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2022.12.01
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トルコ、来年の選挙を前に景気に暗雲、景気底入れのサイクルが一変する兆しも
~国内外双方に不透明要因が山積、対外収支の悪化も続き景気底入れサイクルが逆回転するリスクも~
西濵 徹
- 要旨
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- 世界経済はスタグフレーションに陥る懸念が高まっている。世界的なインフレを受けた米FRBなどのタカ派傾斜は世界的なマネーフローに影響を与えるなか、経済のファンダメンタルズが極めて脆弱な上、インフレ下にも拘らず利下げに動くトルコでは資金流出が加速してリラ安がインフレ昂進を招いた。足下では米ドル高に一服感が出ているが、リラ相場はジリ安の展開が続くなどインフレ収束の見通しが立たない状況が続く。
- エルドアン大統領は来年6月の選挙を見据えて景気下支えの取り組みを進めてきたが、7-9月の実質GDP成長率は前期比年率▲0.5%と9四半期ぶりのマイナス成長に転じている。リラ安にも拘らずEU景気の減速やロシア人富裕層の逃避資金の一巡の動きが外需の重石となり、企業部門の設備投資意欲も後退している。利下げによる貯蓄の目減りを懸念した動きは家計消費を押し上げる一方、経常赤字が収まらない一因になっているとみられ、結果的にリラ安に歯止めが掛からない事態を招いている。先行きも国内外に景気の不透明要因が山積するなか、トルコ経済を取り巻く状況は急速に厳しさを増す可能性が高まっている。
- 今年の経済成長率は年前半の上振れも影響して9月末時点で+6.2%と堅調を維持しており、通年でも+5%程度の高成長は実現可能と見込まれるが、来年はその反動による下振れは避けられそうにない。来年6月の選挙を前にエルドアン政権はこれまで以上に苦境に立たされる可能性が高まっていると判断出来る。
世界経済を巡っては、中国による厳しい行動制限を課す『動態ゼロコロナ』戦略への拘泥が幅広い経済活動に悪影響を与えるとともに、サプライチェーンの混乱を通じて中国と連動性が高い国々の経済活動に悪影響が伝播するなど足を引っ張る動きがみられる。さらに、ウクライナ情勢の悪化による供給懸念を受けた商品高は世界的なインフレを招くなか、物価抑制を目的とする米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀のタカ派傾斜を受け、コロナ禍からの景気回復が続いた欧米など主要国では物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせる動きもみられる。結果、世界経済はスタグフレーションに陥る懸念が高まっている。また、米FRBなどのタカ派傾斜の動きは世界的なマネーフローに影響を与えており、なかでも経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱な新興国を中心に資金流出の動きが集中するなどの影響が出ている。トルコは経常赤字と財政赤字の『双子の赤字』が慢性化し、インフレも常態化している上、商品高を受けて食料品やエネルギーを中心にインフレ圧力が強まっているにも拘らず、中銀は『金利の敵』を自任するエルドアン大統領の圧力を受ける形で利下げを実施するなど経済学の定石では考えられない政策運営を行っている。こうしたことも影響して通貨リラ相場は最安値を更新する展開が続いており、輸入物価の押し上げが一段のインフレ昂進を招くなどインフレに歯止めが掛からない状況にあると捉えられる。なお、足下の国際金融市場においては米ドル高の動きに一服感が出ており、それまで資金流出に直面した新興国において一転して資金回帰の動きがみられる。しかし、トルコについては年明け以降もインフレが一段と昂進しているにも拘らず、中銀は8月に利下げ局面を再開させるとともに(注1)、先月の定例会合まで4会合連続の利下げ実施を決定するなど『見当外れ』の政策運営が続いており(注2)、リラ相場はジリ安の展開が続くなど外部環境とは無関係な推移をみせている。なお、このように中銀がインフレにも拘らず金融緩和に動いている背景には、同国では来年6月に大統領選、及び総選挙の実施が予定されているが、物価高が長期化するなかでエルドアン政権の苦戦が予想されるなか、利下げ実施を後押しすることで景気下支えを図ることで選挙戦を有利に進めたいとの思惑が影響しているとみられる。ただし、上述のような見当外れの政策運営によってインフレに歯止めを掛けられるはずもなく、足下のインフレは一段と加速の度合いを強めているほか、先行きも高止まりが続くことは避けられないであろう。


