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2022.12.09
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中国当局による「動態ゼロコロナ」変更はどこまで進むのか?
~2023年の世界経済は中国のコロナ対応とウクライナ情勢に揺さぶられる展開は引き続き変わらない~
西濵 徹
- 要旨
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- 世界経済はスタグフレーションに陥る懸念が高まるなか、中国経済にとっては国内外双方で景気の足かせとなる材料が山積している。中国による動態ゼロコロナ戦略と世界経済の減速懸念が重なり、11月の輸出額は前年比▲8.7%と頭打ちの様相を強めているほか、中国国内の内需低迷や商品市況の調整の動きを反映して輸入額も同▲10.6%と輸出同様に頭打ちしている。中国当局による動態ゼロコロナ戦略への拘泥は貿易黒字も縮小するなど対外収支の足かせとなっており、幅広く中国経済に悪影響を与えている。
- 世界経済の減速懸念を受けた商品市況の調整を反映して生産者物価(調達価格)は前年比▲0.6%、出荷価格も同▲1.3%とマイナスで推移するなど、川上段階におけるインフレ圧力の後退に繋がっている。さらに、川下段階の消費者物価も前年比+1.6%に鈍化、コアインフレ率も同+0.6%と底這いで推移しており、景気減速懸念の高まりを反映して幅広くインフレ圧力が後退している様子がうかがえる。中国当局による動態ゼロコロナ戦略への拘泥は中国経済のみならず、世界経済全体にとっても足かせとなっていると捉えられる。
- 動態ゼロコロナ戦略の長期化を受けて国民の間に不満が高まるなか、中国当局は一転してコロナ規制を緩和する動きをみせている。仮にこうした動きが進めば中国景気の底入れに繋がることが期待される一方、感染動向の急激な悪化を招くリスクはくすぶる。他方、中国景気の底入れは商品市況の上振れを通じて世界的なインフレ期待を高め、米FRBなどのタカ派傾斜を後押しする可能性もある。当面の世界経済は引き続き中国のコロナ対応とウクライナ情勢に揺さぶられる展開が続くことは避けられないと予想される。
足下の中国経済を巡っては、当局による強力な行動制限を伴う『動態ゼロコロナ』戦略への拘泥が景気の足かせとなっていることは間違いない。動態コロナ戦略への拘泥は幅広い経済活動に悪影響を与えているほか、サプライチェーンの混乱は生産活動の足かせとなるとともに、中国経済と連動性が高い国々の生産活動にも悪影響が伝播するなど、世界経済のリスク要因となっている。さらに、ウクライナ情勢の悪化による商品市況の上振れは世界的なインフレを招くなか、米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀は物価抑制を目的に金融引き締めの動きを加速させており、物価高と金利高の共存が欧米など主要国におけるコロナ禍からの景気回復の動きに冷や水を浴びせる兆しもみられる。このように世界経済はスタグフレーションに陥る懸念が高まる動きがみられるなど、中国経済にとっては内需のみならず、外需も景気の足かせとなる懸念が高まっている。こうした状況を反映して11月の輸出額は前年比▲8.7%と2ヶ月連続で前年を下回る伸びが続いている上、前月(同▲0.3%)からマイナス幅も拡大してコロナ禍の影響が最も色濃く現われた2020年2月(同▲40.6%)以来のマイナス幅となるなど、外需に大きく下押し圧力が掛かっている。当研究所が試算した季節調整値に基づく前月比も2ヶ月連続で減少している上、中期的な基調も減少傾向で推移するなど頭打ちの動きを強めている様子がうかがえる。