インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

中国経済が世界経済のリスクとなる日

~動態ゼロコロナは限界も対応は八方塞がり、世界経済、金融市場にとってのリスクが意識される懸念~

西濵 徹

要旨
  • 中国の動態ゼロコロナ戦略への拘泥に加え、欧米など主要国では物価高と金利高の共存が続くなど、世界経済はスタグフレーションに陥る懸念が高まっている。中国国内では動態ゼロコロナ戦略の長期化に国民の不満が高まっており、金融市場では戦略転換を期待する向きがみられる。しかし、当局は金融緩和による景気下支えに動く一方で戦略自体を変える気はない模様であり、「期待外れ」に終わる可能性は高いであろう。
  • 先月の党大会を経て習政権は3期目入りを果たすもその船出は景気減速に直面する展開が続くなか、11月の製造業PMIは48.0と一段と低下している。足下の生産動向のみならず、国内外で受注が悪化している上、雇用調整圧力も強める動きがみられる。比較的堅調な動きが続いた非製造業PMIも11月は46.7と一段と低下しており、動態ゼロコロナ戦略による行動制限は幅広くサービス業のマインド悪化を招いている。雇用環境も悪化しており、生活必需品のインフレが続くなかで家計部門を取り巻く状況は厳しさを増している。
  • 製造業、非製造業を併せた総合PMIも11月は47.1と上海ロックダウンの影響が色濃く現われた4月以来の低水準となった。4-6月は大幅マイナス成長となったが、10月と11月の平均値は4-6月の平均値を下回るなど足下の景気は急激に下振れしている模様である。世界経済の減速と国際金融市場の動揺が重なれば影響が深刻化するリスクがあるなか、中国経済は世界経済のリスク要因となる可能性が高まっている。

中国当局による『動態コロナ戦略』への拘泥を巡っては、厳格な行動制限を理由に幅広い経済活動に悪影響が出ているほか、サプライチェーンの混乱を通じて生産活動への悪影響が中国経済と連動性が高い国々に伝播するなど、世界経済の足を引っ張る動きに繋がっている。さらに、ウクライナ情勢の悪化を受けた供給懸念を理由とする商品高が世界的なインフレを招くなか、米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀はタカ派傾斜の動きを強めており、コロナ禍からの回復が続いた欧米など主要国経済では物価高と金利高が共存する事態に直面するなど、景気に冷や水を浴びせる懸念が高まっている。結果、世界経済はスタグフレーションに陥る可能性が急速に高まっている。他方、中国では動態ゼロコロナ戦略に伴う行動制限が長期化していることで国民の間に不満が高まるなか、内陸部の新疆ウイグル自治区での火災対応を巡る情報をきっかけに抗議運動が広がりをみせるとともに、一部が政権批判を展開するなど過去に例をみない動きに発展する兆しも出ている。なお、当局が推進する動態ゼロコロナ戦略では携帯電話の位置情報を通じて人々の行動が当局に『筒抜け』状態となっている上、ここ数年は街中に張り巡らされた監視カメラと顔認証システムをはじめとするAI(人工知能)との連動による監視システムが発達していることを勘案すれば、今後は抗議行動の広がりに対して当局は徹底した弾圧のほか、逮捕、及び起訴などを通じた取り締まり強化に動く可能性は高いと見込まれる。また、幅広い行動制限を受けて景気の下振れ懸念が強まっていることに対応して、中銀(中国人民銀行)は来月5日付で金融機関に対する預金準備率を25bp引き下げる金融緩和を決定するなど(注1)、コロナ禍の悪影響に直面する中小・零細企業を対象とする支援強化による景気下支えに動く方針を明らかにしている。さらに、上述のように当局による動態ゼロコロナ戦略への拘泥を巡って国民の間に不満が噴出していることを受けて、当局(国家疾病預防控制局)はあくまで国民の不満は対策そのものにではなく、過剰規制や画一的な適用にあるとの認識を示した上で、社会や経済への影響軽減に向けて政策の微調整を続けるとの考えを示している。金融市場においては再びコロナ規制が緩和されるとの期待が高まる動きがみられるものの、過去にもそうした期待は見事に『期待外れ』に終わってきたこと、習政権肝煎りの動態ゼロコロナの否定は自身の否定に繋がり得ることを勘案すれば、実態として何も変わらない状況が続くと予想される。その意味では、現時点において過度な期待を抱くことは極めて難しい状況にあると判断出来る。

