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2023.02.03
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ペルー、反政府デモはまもなく2ヶ月になるも勢いが衰える兆しなし
~政権、議会、デモ隊の「三つ巴」状態となるなかで事態収拾の見通しはまったく立たず~
西濵 徹
- 要旨
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- ペルーでは、カスティジョ前大統領の弾劾・拘束を機に支持者によるデモが激化して非常事態宣言の発令に追い込まれた。デモ隊はカスティジョ氏の復権とボルアルテ大統領の辞任、議会閉鎖と早期の総選挙実施、憲法改正を求める。議会は総選挙実施の2年前倒しなど一定の譲歩をみせるが、大統領は年内実施を目指すなかで政権と議会、デモ隊が「三つ巴」状態となるなど事態収拾の見通しは立たない。デモの長期化で観光業や鉱業部門に悪影響が出るなど景気減速が必至の一方、インフレ高止まりで中銀は追加利上げを迫られるなど難しい対応が続く。銅価格を通じて世界経済にも影響を与えるなど、その動向に要注意である。
南米ペルーでは、カスティジョ前大統領に対する弾劾決定、その後に弾劾前後の行為を巡って反逆罪を理由に拘束されたことを受けて、カスティジョ氏や政権を支えた急進左派政党のPL(自由ペルー)支持者によるデモが激化し、一部が暴徒化したことで非常事態宣言が発令される事態となっている(注1)。近年の同国においては経済格差の拡大が社会問題化しており、低所得者層などいわゆる『忘れられた人々』の支持を追い風にカスティジョ氏が一昨年の大統領選で勝利する一方、同時に実施された議会選でPLは第1党となるも少数与党に留まり、カスティジョ前政権は議会と対立する展開が続いた。大統領選では大統領候補のカスティジョ氏と副大統領候補のボルアルテ氏がPLからタッグを組む形で出馬して当選を果たしたものの、ボルアルテ氏は副大統領に就任した後にPLと対立し、カスティジョ氏への弾劾決議に際しては議会内で多数派を占める右派と協調し、カスティジョ氏への弾劾決定を受けて副大統領から大統領に昇格する道筋を開いた。こうした経緯から、カスティジョ氏やPLの支持者にとってボルアルテ氏は『裏切り者』と見做されており、デモにおいてはカスティジョ氏の復権とボルアルテ氏の辞任、さらに、議会閉鎖と早期の総選挙実施、新憲法の制定などを要求する動きをみせている。デモの動きが活発化、且つ長期化するなか、議会は2026年に予定される次期大統領選、及び総選挙の実施時期を2年前倒しして2024年4月に実施する方針を決定したものの、デモ隊は早期の総選挙実施を要求する姿勢を崩さず、鎮静化の見通しが立たない状況が続いている。また、一昨年以降は商品高を理由にインフレが上振れする一方、昨年半ば以降は商品高の一服などを受けて頭打ちする動きがみられたものの、先月のインフレ率は反政府デモの激化による混乱を理由に再び加速に転じるなど鎮静化の兆しがみえない状況が続く。一方、デモの激化、及び長期化を受けて経済の柱の一つである観光業に深刻な悪影響が出ているほか(注2)、複数の鉱山が襲撃被害を受ける形で稼働停止を余儀なくされるなど幅広く経済活動が下振れしている。ボルアルテ政権は昨年末、総額59億ソル(GDP比0.6%)規模の景気下支え策の実施を発表したが、これは一連のデモに伴いすでに20億ソル(GDP比0.2%)相当の生産が失われているほか、インフラの損傷などが30億ソル(GDP比0.3%)規模に達しているとの見方を示していることに対応したものと考えられる。とはいえ、コロナ禍を経て財政状況は急速に悪化するなかで一段の財政状況の悪化は必至であり、外部環境に揺さぶられやすくなることは避けられない。こうした状況にも拘らず、中銀は先月の定例会合において18会合連続の利上げ実施を迫られており、一昨年以来の利上げ局面における累計の利上げ幅は750bpに達しており、物価高と金利高の共存が景気にさらなる冷や水を浴びせる懸念もくすぶる。政府は先月、首都リマと隣接する港湾都市のカヤオ、南部のプノ県とクスコ県を対象とする非常事態宣言を1ヶ月間延長する決定を行ったものの(注3)、依然として鎮静化の見通しが立たない状況が続いていることを勘案すれば、再延長を余儀なくされるとともに、さらなる長期化も避けられないと予想される。こうしたなか、先月末に左派議員が議会にボルアルテ大統領に対する弾劾動議案を提出するなど政権への揺さぶりを強める一方、ボルアルテ大統領は議会に次期総選挙の実施時期を年内にさらに前倒しする案を提出するも、議会はこの案を否決するなどこう着状態が続いている。ボルアルテ大統領は年内の次期総選挙実施に向けて憲法改正に言及するなど、議会との対立も辞さない考えを示しているが、政権、議会、デモ隊が『三つ巴』の状況を呈するなかで見通しはまったく立たない。このように政治、経済両面で不透明感が高まっているにも拘らず、通貨ソル相場は米ドル高の一服に加え、中国によるゼロコロナ終了を受けた商品市況の底入れ期待を追い風に底堅い動きが続いている。しかし、同国は世界2位の銅生産国で2021年時点における銅鉱石の生産量は全世界の1割強を占めるなか、中国のゼロコロナ終了による需要回復が進めば世界的な需給ひっ迫を通じて価格上昇を招くことも予想されるなど、その動向には引き続き注意が必要と言える。


注1 2022年12月15日付レポート「ペルー、政治混乱は一段と激化して収束が見通せない展開が続く」
注2 1月10日付レポート「ペルー、前大統領弾劾に端を発するデモ長期化で経済の柱、観光業に打撃」
注3 1月16日付レポート「ペルー、反政府デモは収束の見通し立たず、非常事態宣言を1ヶ月延長」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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