動態ゼロコロナ戦略に伴い中国国内における生産活動や物流の停滞を反映してサプライチェーンが混乱していることに加え、欧米などの景気減速懸念の動きを反映して米国向け(前年比▲25.4%)やEU(欧州連合)向け(同▲10.6%)、日本向け(同▲5.6%)など先進国向けが軒並み前年を下回る伸びとなっているほか、ASEAN(東南アジア諸国連合)向け(同+5.2%)やアフリカ向け(同+5.4%)も伸びが鈍化している上、中南米向け(同▲12.7%)も大幅に減少するなど総じて頭打ちの動きを強めている。種類別でも加工組立関連(前年比▲13.6%)や輸入素材による加工関連(同▲23.1%)が大きく下振れしているほか、一般的な中国製品(同▲4.7%)も前年を下回る伸びに転じるなど需要が総じて弱含んでいることを反映した動きがみられる。一方の輸入額も前年比▲10.6%と前月(同▲0.7%)から2ヶ月連続で前年を下回る伸びで推移している上、マイナス幅も2020年5月(同▲16.2%)以来の水準となっているほか、前月比は3ヶ月連続で減少していると試算されるなど輸出同様に頭打ちの様相を強めている。種類別でも、企業の設備投資意欲の後退を反映して装置関連(前年比▲22.0%)の輸入は大きく下振れしているほか、輸出財の素材及び部材関連(同▲62.8%)や素材及び部材関連(同▲25.4%)も低迷している上、加工組立関連(同▲14.6%)や一般輸入財(同▲6.5%)も軒並み前年を下回る伸びとなるなど、家計消費をはじめとする内需が弱含んでいることも輸入額の重石になっている。世界経済の減速懸念の高まりを反映して原油をはじめとする商品市況の上振れの動きに一服感が出ていることも輸入額を下押ししている上、ロシアから割引価格での調達を拡大させていることも輸入額の重石になっていると捉えられる(注1)。また、貿易黒字額は+698.37億ドルと上海市などでのロックダウン(都市封鎖)に伴い下振れした今年4月(+511.19億ドル)以来の黒字幅に縮小しており、動態ゼロコロナ戦略は対外収支の足かせとなっている様子もうかがえる。


上述のように、中国経済の減速感が強まっていることに加え、世界経済もスタグフレーションに陥ることが懸念される状況は、ウクライナ情勢の悪化を受けて上振れした商品市況の足かせとなる動きがみられるなか、中国においても川上の企業部門を中心に物価上昇圧力が後退する動きがみられる。11月の生産者物価(購買価格)は前年比▲0.6%と前月(同+0.3%)から前年を下回る伸びに転じており、マイナスとなるのは2020年11月(同▲1.6%)以来となるなど大きく下振れしている。前月比も+0.0%と前月(同+0.3%)から上昇ペースが鈍化しており、非鉄金属関連をはじめとする原材料価格に幅広く下押し圧力が掛かっていることを反映して中間財関連の投入財価格が下振れしていることも影響している。さらに、川上段階における物価上昇圧力の後退の動きを反映して、消費者段階に反映されやすい生産者物価(出荷価格)も前年比▲1.3%と前月(同▲1.3%)から2ヶ月連続のマイナスで推移しており、物価上昇圧力が後退しやすい状況にあると判断出来る。前月比も+0.1%と前月(同+0.2%)からわずかに上昇ペースが鈍化しており、川上段階における物価上昇圧力の後退の動きを反映して原材料関連で物価に下押し圧力が掛かる動きがみられるほか、当局が原材料価格の上昇を製品価格に転嫁することを事実上禁止していることを反映して消費財価格も落ち着いた推移が続いている一方、食料品やエネルギーなど生活必需品関連では物価上昇圧力がくすぶる。こうした動きは川下段階に当たる消費者物価に影響を与えており、11月の消費者物価は前年比+1.6%と前月(同+2.1%)から鈍化して8ヶ月ぶりに2%を下回る伸びとなっているほか、前月比も▲0.2%と前月(同+0.1%)から3ヶ月ぶりの下落に転じるなどインフレ圧力が後退している様子がうかがえる。ただし、当月は電気(前月比+0.3%)やガソリン(同+2.0%)などエネルギー関連で物価上昇圧力が強まる動きがみられる一方、野菜(同▲8.3%)や水産品(同▲1.1%)、豚肉(同▲0.7%)など生鮮品を中心とする食料品価格で上昇の動きに一服感が出ており、生活必需品を巡る物価の動きはまちまちの状況にある。