インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

台湾中銀、米中摩擦など景気の下押し材料山積も一段の金融引き締めに

~中銀は台湾ドル安に介入示唆も、現実には一段の引き締めを迫られるなど景気の下押し材料は山積~

西濵 徹

要旨
  • 22日、台湾中銀は3会合連続の利上げ実施、2会合連続の預金準備率の引き上げという一段の金融引き締めに動いた。足下の世界経済は、中国のゼロ・コロナ戦略への拘泥に加え、米FRBなどのタカ派傾斜を受けて主要国景気も下振れするなど頭打ちが懸念される。他方、ペロシ米下院議長の訪台をきっかけに米中摩擦が激化するなか、中国本土は台湾に経済及び安全保障面で圧力を強めるなど、地政学リスクが意識されやすくなっている。台湾経済は輸出依存度が極めて高いなかで輸出受注は下振れしている上、台湾ドル相場は調整の動きを強めるなど、物価への悪影響が懸念される。中銀は台湾ドル安に為替介入も辞さない模様だが、その効果を勘案すれば一段の金融引き締めを迫られるなど、経済の下押し材料は山積している。

足下の世界経済を巡っては、中国による『ゼロ・コロナ』戦略への拘泥が中国景気の足かせとなる状況が続いている上、幅広い商品市況の上振れによる世界的なインフレを受けた米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀のタカ派傾斜を強めて欧米など主要国景気も下振れしており、全体的に頭打ちが意識される状況にある。米FRBなど主要国中銀によるタカ派傾斜は国際金融市場のマネーフローに影響を与えており、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱な新興国に資金流出の動きが集中することが懸念される(注1)。台湾の経常収支は黒字基調にあるなど対外収支構造は堅牢であるものの、島国という特性も影響して大宗の財を輸入に依存しており、昨年来の原油などエネルギー資源価格の底入れに加え、年明け以降のウクライナ情勢の悪化を受けた幅広い商品市況の上振れも重なり、インフレ率は加速の動きを強めるなど景気に冷や水を浴びせる懸念が高まった。さらに、米FRBなど主要国中銀のタカ派傾斜に伴う米ドル高圧力の高まりを受けて通貨台湾ドル相場は調整の動きを強めるなど、輸入物価を通じた一段のインフレ昂進が懸念される事態に直面した。よって、中銀は3月の定例会合において10年半ぶりの利上げに動くとともに、同行は通常12.5bpずつという小刻みの調整を行う傾向があるものの、その2倍に当たる25bpの大幅利上げに舵を切った(注2)。他方、その後は感染力の強い変異株を受けたコロナ禍の再燃に見舞われるなど景気減速が警戒されたものの、インフレは加速するとともに、米ドル高を受けた台湾ドル相場の調整を受けて一段のインフレ昂進が懸念されたため、中銀は6月の定例会合で追加利上げを決定する一方、利上げ幅を12.5bpに縮小させる難しい対応を迫られた(注3)。なお、その後は商品市況の底入れの動きに一服感が出ており、こうした動きを反映して食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレ圧力が後退する動きがみられる。一方、その後の感染動向は高止まりしており、政府は経済活動の正常化を模索する動きをみせるも人の移動に下押し圧力が掛かる展開が続いているほか、最大の輸出相手である中国本土の景気減速の動きは外需の足かせとなり、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率▲7.01%と4四半期ぶりのマイナス成長に転じるなど景気底入れの動きに一服感が出ている。さらに、足下においては上述のように世界経済の不透明感が高まっているほか、先月のペロシ米連邦議会下院議長による台湾訪問を受けて米中摩擦が激化するとともに、中国本土は台湾に対する経済及び安全保障面で圧力を強めるなど、地政学リスクの高まりが懸念される事態に発展している(注4)。中国本土は台湾産の農水産物に対する輸入停止など経済制裁の発動に踏み切る一方、半導体などは制裁の対象から外れるなど実体経済への影響は軽微なものに留まるとみられたものの、足下の輸出受注額は中国本土向けを中心に下押し圧力が掛かっているほか、欧米など主要国景気の不透明感も足かせとなる動きがみられる。台湾経済を巡っては、輸出がGDPの7割強を占めるなどアジア新興国のなかでも経済の輸出依存度が高く、世界経済の減速による貿易萎縮の動きは景気動向に直結しやすい傾向がある。さらに、米FRBなど主要国中銀のタカ派傾斜による米ドル高に加え、地政学リスクの高まりが嫌気される形で足下の台湾ドル相場は調整の動きを強めており、輸入物価を通じた一段のインフレ昂進に繋がる懸念が高まっている。こうした事態を受けて、中銀は22日に開催した定例会合において3会合連続の利上げに加え、利上げ幅も6月の前回会合と同じ12.5bpとするなど政策金利を1.625%とする決定を行うとともに、6月の前回会合と同様に預金準備率を25bp引き上げる決定を行った。会合後に公表された声明文では、世界経済について「下押し圧力が掛かっており、先行きも①欧米など主要国中銀によるタカ派傾斜、②ウクライナ情勢の悪化によるエネルギー危機、③中国本土のゼロ・コロナ戦略による世界的なサプライチェーンの混乱と金融市場の混乱、を理由に下振れリスクに晒される」との見方を示した。一方の同国経済も「コロナ禍からの回復が期待されるが、今年の経済成長率は+3.51%(←+3.75%)に下方修正する」とした上で、「来年はコロナ禍による悪影響の緩和は進む一方で世界経済の減速が足かせになり、経済成長率は+2.90%になる」との見通しを示した。物価動向については「年後半には安定が見込まれ、今年通年のインフレ率は+2.95%(←+2.83%)と上方修正する一方、来年には+1.88%に低下する」との見通しを示した。なお、同行の楊金龍総裁は物価抑制に向けた措置に関して「利上げ実施は最良の選択肢ではなく、関税引き下げなどの対応がより効果的になる」との考えを示す一方、為替相場を巡っては「過度に変動した場合には為替介入を行う」と述べるなど、単独介入の可能性に含みを持たせた。台湾の外貨準備高は国際金融市場の動揺への耐性は充分と判断出来る一方、単独介入の効果は一時的なものに留まることを勘案すれば、先行きも一段の金融引き締めを迫られる可能性はくすぶる。よって、先行きの台湾経済は下押しに繋がる材料が山積する状況に直面することは避けられそうにない。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

図表4
図表4

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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