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2026.07.17
アジア経済
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マレーシア景気はAI・半導体、原油高を追い風に堅調に推移
~4-6月GDPは前年比+5.8%に加速、先行きも外部環境に左右される展開が続く~
西濵 徹
- 要旨
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マレーシアは東南アジア有数の産油国である一方、国内の精製施設に適した中東産原油を輸入しているため、イラン情勢の緊迫化に伴う原油高の影響を免れない。ただし、政府が補助金によってエネルギー価格を抑制しており、6月のインフレ率は前年同月比+1.9%と低水準にとどまっている。中銀は、景気の堅調さとイラン情勢、リンギ安による物価上昇リスクの双方を勘案し、7月会合でも政策金利を6会合連続で2.75%に据え置いている。
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4-6月の実質GDP成長率(速報値)は前年同期比+5.8%に加速し、前期比年率でも+9.81%と高い伸びとなった。世界的なAI・半導体関連投資を背景に製造業や建設業が拡大したほか、商品高による鉱業の伸びや個人消費の堅調さも景気を押し上げた。先行きも関連投資や内需が景気を下支えすると見込まれる一方、原油高に伴う補助金負担の増大や、スーパーエルニーニョによる食料インフレ、輸入増を通じた対外収支の悪化が懸念される。
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政治面では、ジョホール州議会選で与党を構成するBNとPHが対決し、BNが議席を増やす一方、PHが議席を減らしたため、次期総選挙の前倒し観測や連立政権の先行きへの不透明感が高まっている。ただし、政局が実体経済に与える影響は限定的とみられ、景気の先行きを左右する主な要因は、AI・半導体投資やイラン情勢などの外部環境になるであろう。
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- 目次
【原油高も、補助金によるエネルギー価格抑制でインフレは低水準で推移】
イラン情勢の緊迫化をきっかけとする原油高は、世界的にインフレを招くとともに、中東からの輸入に依存するアジア新興国経済に悪影響を与えている。マレーシアは東南アジア有数の産油国であり、輸出全体に占める原油や天然ガスなど鉱物資源の割合は4割弱にのぼる。一方で、同国産原油は国際市場において高値で取引される軽質油であり、国営石油公社(ペトロナス)は国内供給より輸出を優先している。さらに、同国内の石油精製施設は中質油や重質油に適しており、中東産原油を輸入して精製する構図となっている。このため、イラン情勢による供給懸念は、産油国である同国にも悪影響を与えることが懸念された。
同国政府は、国民生活への悪影響を警戒して補助金によりガソリンや軽油などエネルギー価格を抑制している。その結果、イラン情勢の悪化による原油高を受けて物価上昇圧力は高まっているものの、直近6月のインフレ率は前年同月比+1.9%と周辺のASEAN(東南アジア諸国連合)諸国に比べて低水準に抑えられている(図1)。なお、6月の米国とイランによる停戦合意を受けて原油価格はいったん落ち着きを取り戻したが、足元では情勢が再び緊迫化し、原油価格は再上昇している。原油高による関連収入の増加は一巡する一方、歳入増加要因と歳出増加要因が打ち消し合い、財政への悪影響は一定程度抑えられた。一方、スーパーエルニーニョの発生による高温、少雨・干ばつが農業生産に悪影響を与え、食料インフレを招く懸念もある。