他方、食料品とエネルギーを除いたコアインフレ率は前年比+0.6%と前月(同+0.6%)から3ヶ月連続の横這いで推移しているほか、前月比も▲0.2%と前月(同+0.1%)から8ヶ月ぶりの下落に転じている。動態ゼロコロナ戦略に伴い若年層を中心とする雇用環境の悪化を受けてサービス物価に下押し圧力が掛かっている上(注2)、上述のように川上段階からの価格転嫁が進んでいない上、家計部門の財布の紐が固いなかで価格競争が激化していることも消費財物価の重石になるなど、幅広くインフレ圧力が後退している様子がうかがえる。その意味では、中国当局による動態ゼロコロナ戦略への拘泥は中国経済のみならず、世界経済全体の足かせとなっていると捉えることが出来る。


なお、中国当局による動態ゼロコロナ戦略の長期化を受けて国民の間に不満が高まるなか、内陸部の新疆ウイグル自治区での火災対応を巡る情報をきっかけに抗議運動の動きが広がり、一部で政権批判に発展するなど過去に例をみない動きが出たことを受けて、中国国内ではここ数日一転して様々な規制が緩和される動きが広がっている。仮にこうした動きが順調に進んで行動制限の緩和の動きが広がれば、生産活動の正常化が進むとともに、滞留している物流が円滑化することでサプライチェーンの回復が進むことが期待される。昨年末以降の中銀(中国人民銀行)による段階的な金融緩和などを受けて信用動向は底入れするなど平時であれば景気押し上げに繋がる動きがみられるにも拘らず、動態ゼロコロナ戦略への拘泥が景気の足かせとなってきた状況を勘案すれば(注3)、戦略転換が進むことにより中国景気を取り巻く状況は一変することが期待される。なお、中国国内における新規陽性者数は先月末を境に頭打ちしているものの、足下において有症状者数は拡大の動きが続いており、行動制限の緩和による経済活動の活発化を受けて感染動向が急激に悪化する事態となれば、当局が再び戦略の見直しを余儀なくされる可能性はくすぶる。他方、上述のように世界経済の減速懸念は上振れした商品市況の頭打ちを促すなど、世界的なインフレの鎮静化に繋がることが期待されるものの、中国景気が回復の動きを強めることはこうした状況が一変することを意味しており、国際金融市場における米FRBなど主要国中銀のタカ派後退期待に冷や水を浴びせることになり、米ドル高の一服を受けて資金流出の動きが後退している中国をはじめとする新興国を取り巻く環境が変化することが予想される。その一方、中国当局が引き続き動態ゼロコロナ戦略に拘泥する展開が続けば、中国経済を取り巻く状況は厳しい展開が続くほか、上述のように欧米など主要国景気を巡る不透明感が高まることも重なり、世界経済にとっては『けん引役』不在となる可能性が高まる。ウクライナ情勢も不透明な展開が続いて供給不安を理由とする食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とする世界的なインフレ圧力もくすぶると見込まれるなか、世界経済、及び国際金融市場は中国のコロナ対応に右往左往させられることが予想される。その意味では、2023年の世界経済は引き続き中国のコロナ対応とウクライナ情勢に揺さぶられる展開が続くことは避けられそうにない。

注1 12月5日付レポート「OPECプラス、23年1月以降も「現状維持(日量200万バレルの協調減産)」決定」
注2 11月30日付レポート「中国経済が世界経済のリスクとなる日」
注3 11月28日付レポート「習政権による「動態ゼロコロナ」拘泥のしわ寄せを受ける中国人民銀行」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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