なお、エルドアン政権が来年6月に迫る次期大統領選、及び次期総選挙に向けて景気下支えを目指す姿勢を鮮明にしており、インフレ対応を目的に今年は最低賃金を50%と大幅に引き上げるなどの取り組みを進めているほか、感染一服が進んでいることも追い風にほぼすべての行動制限が解除されるなど経済活動の正常化を後押しする動きをみせている。こうした動きは年明け以降の景気を押し上げることに繋がってきたものの、そうした効果は早くも一巡しつつあることも影響して7-9月の実質GDP成長率は前期比年率▲0.50%と前期(同+7.71%)から9四半期ぶりのマイナス成長に転じるなど、底入れの動きを強めてきた景気に一服感が出ている。中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も+3.9%と前期(同+7.7%)から鈍化して9四半期ぶりの低い伸びに留まるなど、頭打ちの様相を強めている。リラ安による価格競争力の向上や国境再開にも拘らず、外国人観光客の半分近くを占めるEU(欧州連合)景気が頭打ちの様相を強めていることに加え、ウクライナ情勢の不透明化が長期化するなかでロシアをはじめとするCIS(独立国家共同体)からの外国人観光客は頭打ちの様相を強めるなど、これまで景気の底入れをけん引してきた外国人観光客の拡大の動きに陰りが出ている。さらに、財輸出の半分近くを占めるEU景気が頭打ちの動きを強めていることでEU向け輸出が鈍化しているほか、原油をはじめとする国際商品市況の上振れの動きに一服感が出ていることで中東向け輸出も頭打ちするなど、財輸出も下振れして景気の重石となっている。また、幅広く外需が下振れしていることを反映して製造業を中心に企業マインドが悪化するなかで設備投資意欲も大きく後退して固定資本投資に下押し圧力が掛かるなど、外需の悪化が内需の足かせとなる悪循環が確認される。こうした状況に加え、上述のように足下のインフレ率は大きく上振れするなど家計部門の実質購買力に下押し圧力が掛かる展開が続いているものの、上述のように政府による最低賃金の大幅引き上げに加え、中銀の相次ぐ利下げ実施により実質金利のマイナス幅が拡大しており、家計部門にとっては資産の目減りが懸念されるなかで消費が押し上げられる展開が続いている。ただし、こうした状況は慢性的に経常赤字を抱えるなど貯蓄過小状態が続く同国経済にとっては、需要拡大による輸入押し上げの動きが商品市況の高止まりと相俟って対外収支の悪化を招く一因になっているほか、結果的にリラ安に歯止めが掛からずインフレ収束の目途が立たない状況を招いていると捉えられる。分野別の生産動向を巡っても、農林漁業関連の生産に底堅い動きはみられるものの、外需の低迷は製造業の生産低迷を招いているほか、設備投資意欲の弱さやロシア人富裕層による不動産需要の一巡を受けて建設関連の生産も弱含むなど、これまで景気の底入れをけん引してきた分野が総じて一転して調整するなど、トルコ経済を取り巻く状況が一変しつつある様子がうかがえる。



先行きの同国経済を巡っては、物価高と金利高の共存を受けて財及びサービスの両面で輸出の半分を占めるEU景気に対する不透明感が高まっていることで一段と下押し圧力が掛かりやすい状況にある上、これまで景気の底入れを促してきたロシア人富裕層による逃避資金の流入の動きにも陰りが出るなど状況が一変する可能性が高まっている。さらに、足下の企業マインドは製造業を中心に悪化の度合いを強めるなど、雇用回復の流れにも一服感が出る兆しがみられるなか、中銀も利下げ局面の打ち止めを決定するなど一段の下支えに繋がる材料も乏しくなるなど、国内外双方で景気の足かせに繋がる材料が増す事態も予想される。今年については9月末時点における経済成長率は年前半の上振れも影響して+6.2%と高い伸びを維持しており、通年でも+5%程度の成長率を維持する余力はあると見込まれるものの、来年についてはその反動が出やすい状況にあることを勘案すれば、選挙前にも拘らず景気は勢いを欠く展開となる可能性は高まっている。ウクライナ情勢も見通しが立たず物価の行方も不透明ななか、財政及び金融政策面でも対応余地が限られるなか、エルドアン政権にとっては選挙を前にこれまで以上に苦境に立たされることも充分に考えられる。
注1 8月19日付レポート「トルコ中銀の「暴走特急」は再出発!」
注2 11月25日付レポート「トルコ中銀は先月の宣言通り利下げサイクル終了も、不透明感は山積」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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