マレーシア国立銀行(中銀)は、7月9日の定例会合において政策金利を6会合連続で2.75%に据え置くなど様子見姿勢を維持した(注1)。中銀は政策金利を据え置く決定を行った理由について、足元の景気は世界的なAI(人工知能)・半導体関連投資の旺盛さが外需をけん引する形で堅調さが続いているとの見方を示す一方、イラン情勢を巡る不透明さが景気や物価の見通しに悪影響を与える可能性を指摘し、景気と物価の安定を重視したことを挙げた。また、金融市場では、イラン情勢の悪化が長期化するなかで補助金支出の増大による財政悪化など、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱化への懸念、FRB(米連邦準備制度理事会)による利上げ観測を反映したドル高も重なり、通貨リンギ相場の上値が抑えられた。リンギ安は輸出競争力の向上につながる一方、輸入インフレによる物価上昇を招くことが懸念されるため、中銀の様子見姿勢を後押ししたと考えられる。
【AI・半導体投資の旺盛さなども追い風に4-6月GDPは堅調さを維持】
前述のようにインフレが比較的抑えられていることに加え、世界的なAI・半導体投資の旺盛さが輸出を押し上げるなか、4-6月の実質GDP成長率(速報値)は前年同期比+5.8%となり、前期(同+5.4%)から加速している。当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースの成長率も+9.81%となり、前期(同▲0.05%)から2四半期ぶりのプラス成長に転じるとともに、2022年4-6月以来、4年ぶりの高い伸びになったと試算される。分野ごとの生産動向も、AI・半導体関連投資の活況を追い風に製造業の生産が大きく押し上げられるとともに、設備投資の活発化を反映して建設業の生産も拡大している。さらに、原油をはじめとする商品市況の急騰を受けて、鉱業部門の生産が大きく伸長した。加えて、インフレの落ち着きを受けて個人消費が堅調な動きをみせており、サービス業の生産も拡大している。一方で、異常気象を理由に農林漁業関連の生産は減少している。

先行きについては、世界的なAI・半導体関連投資の旺盛な動きに加え、再生可能エネルギー関連の投資が活発化しており、景気を押し上げる展開が見込まれる。さらに、こうした投資の動きも追い風に国内の雇用は底堅く推移しており、インフレが引き続き落ち着いた推移をみせれば、個人消費をはじめとする内需も景気を下支えすることが期待される。一方で、イラン情勢の行方が見通せない状況が続いており、原油価格が高止まりすることによる補助金支出の増大が財政を圧迫する可能性がある。スーパーエルニーニョの発生はアジア新興国全体で高温、少雨・干ばつによる農業生産の低迷が見込まれるなか、域内における食料需給に悪影響を与えることが懸念される。マレーシアの食料自給率は品目ごとに大きく異なるものの、コメや小麦のほか、大豆・とうもろこしといった穀物・飼料穀物の自給率が低く、全体として輸入依存体質にある。このため、穀物などの商品市況が上昇すれば、輸入増を通じて対外収支の悪化を招くため、金融市場において経済のファンダメンタルズの脆弱化を警戒する向きが強まる可能性に注意が必要である。
【解散・総選挙観測も景気への影響は限定的、外部環境に引き続き要注意】
マレーシア政界においては、2028年2月までに実施される次期総選挙の前倒し観測が広がりをみせている。7月11日に実施された南部ジョホール州議会選挙では、アンワル政権を支える与党連合の一部である政党連合BN(国民戦線)と、与党連合内で最大勢力のPH(希望連合)が対立する構図で選挙戦を展開した。BNは議席を積み増したものの、PHは議席を減らしており、BNは次期総選挙に向けて弾みをつける姿勢を示している(注2)。この結果、国政での連立の行方に不透明感が高まるとの見方も、足元ではリンギ相場の上値を抑える一因になっている(図3)。解散・総選挙の動向もアンワル首相次第であり、現時点においてその行方は見通せない。前述のように足元の実体経済の堅調さが確認されたほか、政局の動向が実体経済に与える影響が限定的と見込まれることを勘案すれば、その動向がリンギ相場を揺さぶる可能性は低いと見込まれる。一方で、同国の経済構造は外需依存度が極めて高く、世界的なAI・半導体関連投資の行方やイラン情勢など、外部環境に左右されることには注意が必要である。

注1 7月9日付レポート「マレーシア中銀、6会合連続金利据え置きで様子見姿勢を維持」
注2 7月13日付レポート「マレーシア、地方選で国政与党どうしが激戦、政局への影響は」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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