インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

ゼロコロナ終了でいよいよ中国景気の「巻き返し」が始まるか

~短期的にはV字回復の動きが追い風となるが、中長期的には構造問題など足かせとなる材料が山積~

西濵 徹

要旨
  • 中国では、当局のゼロコロナへの拘泥が景気の足かせとなってきたが、昨年末以降は一転戦略転換が図られた。性急な戦略転換に伴う感染拡大を受けて12月の企業マインドは幅広く下振れしており、10-12月の景気は踊り場状態となった。しかし、その後は感染動向が落ち着きを取り戻すとともに、経済活動の正常化を反映して人の移動の底入れを示唆する動きが確認されるなど、中国景気は「巻き戻し」の段階に入りつつある。
  • ゼロコロナ終了による経済活動の正常化の進展を反映して、1月の製造業PMIは50.1、非製造業PMIも54.4とともに4ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復している。足下の生産活動の底入れが確認される上、内需を中心とする受注拡大が企業マインドの改善を促している。幅広い分野でマインドが改善する一方、雇用の回復は道半ばの状況が続くなど家計消費の行方には不透明感がくすぶる。さらに、中国景気の回復を期待した商品市況の底入れが企業業績の足かせとなる動きもみられるなど、依然不透明要因はくすぶる。
  • 幅広い企業マインドの改善を受けて、足下の景気は文字通りの「V字回復」の様相をみせている。ただし、当局が支援する不動産セクターには不透明要因が山積する上、頼みの綱のEVも頭打ちが懸念されるほか、世界経済の減速懸念は外需の足かせとなる。今年の経済成長率は上振れが期待されるなど短期的には追い風が多い一方、中長期的には人口減など構造問題が足かせとなることは避けられないであろう。

中国では、コロナ禍に際して徹底した検査と隔離など行動制限を課す『ゼロコロナ』を目指す対応が採られ、当初においては早期の封じ込めに成功するとともに、深刻な景気減速から逸早く立ち直ることに成功した。しかし、その後の世界ではワクチン接種を追い風に経済活動の正常化を進める『ウィズコロナ』への転換が進むも、中国においては引き続き強力な行動制限を伴う『動態ゼロコロナ』が維持されてきた。その結果、中国国内においては感染が再拡大する度に景気が下振れするとともに、若年層を中心に雇用環境が悪化する一方、商品高は同国においても食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレを招いており、国民の間に不満が蓄積した。昨年11月には当局によるコロナ禍対応に対する抗議運動が活発化し、一部は政権や体制への批判に発展する異例の事態に発展したため、その後は地方レベルでコロナ規制を緩和する動きが広がった。また、12月初めには中国全土において公共の場での陰性証明が不要となるなどコロナ規制が全面的に解除される一方、大都市部などでは感染者数が急拡大するとともに、当局は事実上感染動向を把握することが困難になった。こうした急激な戦略転換による感染爆発を受けて直後は多くの市民が行動を萎縮させた結果、昨年12月の企業マインドは製造業のみならず、サービス業など幅広く悪化するなど、当局の思惑に反する形で景気に急ブレーキが掛かることが懸念された(注1)。昨年10-12月の実質GDP成長率は前年同期比ベースで+2.9%に鈍化しており、前期比年率ベースではゼロ成長となるなど、ゼロコロナ戦略の急激な転換により景気は踊り場状態に陥った(注2)。今月には入国時に課す隔離義務の撤廃により国境再開が図られており、中国のみならず、サプライチェーンの混乱を通じて世界経済の足を引っ張ったゼロコロナは名実ともに終了している。また、戦略転換の直後には大都市部などが感染爆発状態に陥るも、その後は落ち着きを取り戻す一方、医療インフラが脆弱な地方部では春節連休の大規模移動を受けて感染の動きが広がることが懸念された。なお、中国疾病預防控制中心(CCDC)は春節連休中の感染動向を巡って「顕著な拡大はみられなかった」としているほか、足下の感染動向について重傷者数や死者数も減少傾向にあり、感染の波は終わりに近付いているとの認識を示している。他方、今月初めに当局は感染動向の把握が困難になったことを理由に陽性者数の公表を取り止めているほか、WHO(世界保健機関)は中国から提出されるデータが不充分であることを理由に足下でも「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を維持するなど予断を許さない状況にある。とはいえ、戦略転換を受けて中国国内における人の移動に関わるデータはいずれも底入れを示唆する動きが確認されており、ゼロコロナの終了により足を引っ張られてきた中国景気はいよいよ『巻き返し』の段階に入りつつあると捉えることが出来る。

