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今後の米金融政策は、2023年の世界経済の行方を見通すために最重要だ。しかし、11月の政策決定のメッセージは、極めて読みにくいものになった。早ければ12月に利上げ幅を縮小し始めるが、それは利上げを止めるシグナルではないという。一体、どういった意図なのだろうか。それをわかりやすく解説することは、FRBの思考を深く探求することにもなる。
わかりにくかった11月のFOMC
11月1・2日のFOMC(米連邦公開市場委員会)は、金融当局のメッセージが非常にわかりにくかった。金融引き締めの姿勢について、白(利上げ停止)か、黒(引き締め継続)かで色分けしようとすると、大雑把すぎて、理解不能になる。パウエル議長は、もっと細かいニュアンスを伝えようとしている。しかし、FRB自身が最終的にどこまで利上げを進めようとしているのかが明確ではないので、本質的に金融引き締めの全体像が伝わりにくいところもある。
また、米株式市場の投資家には、FRBの利上げ幅の緩和=利上げ停止が近いことのシグナルという前傾化した姿勢が根強くあるので、FRBからの情報発信には半ば期待外れだと感じるだろう。
月面着陸のアナロジー
パウエル議長は、早ければ12月13・14日の次回FOMCで、利上げ幅を+0.75%からペースダウンすると予告した(図表)。情勢次第では、+0.50%の利上げになる可能性もある(現在の政策金利水準は3.75~4.00%)。

筆者は、現在のFRBの情報発信を読み解くために、月面着陸のアナロジーがわかりやすいと考えている。パウエル議長が何を考えて、どうしようとしているのかを筆者なりに解説してみたい。
まず、読者は、今、ロケットの操縦席に座って、月面基地を目指して飛んでいると考えてほしい。地球を出発して、そのときから、3月+0.25%、5月+0.50%、6月+0.75%とブースターを噴かして加速してきた。+0.75%のブースター噴射は6・7・9・11月と4回連続になる。巡航スピード(中立金利2.5%)をすでに超えて、月面に急接近している。速度計は11月に3.75~4.00%と表示されている。
読者は、月面基地が目視できる距離に来たならば、どうするか。多分、加速度を緩めて、着陸体制に移行するはずだ。ロケットの機体には、すでに相当の慣性力が働いていて、それだけでも月面に接近できる。
船長(読者)は、早ければ12月に月面基地が見えてくるので、利上げペースを+0.50%に変わる可能性があると船内にアナウンスする。月面基地が見えないときはぐんぐんと速度を上げるが、着陸地点がぼんやりと見えてくれば、今度は加速度を緩める。スローダウンは、最終着地の位置が見え始めたからこそ、行っているのだろう。着陸体制では、ロケットを等速に固定して、基地からレーザー誘導してもらう。レーザー誘導時の「速度(金利水準)」をターミナル・レートと呼ぶ。最終着地点の金利という意味である。
FRBが今しようとしているのは、スピード調整をして、ターミナル・レートを見定める作業だ。月面に近づいたから、減速して最終着地に入る速度を見つけようとしている。これは、引き締めを止めることを意図したものではない。引き締めの計画の範囲内の行動である。
12月に+0.75%にするか、+50%にするかは、データ次第という理屈になる。2023年1~3月には2回のFOMCがある。そこで、+0.50%、+0.25%と小幅の利上げにすることで、最終的な金利水準を5.00~5.50%の範囲内のどこかにあるターミナル・レートに落ち着かせるつもりだ。その後は、5%台前半のターミナル・レートで、物価が2%の上昇率に下がっていくのを我慢強く待つことになる。
11月のFOMC後の記者会見では、パウエル議長はいくつかの指摘をした。①ターミナル・レートを目指していること、②利上げ幅の修正は利上げ停止のシグナルではない。③利上げ効果には、今までの累積効果が作用していること、などである。次回12月のFOMCでは、四半期ごとのドットチャートが示される。そこでは、2023年末の政策金利見通しが重要になる。それは9月に示していた4.6%よりも高くなることが予告されている(9月予想は2022年末4.4%だった)。
現状分析
FRBが利上げのスピードを調整し始めるのは、論理的に言えば、物価基調が鈍化してきたときである。今までの利上げが効果を発揮してきたからこそ、今度はターミナル・レートを設定できそうだという理屈になる。まだ明確ではないターミナル・レートの水準をFRBは近々見定めることになる。筆者には、まだ多少早いかなと思えるが、FRBはすでに何かの証拠をつかんでいて、「早ければ12月」と言っているのだろう。
10月の雇用統計では、単位労働コストが若干ではあるが、鈍化した。9月の前年比5.0%から10月同4.7%への小幅化である。小売売上高も、月次の前月比では上下動を繰り返して強さはない。GDP統計では、住宅投資を大きく減少させている。あとは、11月中旬からのクリスマス商戦で、個人消費の趨勢がどうなるかが、鍵を握っている。
FRBが怖がっていること
筆者は、11月のFOMC前の株式市場で利上げの打ち止めを前のめりで期待したことは、ちょっと早合点だと感じだ。それは、おそらく、FRBがインフレ期待の存在を強く警戒していることを十分に頭に入れていないからだと考えられる。
例えば、消費者物価の上昇率が8%でしばらく推移したとしよう。すると、人々のインフレ期待も6%程度に上昇してしまう。こうなると、企業の価格設定が6%に変わって、もう2%の上昇ペースに戻らない。FRBが6%のインフレ期待を変えるためには、引き締めを強化して、需給を悪化させることが必要になる。これは、人為的な景気のオーバーキルを意味する。
FRBは、1970~80年代の経験から、インフレ期待が高まると、物価が下がりにくく、インフレと景気悪化が併存するスタグフレーションに陥ることを学んだ。1979年にボルカー議長は、高止まっていたインフレ期待を引き下げるために、強烈な引き締めを実施した。その教訓は、FRBの面々の記憶に残っていることだろう。
今後の注目点
筆者のメインシナリオは、FRBの利上げは2023年3月頃に停止されるというものだ。インフレ期待を鎮静化するのは、ターミナル・レートを高くするよりも、5.00~5.50%の政策金利水準を長く据え置くとみている。米経済への痛みは、今考えられているよりも大きいと予想する。
今後の注目点としては、①雇用統計と②消費者物価の2つが特に重要だとみる。労働コストが下がれば、その分、サービス価格は安定に向かう。消費者物価は、エネルギー以外の品目への価格上昇の広がりがあるかどうかが焦点になる。
また、目先はクリスマス商戦の盛り上がりが、個人消費の重要イベントになる。大手のネット企業の決算は、それなりに厳しいものになり、10~12月期はそれがさらに進むとみられている。金利引き上げは、家電販売や自動車販売にも大きなマイナスである。利上げ停止は、2023年3月頃とみているが、それはクリスマス商戦の結果次第というところもある。
熊野 英生
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