インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

中国、ゼロコロナ終了による景気回復は道半ばも、期待先行は続く

~商品市況の動向は先行きの物価に影響を与えるなか、当面は全人代の行方に注目が集まろう~

西濵 徹

要旨
  • 中国では昨年末以降、ゼロコロナ戦略が一転して終了したことによる感染爆発を受けて企業マインドは一段と下振れする一方、感染収束や春節連休も重なり先月は底打ちするなど景気回復を示唆する動きがみられる。ただし、政府版は幅広く改善する一方で民間版は製造業に回復力の弱さがうかがえるなど、実態は道半ばの状況にあると捉えられる。一方、金融市場では中国のゼロコロナ終了による景気回復を期待する向きが強まり、商品市況は底打ちの動きを強めるなど、現時点においては期待を織り込む動きが広がっている。
  • 商品市況の動向は企業部門が直面する物価に影響しやすいなか、1月の生産者物価(調達価格)は昨年末にかけての商品市況の調整の動きを反映して下押し圧力が掛かり、出荷価格に下押し圧力が掛かる展開が続いた。他方、1月の消費者物価はゼロコロナ終了による経済活動の正常化や春節連休の影響でサービス物価を中心に上振れする一方、消費財価格は引き続き落ち着いた推移が続く。足下のインフレ率の加速を以ってインフレ圧力が強まったと判断するのは早計であり、当面は川上における物価下落の影響が続く。一方、商品市況の影響は着実に物価動向に影響を与えると見込まれ、景気回復が進めばインフレ圧力が強まることも予想され、先行きは来月開幕する全人代での経済政策の内容に注目が集まる展開となろう。

中国によるコロナ禍対応を巡っては、長期に亘って徹底した検査と隔離など行動制限を課す『ゼロコロナ』に拘泥してきたなか、当初こそ早期の封じ込めによる景気回復を促す一方、感染が再拡大する度に強力な行動制限が課されたため、世界的にコロナ禍の克服が進む一方で景気の足を引っ張られる展開が続いた。当局によるゼロコロナ戦略が長期化する背後で若年層を中心に雇用環境が悪化する一方、商品高は中国でも食料品やエネルギーなど生活必需品を中心にインフレの動きが強まり国民の間に不満が蓄積した結果、昨年11月に抗議運動が活発化するとともに、一部は政権や体制に対する批判に発展する事態となった。こうしたことから、その後は地方レベルでコロナ規制が緩和する動きが広がり、12月初めには中国全土においてコロナ規制が全面的に解除されるなど、コロナ対応の大転換が図られた。ただし、急激な戦略転換を受けて直後に大都市部などは感染爆発状態に陥るとともに、感染動向の把握も困難になるなど深刻化したため、反って多くの国民が行動を萎縮させたことで昨年末にかけて企業マインドは一段と下振れするなど景気に急ブレーキが掛かった(注1)。他方、先月初めには国境再開も図られるなど国内外での移動が自由になり、中国経済のみならず、サプライチェーンの混乱を通じて世界経済の足を引っ張る一因となったゼロコロナ戦略は名実ともに終了した。さらに、その後の感染動向は落ち着きを取り戻している上、感染再拡大に繋がることが懸念された春節(旧正月)連休の大規模な人の移動を経ても感染動向に顕著な変化は生じていないとみられるなど、感染の波は着実に終わりに近付いている。こうした状況も影響して1月の企業マインドについては、政府(国家統計局、及び物流購買連合会)が公表したPMI(購買担当者景況感)は製造業、非製造業ともに好不況の分かれ目を上回る水準を回復するなど、ゼロコロナ終了に伴う中国景気の底打ちを示唆する動きが確認されている(注2)。他方、世界経済の動向に連動する傾向が強い財新PMIについては、サービス業でV字回復する動きが確認される一方、製造業の回復は緩やかなものに留まるとともに、依然として好不況の分かれ目となる水準を下回るなど回復の動きが『道半ば』である様子がうかがえる。ただし、足下の中国経済を巡ってはGDPの半分以上をサービス業など第3次産業が占めていることを勘案すれば、今年の春節期間中の国内旅行者数は依然としてコロナ禍前の半分程度に留まるものの、昨年に比べて1.5倍程度となるなど底入れしており、着実に改善に向けた一歩を踏み出していると言える。