こうした状況を反映して国家統計局が公表した1月の製造業PMI(購買担当者景況感)は50.1となり、前月(47.0)から+3.1pt上昇して4ヶ月ぶりに好不況の分かれ目となる50を上回る水準となるなど底入れの動きを強めている。足下の生産動向を示す「生産(49.8)」は4ヶ月連続で50を下回る水準で推移するも前月比+5.2pt上昇するなど生産活動の底入れを示唆する動きがみられる。さらに、先行きの生産に影響を与える「輸出向け新規受注(46.1)」は同+1.9pt上昇するも引き続き50を下回る水準が続くなど欧米など主要国景気に不透明感が出ている上、米中摩擦などが重石になる一方、「新規受注(50.9)」は同+7.0ptと大幅に上昇して7ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復しており、内需の回復期待が生産活動を押し上げると期待される。業種別では、食品加工関連、医薬品関連、機械関連、鉄道・船舶・航空宇宙関連、ハイテク関連、電気機械設備関連など幅広い分野で改善の動きが広がっており、なかでも医薬品関連における改善の動きが顕著となっている。ただし、企業規模別では「大企業(52.3)」が前月比+4.0ptと50を上回る水準を回復する一方、「中堅企業(48.6)」は同+2.2pt、「中小企業(47.2)」は同+2.5ptとそれぞれ上昇するも50を下回る推移が続いており、労働力不足が足を引っ張るなど戦略転換後における混乱が影響している様子がうかがえる。こうした状況ながら「雇用(47.7)」は前月比+2.9pt上昇するなど雇用環境に底打ち感が出る動きがみられるものの、依然として50を下回る推移が続くなど調整圧力がくすぶっており、雇用回復は道半ばの状況にあるなど家計消費の回復に繋がるかは不透明である。他方、生産拡大の動きを反映して「購買量(50.4)」は前月比+5.5pt上昇して4ヶ月ぶりに50を上回るなど原材料需要の底入れを示唆する動きがみられる一方、生産拡大の動きにも拘らず「完成品在庫(47.2)」は同+0.6pt上昇するも50を下回る推移が続くなど在庫復元余力は充分にある。その意味では、短期的には中国景気の回復が世界経済の追い風となる可能性は高まっていると判断出来る。