中国においては、先月の党大会を経て習近平指導部は3期目入りを果たすなど政治的に重要な時期を迎えているにも拘らず、3期目の船出を巡っては動態ゼロコロナ戦略が足かせとなる形で景気減速に直面する展開が続いている(注2)。さらに、その後も動態ゼロコロナ戦略による行動制限の動きが一段と強まるとともに、その対象が拡大するなど悪影響が深刻化していることを反映して、製造業の生産活動に幅広く悪影響が出る事態となっている。こうした動きを反映して、30日に国家統計局が公表した11月の製造業PMI(購買担当者景況感)は48.0と好不況の分かれ目となる50を下回る推移が続いている上、前月(49.2)から▲1.2pt低下して上海市などでロックダウン(都市封鎖)が実施された4月以来の低水準となるなど、急速に企業マインドは冷え込んでいる様子がうかがえる。足下の生産動向を示す「生産(47.8)」は前月比▲1.8ptと大幅に低下して減産圧力が強まっているほか、先行きの生産動向に影響を与える「新規受注(46.4)」も同▲1.7pt、「輸出向け新規受注(46.7)」も同▲0.9ptともに低下するなど、国内外双方で受注動向が急速に悪化する動きもみられる。世界経済の減速懸念の高まりを受けた商品市況の調整の動きを反映して「購買価格(50.7)」は前月比▲1.6pt低下する一方、受注動向の悪化を受けた原材料需要の低迷を反映して「輸入(47.1)」も同▲0.8pt低下するなど、玉突き的に中国経済への依存度が高い国々の景気の足を引っ張ることが懸念される。なお、減産の動きを反映して「完成品在庫(48.1)」は前月比+0.1ptとわずかな上昇に留まるなど在庫復元余力は充分と捉えられる一方、先行きに対する期待を示す「生産活動期待(48.9)」は同▲3.7ptと大幅に低下して50を大きく下回る水準に低下するなど、マインドが急速に悪化している様子がうかがえる。さらに、行動制限によるサプライチェーンの混乱を反映して「サプライヤー納期(46.7)」は前月比▲0.4pt低下している上、「雇用(47.4)」も同▲0.9pt低下するなど雇用調整圧力が強まる動きが確認されるなど、家計部門を取り巻く状況は一段と厳しくなっていることは間違いない。企業規模別でも、大企業(49.1)、中堅企業(48.1)、中小企業(45.6)といずれも50を下回る水準となるなど、幅広く企業マインドが急速に冷え込む動きが広がっていると捉えることが出来る。

図表1
図表1

一方、当局による動態ゼロコロナ戦略の拘泥による行動制限の動きは製造業以外にも悪影響が深刻化する動きがみられるなか、製造業に対して比較的堅調な動きをみせてきた非製造業PMIも頭打ちの動きを強めており、11月は46.7と製造業と同様に好不況の分かれ目となる水準となっている上、前月(48.7)から▲2.0pt低下して4月以来の低水準となるなど急速にマインドが冷え込んでいる。うち業種別では「建設業(55.4)」は引き続き50を上回る水準を維持するなど堅調な推移が続いており、地方政府が主導するインフラ投資関連の進捗の動きが引き続きマインドを下支えする動きが続いているとみられる一方、行動制限の余波を受ける形で輸送関連や飲食関連、宿泊・観光関連、文化・娯楽関連などを中心に「サービス業(45.1)」の低下が鮮明になっている。足下の生産活動が下振れしていることに加え、先行きの生産活動に影響を与える「新規受注(42.3)」は前月比▲0.5pt、対照的に「輸出向け新規受注(46.1)」は同+1.1pt上昇する動きがみられるものの、いずれも50を大きく下回る水準で推移するなど国内外の受注動向は極めて厳しい。国際商品市況の底入れの動きに一服感が出ていることを反映して「投入価格(49.9)」は前月比▲1.1pt低下する一方、「出荷価格(48.7)」は同+0.6pt上昇するなど原材料価格の上昇を一部商品価格に転嫁する動きがみられるものの、景気に対する不透明感が強まるなかで価格転嫁の難しさがくすぶる状況も続いている。さらに、サプライチェーンの混乱の動きは非製造業においても「サプライヤー納期(45.0)」が前月比▲3.3ptと大幅に低下する一因となっている上、先行きに対する期待を示す「業務活動期待(54.1)」も同▲3.8ptと大幅に低下するなど先行きに対する期待が急速にしぼんでいる様子もうかがえる。また、製造業と同様に「雇用(45.5)」も前月比▲0.6pt低下するなど雇用調整圧力が強まる動きがみられるなど、生活必需品を中心とするインフレが続くなかで家計部門を取り巻く状況は厳しさが増すことも予想される。

図表2
図表2

このように、製造業、非製造業ともに企業マインドは急速に悪化しており、これらを併せた総合PMIも11月は47.1と前月(49.0)から▲1.9pt低下して4月(42.7)以来となる水準に留まるなど極めて厳しい状況にある。なお、上海市などでのロックダウンの影響が最も色濃く現われた4-6月の実質GDP成長率は前期比年率▲10.4%と大幅マイナス成長に陥ったと試算されるが、4-6月の総合PMIの平均値は48.4であったと試算される一方、現時点において10月と11月の平均値は48.1とこれを下回ると試算されるなど、足下の景気に急速に下押し圧力が掛かっていると捉えられる。上述のように当局は財政、及び金融政策を通じた景気下支えに向けた動きを前進させているものの、足下の景気減速の『元凶』となっている動態ゼロコロナ戦略への拘泥が変わらない状況では、仮に何かが行われた場合においても焼け石に水の状態となる可能性はくすぶる。世界経済の減速が一段と意識されやすい環境にあり、国際金融市場に動揺が広がればその影響が深刻化する可能性が高まる事態も懸念されるなか、当面の中国経済を巡る状況は世界経済にとって最大のリスク要因となることも予想される。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