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南ア・ラマポーザ政権、内閣改造で電力担当相新設により事態打開は進むか

~国営電力公社の債務引き受けや担当相新設で事態打開を目指すも、予断を許さない状況は続く~

西濵 徹

要旨
  • 6日、ラマポーザ大統領は内閣改造を行い、副大統領に自身の側近であるマーシャル氏を任命したほか、深刻な電力不足に対応すべく電力担当の特命相の新設を決定した。先月末に公表した予算演説で、国営電力公社が抱える債務の約6割を政府が引き受けることで財務健全化を図るなど電力不足問題に対応する考えを示した。ただし、足下の電力不足は供給問題に起因する上、石炭価格は高止まりするなどコスト上昇圧力が掛かりやすいなかで事態は不透明である。国営電力公社はすでに公営企業相、鉱物資源・エネルギー相が管轄しており、特命相が事実上の「屋上屋」となる可能性もくすぶる。昨年12月の与党ANC議長選を乗り切り、来年の総選挙を経て政権2期目を目指すラマポーザ大統領にとっては、経済の立て直し、なかでも電力不足解消が急務となるが、一連の決定を受けて事態打開が進むかは予断を許さない状況にある。

南アフリカでは昨年12月、ラマポーザ政権を支える与党ANC(アフリカ民族会議)の議長選挙が行われ、現職のラマポーザ氏が勝利して再選を果たした(注1)。議長選でのラマポーザ氏の勝利は既定路線であったと考えられる一方、直前に議会に設置された独立調査委員会が同氏の関係が疑われる汚職問題に関する偽証を示唆する判断を行ったほか、その後に議会下院に同氏の弾劾の是非を審議する委員会の設置案が上程されるなど政局が混とんする可能性が懸念された。議会下院において与党ANCが多数派を占めていることもあり、委員会の設置案は反対多数で否決されて弾劾手続きは回避されたものの、ANCの一部議員が賛成票を投じたほか、多数の棄権票が生じるなど党内の混乱を示唆する動きが確認された。事実、議長選においても当初はラマポーザ氏の圧勝が予想されていたものの、結果的には対立候補の猛追を許すなど、党内における派閥争いが再燃する格好となった模様である。他方、議長選が行われた党大会で選出されたANCの最高幹部人事を巡っては、その大宗をラマポーザ氏の側近が占めるなど党内基盤は一段と強化されており、『党内力学』の観点ではラマポーザ政権は安定度を増していると捉えることが出来る。ただし、同国では来年に次期総選挙の実施が予定されているが、このところの総選挙においてANCの得票率は低下傾向に歯止めが掛からない展開が続いている上、一昨年に実施された統一地方選挙でANCの得票率が初めて5割を下回るなど『支持離れ』が深刻化している。この背景には、ズマ前大統領がスキャンダルを理由に退任に追い込まれるとともに汚職疑惑で起訴されたほか、その後は法廷侮辱罪で実刑判決を受けて収監されるなど政治不信に繋がったほか、ラマポーザ現政権の下でも景気回復は進まず、コロナ禍で経済が一段と疲弊したことも影響している。さらに、昨年以降は商品高を受けて食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレに加え、火力発電所の故障や石炭の国際価格の上振れなども影響して電力不足が深刻化して全土で計画停電が実施されており、幅広い経済活動の足かせとなることで景気は弱含む展開が続いている(注2)。足下の企業マインドを巡っては、電力不足を理由に毎日計画停電が実施されていることを反映して幅広く下振れするなど景気減速を示唆する動きが確認されている。他方、インフレ率は昨年7月を境に頭打ちしており、直近1月についても前年比+6.89%と一段と鈍化しているものの、依然として中銀の定めるインフレ目標(3~6%)を上回る推移が続いている。中銀は一昨年11月に3年ぶりの利上げに動いたほか、その後は国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ランド安への対応も重なり断続利上げを実施しており、1月の定例会合まで8会合連続の金融引き締めに動いている。なお、昨年末にかけては米ドル高の動きに一服感が出ていることを受けて、調整の動きが続いたランド相場も底打ちするなど輸入インフレ圧力の後退に繋がることが期待されたものの、足下においては再び米ドル高が意識される形でランド相場は調整する動きをみせるなど、輸入インフレが再燃する可能性もくすぶる。こうしたなか、6日にラマポーザ大統領は内閣改造を行い、ラマポーザ氏の側近でANC副議長のポール・マーシャル氏を副大統領に任命したほか、電力危機対応を目的に特命相(電力担当)を新設してクゴシエント・ラモクボパ氏を任命するなど対応を強化する姿勢をみせている。また、閣内におけるラマポーザ氏の側近であるエノク・ゴドングワナ財務相やグウェデ・マンタシェ鉱物資源・エネルギー相、プラビン・ゴーダン公共企業相などは留任する一方、党内宥和を意識する形でズマ前大統領派の人材も留任、ないし大臣ポストの交代により処遇する対応が続くなど、来年の総選挙に向けて『安全運転』を志向したと捉えられる。政府は先月末に公表した予算演説において、デフォルト(債務不履行)が懸念される国営電力公社(ESKOM)が抱える債務の約6割(2540億ランド(GDP比3.9%))を政府が引き受けることで財務の健全化に加え、電力の安定供給を目指す方針を示しており、電力担当相の設置によりこの動きを後押しすると期待される。他方、足下の電力不足は発電設備の老朽化に加え、発電所の新設が進まない上、同国では再生可能エネルギーに対する懐疑論が根強いことに伴う供給要因が影響しているほか、ウクライナ情勢の悪化が続くなかで世界的な石炭価格は一時に比べて落ち着きを取り戻すも依然高止まりしており、コスト上昇圧力が掛かりやすい状況は変わっていない。また、国営電力公社を巡っては公共企業相が管轄する上、同社の電力増強は鉱物資源・エネルギー相が担ってきたことから、電力担当相の新設の動きは事実上の『屋上屋』を架すものに留まるとの見方もくすぶり、事態打開の困難な状況が今後も続く可能性もある。ラマポーザ大統領にとっては政権2期目に向けた与党内、及び政権内の足場固めに注力してきたが、今後は総選挙での勝利に向けて経済の立て直し、なかでも電力不足の解消の取り組みが何にも増して重要になることは間違いないであろう。

図表1
図表1

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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