図表1
図表1

さらに、12月にはサービス業を中心に企業マインドの悪化が顕著となった非製造業PMIも1月は54.4と前月(41.6)から+12.8ptと大幅に上昇して4ヶ月ぶりに好不況の分かれ目となる50を上回る水準を回復しており、製造業同様に企業マインドが大きく改善している。これまでもインフラ関連をはじめとする公共投資の進捗を受けて底堅い動きが続いた「建設業(56.4)」は前月比+2.0pt上昇するなど戦略転換を追い風に底入れしているほか、「サービス業(54.0)」は同+13.6ptと大幅に上昇して7ヶ月ぶりの水準に回復しており、戦略転換による経済活動の正常化の動きが素直に反映されている。建設業を巡っては、引き続き公共投資の進捗が図られていることに加え、住宅ローン規制の緩和による不動産需要喚起の動きや資金繰り問題を抱える不動産セクター支援の動きも重なり、マインドが下支えされている模様である。他方、サービス業については、春節連休を前に予約が大きく拡大したことを反映して鉄道輸送関連や航空輸送関連でマインドが大きく改善しているほか、経済活動の正常化の動きを反映して小売関連や宿泊関連、飲食関連も改善している上、金融市場においてはゼロコロナの終了による景気回復期待を織り込む動きがみられることを反映して金融関連や保険関連なども改善するなど、幅広く企業マインドは底入れしている。足下の経済活動が大きく改善するなか、先行きの経済活動に影響を与える「輸出向け新規受注(45.9)」は前月比+1.4pt上昇するに留まるなど、欧米主要国景気を巡る不透明感の高まりや米中摩擦などが外需の足かせとなる状況が続く一方、「新規受注(52.5)」は同+13.4ptと大幅に上昇して7ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復するなど、内需の回復期待の動きがマインドの改善を促している。なお、経済活動の正常化の動きが進むなかで「サプライヤー納期(49.7)」は前月比+9.3ptと大幅に上昇するも依然50を下回る水準に留まるなど、労働者不足がサプライチェーンのボトルネックになっている様子もうかがえる。こうした状況の一方で「雇用(46.7)」は前月比+3.8pt上昇して雇用の底打ちを示唆する動きがみられるものの、依然として50を下回る推移が続く。雇用回復は道半ばであり、製造業と同様に家計消費の回復に繋がるかは不透明である。さらに、中国の景気回復期待を追い風に商品市況が底入れしていることを反映して「投入価格(51.5)」は前月比+2.3pt上昇する一方、「出荷価格(48.3)」は同+0.8ptの上昇に留まるなど価格転嫁は進んでおらず、商品高の動きは企業業績面で足かせとなる可能性には注意が必要と考えられる。

図表2
図表2

上述のように製造業、非製造業問わず企業マインドが改善していることを反映して、1月の総合PMIは52.9と前月(42.6)から+10.3pt上昇して4ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復している上、7ヶ月ぶりの水準となるなど、足下の景気は文字通りの『V字回復』の動きを強めていると捉えられる。ただし、ゼロコロナの終了による経済活動の正常化の動きを反映して幅広い分野でマインドが改善している一方、住宅サービス関連や不動産関連などにおいては需要不足がマインドの足かせとなる動きが続いている。当局は不動産セクターに対する支援の拡充を図る動きをみせているものの、現時点において示されている資金繰り改善を目的とする起債支援を巡っては、その対象となり得るのはバランスシートが比較的健全な企業に限られている。さらに、起債により調達された資金は優先的に未完成の住宅建設の完工を目的に利用する必要があるため、バランスシートに難のある企業においては外債を中心にデフォルト(債務不履行)リスクがくすぶる状況は変わらない。他方、ゼロコロナ終了による経済活動の正常化の動きは中国景気の底入れを促すことが期待される一方、若年層を中心とする雇用回復が進まないなかでは家計消費を巡る『リベンジ消費』のすそ野は広がらない可能性があり、中銀(中国人民銀行)が公表した最新レポートにおいても貯蓄志向が一段と強まっていることが示唆されるなど、家計部門の財布の紐が固いままの状況が続く可能性もある。また、昨年以降は減税や補助金など財政措置も追い風にEV(電気自動車)の販売が大きく押し上げられたものの、昨年末にかけては頭打ちの様相をみせ『息切れ』を示唆する動きがみられる上、財布の紐が固くなることで頭打ちの様相をより強めることも予想される。さらに、世界経済は欧米など主要国景気の頭打ちが意識されるなど、中国経済にとって外需を取り巻く状況は厳しさを増すとともに、景気の足を引っ張る展開も予想される。なお、今年の経済成長率については+1.3ptのプラスのゲタが生じていると試算される上、ゼロコロナ終了により景気の底入れが示唆されるなど良好なスタートダッシュを切っていることを勘案すれば、昨年(+3.0%)を大きく上振れする可能性は高いと見込まれるなど短期的にみれば中国経済の回復が期待される。他方、昨年は61年ぶりに人口が減少に転じるとともに、出生数も大幅に減少するなど中長期的にみて人口減少が見込まれるなど、近年の中国の経済成長の原動力となってきた不動産、及び自動車を巡っては需要構造の変化が景気の足かせとなると見込まれる。その意味では、中国経済を巡っては短期的にみれば底入れが期待される一方、中長期的には頭打ちすることで世界経済の足かせとなることが避けられないであろう。

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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