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2023.03.10
アジア経済
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マレーシア経済
マレーシア・ムヒディン元首相、職権濫用や資金洗浄などの容疑で逮捕
~コロナ禍対策を巡る疑惑の一方で政局争いが影響した可能性も、政治の成熟化は望めないか~
西濵 徹
- 要旨
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- 9日、マレーシア汚職対策委員会はムヒディン元首相の逮捕を発表した。逮捕容疑は首相在任中の職権濫用と資金洗浄などとしている。同国では昨年の総選挙を経てアンワル政権が誕生し、政権発足後は歴代政権の施策を巡る不正を追及する動きをみせてきた。そうしたなかでムヒディン元政権下のコロナ禍対策に焦点が当たった格好だが、ムヒディン氏は疑惑を否定した上で逮捕劇を「政治的謀略」と反発している。
- 他方、アンワル政権はいわゆる「ハネムーン期間」が終了するなか、足下ではアンワル首相の長女が上級顧問に就任した問題を機に批判が高まっている。アンワル氏はかつて縁故主義を批判したが、長女のステルス的な就任に加え、経済政策の権限がアンワル家に集中するとの懸念も批判が強まる一因になっている。ムヒディン氏の突然の逮捕劇は政権批判を交わすためとの見方もくすぶるなど、不透明な点が少なくない。
- 同国ではナジブ元首相による政府系ファンドを舞台にした汚職疑惑が政界を揺るがすとともに、その後の政権交代に発展した。同事件は国内外の捜査機関により数多くの証拠が示されたが、現時点で今回の事件は不透明なところが少なくない。ただし、同国政界では政局争いが激化する一方で国民の政治への関心は低下しており、結果的に同国政治が一向に成熟出来ない事態を招く可能性に注意する必要があると言える。
9日、マレーシア汚職対策委員会(MACC)は野党連合PN(国民連盟)のトップであるムヒディン元首相を逮捕したと発表した。MACCはムヒディン元首相の逮捕容疑を職権濫用と資金洗浄(マネーロンダリング)などを挙げており、首相在任中に実施したコロナ禍対策(建設業者を対象とする支援)を巡って業者側から同氏の所属政党(PPBM(マレーシア統一プリブミ党))に資金還流が行われたとしている。昨年11月に実施された総選挙(連邦議会下院選挙)では、アンワル現首相が率いる政党連合PH(希望連盟)が第1党、PNは第2党となるも、いずれの党も単独で半数を上回る議席を獲得することが出来ず、水面下において政権樹立に向けた政党間の合従連衡に向けた動きが激化した経緯がある(注1)。なお、その後は政党間の多数派工作が激化する背後で政権樹立が遅れて空白期間が長期化したため、アブドラ国王の仲介によりイスマイルサブリ前政権下で与党連立であった第3党の政党連合BN(国民戦線)がPHと連立を組むこととなり、アンワル政権が誕生した(注2)。アンワル氏率いるPHは汚職撲滅を争点に総選挙を戦ったこともあり、政権発足を受けて過去の歴代政権が行った施策を巡る不正を追及する姿勢をみせてきたなか、ムヒディン前政権下で実施されたコロナ禍対策がその『やり玉』に挙げられた可能性がある。ムヒディン元首相は不正を否定するとともに、自身の逮捕を「政治的謀略」と主張するなど反発を強めているが、PPBM内では他の政党幹部が逮捕されているほか、ムヒディン元政権下で与党連立の一角となった政党の口座が凍結されるなど、幅広く野党勢力に対する圧力の動きが強まっている。今年は6州において州議会選が実施されるなど、野党にとっては次期総選挙での政権奪還に向けた足掛かりとする重要な年となっているが、一連の逮捕劇は野党勢力にとって打撃となることが必至とみられる。
他方、アンワル政権は発足から100日を迎えるなど『ハネムーン期間』が終わりつつあるなか、今年1月にアンワル首相の長女(ヌルル・イザー氏(前下院議員))を経済・財政担当の上級顧問に任命したことを機に政権に対する批判が強まる動きがみられる。こうした背景には、アンワル氏がかつて政界にまん延する縁故主義を痛烈に批判してきたにも拘らず、ヌルル氏の上級顧問就任を『ステルス』的に実施したことを理由に、反って縁故主義に動いているとの疑念を生む事態となっていることも影響している(注3)。さらに、政権内ではアンワル首相が財務相を兼任しており、ヌルル氏が経済・財政担当の上級顧問に就任することを受けて経済政策に関する権限がすべてアンワル家に集中するとの懸念も政権に対する批判が高まる一因になっていると考えられる。こうしたことから、足下の状況を斜めからみれば、政権にとっては批判を逸らす観点から早期にムヒディン氏の逮捕に動いた可能性もくすぶる。
同国政界を巡っては、ナジブ元首相が在任中に自身の肝煎りで発足した政府系ファンド(1MDB)を舞台にした汚職事件が記憶に新しく、この問題を機に2018年に行われた総選挙を経て同国で初めて政権交代が行われる事態に発展した。政権交代後に発足したマハティール元政権の下で同事件に対する追及が行われ、最終的にナジブ元首相は逮捕・起訴された。なお、同事件については米国やシンガポール、スイスなど海外を含む、国内外の捜査当局による捜査を通じて数多くの証拠があぶり出された結果、ナジブ氏は一部の罪状に対する裁判で実刑判決により有罪が確定するとともに(注4)、現在は服役する事態となっている。その一方、今回ムヒディン元首相が関与したとされる疑惑については現時点においては不透明なところが多いものの、10日に捜査当局はムヒディン元首相を職権濫用や資金洗浄など計6つの罪状で起訴しており、仮に有罪となった場合には最高で禁錮20年に処される可能性がある。他方、ここ数年の同国政界においては政党間や政党内における政局争いが表面化するとともに、その度に首相が辞任に追い込まれて政権交代が行われるなど流動的な状況が続いたため、国民の間で政治に対する関心が低下する事態を招いたと考えられる。昨年の総選挙の投票率(74.04%)が前回(82.32%)から▲8.28ptと大幅に低下したことも、期待を受ける形で政権交代が行われた後も実態が変わらなかったことへの諦めとも映る。今回の汚職疑惑への捜査の行方如何では、国民の政治への関心が一段と低下するとともに、結果として同国政治が一向に成熟出来ない事態を招く可能性にも注意する必要があろう。
注1 2022年11月21日付レポート「「勝者なき」マレーシア総選挙、政権樹立へ合従連衡が活発化」
注2 2022年11月25日付レポート「マレーシア、大連立政権の樹立を経てアンワル氏が首相に就任」
注3 2月10日付レポート「マレーシア・アンワル政権は「安全運転」を維持することが出来るか」
注4 2022年8月24日付レポート「マレーシア・ナジブ元首相、有罪確定で政局を巡る動きが激化も」
西濵 徹
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- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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