図表1
図表1

中国によるゼロコロナ終了は、国際金融市場において中国景気の回復を期待する向きに繋がっており、昨年末にかけては世界経済の減速懸念を反映する形で商品市況は下振れする動きがみられたものの、年明け以降は一転して底打ちするなど商品市況を取り巻く状況は変化している。商品市況の動向は中国国内において企業部門を中心とする調達価格に影響すると見込まれるなか、1月の生産者物価(調達価格)は前年同月比+0.1%と前月(同+0.3%)から伸びが鈍化しているほか、前月比も▲0.7%と3ヶ月連続で下落するとともに前月(同▲0.4%)からマイナス幅も拡大している。幅広く原材料関連で調達価格に下押し圧力が掛かる動きが確認されるなど、昨年末にかけての商品市況の調整の動きを反映していると捉えられる。こうした動きを反映して1月の生産者物価(出荷価格)は前年同月比▲0.8%と4ヶ月連続のマイナスで推移している上、前月(同▲0.7%)からマイナス幅もわずかに拡大するなど下振れする展開が続いている。前月比も▲0.4%と前月(同▲0.5%)からわずかにマイナス幅は縮小するも2ヶ月連続で低下しており、上述のように原材料価格の低下により調達価格に下押し圧力が掛かっていることを反映して出荷価格も下振れするなど、ディスインフレ傾向が続いている様子がうかがえる。商品市況の調整の動きを反映して鉱物資源関連を中心に下押し圧力が強まる動きがみられるほか、日用品や生活必需品などの出荷価格も総じて低下しており、消費者段階においても財価格を巡っては下振れしやすい環境が続いていると捉えられる。

図表2
図表2

上述のように川上の段階では物価に下押し圧力が掛かる動きがみられるものの、1月の消費者物価は前年同月比+2.1%と前月(同+1.8%)から加速して3ヶ月ぶりに2%を上回る伸びとなっている。ただし、これは今年の春節連休の時期が前年に比べて前倒しされるなど時期にズレが生じている影響を考慮する必要がある。前月比は+0.8%と前月(同+0.0%)から大幅に上昇ペースが加速しており、供給不足の解消が進んでいることを反映して豚肉(同▲10.8%)は大きく下振れしているものの、野菜(同+19.6%)や果物(同+9.2%)、鮮魚(同+5.5%)など生鮮品を中心に食料品価格に押し上げ圧力が掛かったことが影響している。一方、昨年末にかけての原油価格の調整に加え、中国においては国際価格に比べて割安なロシア産原油の輸入を拡大する動きが広がっていることを反映してガソリン(前月比▲2.3%)などエネルギー価格は下振れしており、生活必需品を巡る物価の動きはまちまちの状況にある。なお、食料品とエネルギーを除いたコアインフレ率は前年同月比+1.0%と前月(同+0.7%)から伸びが加速しており、前月比も+0.4%と前月(同+0.1%)から上昇ペースが加速するなど、物価上昇圧力が強まっている様子がうかがえる。ただし、これは春節連休の影響で観光関連(前月比+9.3%)や家庭サービス関連(同+2.4%)などサービス物価に押し上げ圧力が掛かったことが影響している。その一方、消費財物価を巡っては食料品を除くと下押し圧力が掛かる展開が続いており、上述のように消費財関連で物価に下押し圧力が掛かりやすい状況にあることから、足下の状況を以ってインフレ圧力が強まっていると判断することは早計と捉えられる。他方、足下の商品市況が中国のゼロコロナ終了を好感する形で底打ちしていることを勘案すれば、先行きは生活必需品を中心にインフレ圧力が強まる可能性は高まっており(注3)、当局の政策運営如何では景気が上振れすることで幅広くインフレ圧力が強まり、金融緩和を続けてきた中銀(中国人民銀行)は政策の見直しを余儀なくされることも考えられる。当面は来月5日に開幕する全人代(第14期全国人民代表大会第1回全体会議)で討議される経済政策の行方に注目が集まることになろう。

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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