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2022.11.25
アジア経済
マレーシア経済
マレーシア、大連立政権の樹立を経てアンワル氏が首相に就任
~20年越しの捲土重来も、寄り合い所帯色の強い大連立ゆえにその行方は極めて不透明~
西濵 徹
- 要旨
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- マレーシアで19日に実施された連邦議会下院総選挙では、与野党間で四分五裂の選挙戦の結果、いずれの勢力も単独で半数を上回る議席が獲得出来なかった。その後は政党間の合従連衡の動きが活発化するも、ムヒディン元首相率いるPNとアンワル元副首相率いるPHが綱引きしあう形で空白期間が続いた。最終的に国王が連立協議の仲裁を行い、PHを中心とする大連立政権の樹立によりアンワル氏が首相に就任した。アンワル氏を巡っては20年以上の時を超えて政権奪取を果たした格好である。ただし、寄り合い所帯である大連立はアンワル氏やPHの主張する急進的な政策への反発が強まる可能性はくすぶる。2018年の前回総選挙後も政党間の政局争いをきっかけに首相退陣が相次いだことを勘案すれば、アンワル新政権にとっては円滑な政権運営のかじ取りが最優先課題となるが、現時点ではその行方は極めて不透明である。
マレーシアで19日に実施された連邦議会下院(代議院:総議席数222)総選挙を巡っては、与野党問わず四分五裂状態となる異例の選挙戦が展開された結果、いずれの勢力も単独で半数を上回る議席を獲得出来ず、その後は政党間で政権樹立に向けた合従連衡が活発化した(注 )。当初王室は現地時間の21日午後2時までに過半数の確保に成功した政党連合による首相候補者の提出を求めたものの、期日までに候補者提出がなされず、結果的に期日がなし崩し的に後ろ倒しされる状況が続いた。現地報道によると、総選挙で第2党に躍進したムヒディン元首相率いる政党連合PN(国民同盟)が地方政党連合であるGPS(サラワク同盟)、及びGRS(サバ人民連合)との間で連立政権の樹立で合意したものの、3党連合の議席数は101に留まるなど過半数に満たない状況が続いた。また、総選挙で第1党となったアンワル元副首相率いる政党連合PH(希望連盟)も地域政党連合などとの連立協議を進めたものの、こちらの勢力も半数を上回る議席を獲得出来ないなど『決定打』のない状況が続いた。こうしたなか、イスマイルサブリ前政権下で与党を構成した最大の政党連合BN(国民戦線)は大幅に議席を減らしたものの、両陣営が連合への取り込みを積極化させるなど『キャスティングボート』を握ったが、PNは前政権下の与党の一員でありながらも総選挙においてはBNとの協力関係を解消して独自候補を擁立する動きをみせたため、連立を組むことに難色を示してきた。このように連立協議が難航するなか、アブドラ国王はBNの幹部を王宮に呼んで連立協議の仲裁を働きかけたことを受け、最終的にBNはPHを中心とする連立政権に参加する意向を示した。結果、24日に王室はアンワル氏を首相に任命するとともに、直後に王宮で開かれた宣誓式を経て同氏は正式に首相に就任した。与党連立にはイスマイルサブリ前政権下の最大与党であるBNが加わるのみならず、PN以外のすべての政党連合が加わる大連立が成立した格好である一方、首相に当時の最大野党であるPHのアンワル氏が就任したことで事実上の政権交代と捉えられる。なお、PHは選挙公約に国会議員などの資産公開や首相、及び州知事の任期制限、報道の自由の保護、働く女性に対する養育費補助といったリベラル色の強い政策を掲げるなど、政策が大きく転換する可能性が高まる。他方、選挙戦では前政権下の与党であったBNの汚職体質を痛烈に批判する動きをみせてきたことを勘案すれば、最終的に批判対象としてきたBNとの連立樹立が巧く進むかは極めて不透明と捉えられる。事実、2018年の総選挙では建国後初めての政権交代が行われたものの、その後は政党間の政局争いの激化を理由に度々首相交代に追い込まれるなど政局の混乱が続き、最終的に国王の仲介により政局争いが一時休戦状態に持ち込まれる異例の動きに発展した。その意味では、アンワル氏にとっては円滑な政権運営の実現に向けたかじ取りが何よりも優先課題となることは間違いない。他方、アンワル氏自身は元々マハティール元首相の愛弟子でその後継者と目されるも、権力闘争を経て政治的な弾圧を受ける格好で副首相を解任されたほか、その後は同性愛行為などの罪で2度に亘り投獄されるなど辛酸を舐めた経験がある。2018年の前回総選挙において、アンワル氏はかつての恩讐を超えてマハティール氏と共闘して政権交代を実現するとともに(注 )、マハティール氏もアンワル氏への政権禅譲を見据えた動きをみせたものの(注 )、アンワル氏が恩赦を経て政界復帰を果たした後はマハティール氏が一転して禅譲に難色を示したことで再び両者の関係に亀裂が生じた(注 )。さらに、マハティール氏の首相辞任後はPHが分裂するとともに下野したことでアンワル氏は首相就任も叶わず、結果的に政権奪取に20年以上の時間を費やした格好となる。アンワル氏は首相就任後の記者会見において「人種、宗教、地域を問わず、誰もが軽んじられたと思われないようにすべきであり、政権では誰も置き去りにしない」と述べるなど民族融和を訴えるとともに、連立政権の枠組を巡って「挙国一致内閣である」とした上で反汚職などの取り組みで一致すればPNを受け入れる可能性を示唆する動きをみせた。ただし、大連立政権は完全な『寄り合い所帯』であり、アンワル氏やPHが主導する急進的な政策運営を巡って反発が出る可能性も予想されるなか、政局が安定出来るか否かは現時点では極めて不透明と言える。

注1 11月21日付レポート「「勝者なき」マレーシア総選挙、政権樹立へ合従連衡が活発化」
注2 2018年5月10日付レポート「マレーシア、独立後初めての政権交代へ」
注3 2018年10月15日付レポート「マレーシア、アンワル氏政界復帰で注目される「禅譲」の行方」
注4 2019年5月17日付レポート「マレーシア、マハティール政権復活の1年でどうなったか」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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