以上の大口預金をシリコンバレー銀行から引き出し、別の銀行に預けても付保範囲(預金保険対象金額)を超える。だから、預金者にとって100%の安全にはならない。米財務省が全額保護を講じたことは、シリコンバレー銀行に預金を持ち続けても安全ということになる。だから、米金融不安の鎮静化にはかなり有効だったはずだ。

しかし、欧州の銀行危機は問題の次元が異なる。預金保護だけでは危機を封印できない。S銀は、劣後債を発行し、それを投資家が保有している。投資家はデフォルトを恐れて、CDSを保有しようとする。S銀の経営問題は、そのCDSのスプレッドが極端なまでに上昇して、危機感が強く意識されていることだ。S銀だけではなく、欧州の銀行のCDSのスプレッドも広がり、銀行危機の連鎖が起こりそうになっている。欧州の危機は、預金者不安ではなく、投資家不安なのだ。

預金保護は、政府の対策で何とかできる。しかし、CDSのリスクスプレッド拡大には手が打てない。何より、銀行規模が大きすぎる。過去の経験では、金融当局が銀行を一斉に特別検査して、ストレステストの結果に基づいて資本増強をしなければ、市場の不安心理は鎮静化しないだろう。場合によっては、公的資本注入、国有化という手もある。目先、金融不安の制御は、①流動性供給、②自己資本増強、の2つであろう。

利上げとの関係

ECBは、3月16日の理事会で+0.50%の利上げを決めた。米国のように、短期金利が上がって長短逆転までにはなっていないが、着実に長短金利は接近している。

ここには、中央銀行にはジレンマがある。インフレ退治のために政策金利を引き上げていくと、金融機関にもストレスが蓄積する。インフレ抑制の前に金融機関が破綻すると、今度は利上げができなくなる。しかし、インフレ退治をしなくてはいけない。

3月のECBの判断は、まだそのジレンマに陥ってはおらず、利上げの余地があるとみているのだろう。逆説的に利上げによって金融面のストレスは高まる。

ところで、このジレンマは、日銀にとっても教訓になる。マイナス金利をずっと続けると、銀行収益の弱体化が進んで、将来の金利上昇ができなくなる。まずは日本の銀行が利益を十分に出せるように、過度な金融緩和を止める必要がある。金融システムが揺るがないように体質強化をしてから、今度は利上げができるように準備する。植田次期総裁は、目先の景気だけではなく、金融システムのことを頭に入れて金利正常化を考えなくてはいけない。

危機は続くのか?

欧州・米国の金融不安はまだ続くのであろうか。正直に言って、まだわからない。大局的に考えると、欧米の中央銀行の利上げは、まだ先々の金融不安を呼ぶ可能性がある。

米国問題から欧州問題へと飛び火したことは、米国の中堅・中小規模銀行の不安が、欧州の大手銀行不安へと拡大した性格の違いがある。不安は、世界の投資マネー全体に拡大したとも言える。ECBは、まだ不安心理が強いうちは利上げを停止するという考え方もあったが、それを選択しなかった。

今後、不安拡大が起こるとすれば、金融引き締め局面で、ヘッジファンドなど投資の失敗が追加的に起こり、その損失が膨らむ場合だ。長期金利が上昇したことで、債券含み益が減った。これも金融機関経営にマイナスだった。

また、短期金利が上がると、資金調達を増やして投機的運用することもしにくくなる。企業の起債や、新興企業のスタートアップも減る。投資銀行業務は縮小を余儀なくされる。信用が縮んでいくデレバレッジの流れが金融セクターに大きなストレスを与えていく。あまり楽観的な見通しが言えなくなっている。

熊野 英生


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

熊野 英生

くまの ひでお

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 金融政策、財政政策、金融市場、経済統計

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