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2022.07.14
アジア経済
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インドルピー、連日の最安値更新に何か手立てはあるか
~物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせるなど一段と厳しい状況に直面する懸念も~
西濵 徹
- 要旨
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- 世界経済は欧米などを中心にコロナ禍からの回復が続く一方、中国の「ゼロ・コロナ」戦略は足かせとなるなど好悪双方の材料が混在する。商品高は世界的なインフレを招くなか、インドでも生活必需品のみならずコロナ禍からの回復も重なりインフレが上振れしている。他方、米FRBのタカ派傾斜は新興国からの資金流出を招くなか、経済のファンダメンタルズが脆弱なインドでは原油高も重なり資金流出が加速し、ルピー相場は最安値を更新している。中銀は5月及び6月と利上げによる引き締めに舵を切ったが、引き締め度合いの違いはルピー相場の足かせとなっている。足下の企業マインドはサービス業を中心に回復が続くが、今後は物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせることは必至であり、厳しい状況は避けられないと判断出来る。
このところの世界経済を巡っては、欧米など主要国を中心にコロナ禍からの回復が続く一方、中国当局の『ゼロ・コロナ』戦略への拘泥は中国経済の足を引っ張るとともに、サプライチェーンの混乱を通じて中国経済と連動性が高い新興国や資源国経済の足かせとなっており、好悪双方の材料が混在する展開が続いている。一方、世界経済は回復が続いているほか、ウクライナ問題の悪化を受けた供給懸念の高まりを理由に幅広く国際商品市況は上振れしており、世界的にインフレ圧力が強まるなか、食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレは新興国により深刻な影響を与えることが懸念される。家計消費に占める食料品やエネルギーの割合が比較的高い上、国内における原油消費の約7割を中東からの輸入に依存するインドにおいては、このところの原油や石炭などのエネルギー資源価格の上振れに加え、穀物や肥料などの価格高騰も影響する形でインフレ率が加速しており、中銀(インド準備銀行)の定めるインフレ目標を上回る水準で推移している。また、感染一服による経済活動の正常化を追い風にコアインフレ率も上振れして目標を上回る推移が続くなど、幅広くインフレ圧力が強まる動きがみられる。他方、世界的なインフレを理由に米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀はタカ派傾斜を強めており、国際金融市場ではコロナ禍対応を目的とする全世界的な金融緩和を追い風とする『カネ余り』の手仕舞いが進み、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱な新興国で資金流出圧力が強まることが懸念される。インドは、2013年の米FRBのバーナンキ議長(当時)の量的緩和政策の縮小『示唆』発言をきっかけとする国際金融市場の動揺(テーパー・タントラム)に際して資金流出が集中した5ヶ国(フラジャイル・ファイブ)の一角であり、経常赤字と財政赤字の『双子の赤字』とインフレが慢性化したことがその要因となった。上述のように足下のインフレ率は上振れしている上、国際商品市況の上振れによる輸入増に伴い経常赤字幅の拡大が懸念されるほか、今年度予算では景気回復を優先して歳出拡大が図られるなど財政悪化も警戒されるなど(注1)、経済のファンダメンタルズは新興国のなかでも厳しい状況にある。なお、中銀は政府に歩調を併せるべく、年明け以降も金融緩和による景気支えを維持する姿勢をみせたものの、商品市況の上振れによるインフレ昂進を受けて5月に緊急利上げに動いたほか(注2)、翌6月の定例会合でも追加利上げを決定するなど金融引き締めの度合いを強めてきた(注3)。しかし、上述のように米FRBのタカ派傾斜により米ドル高が強まるなか、米FRBとインド中銀の間の『タカ派度合い』の差も影響して足下のルピー相場は調整の動きを強めて最安値を更新する展開が続いており、輸入物価を通じてインフレが一段と昂進する懸念が高まっている。足下の景気を巡っては、インフレ懸念の高まりにも拘らず、感染一服による経済活動の正常化を追い風にサービス業を中心に企業マインドは改善が続くなど景気の底入れを促す動きが続いているものの、こうした状況はサービス物価を押し上げるとともに新たなインフレ圧力に繋がると見込まれる。政府が物価対策を目的に小麦をはじめとする食料品の輸出制限に動くなど、国内供給を優先する対応をみせているものの、雨季(モンスーン)の行方如何では野菜や果物など生鮮品の生育に影響を与えるとともに、物価の上振れに繋がる可能性もある。さらに、昨年来の石炭不足に加えて、石炭の国際価格の上振れも影響して多くの州で電気料金に押し上げ圧力が掛かる可能性も高まっている。中銀は6月の利上げ実施後も追加利上げの可能性を示唆する一方、政府や産業界は物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせることを警戒しているものの、中銀の度重なる為替介入にも拘らずルピー安を抑えられない状況を勘案すれば、一段の金融引き締めは避けられないとみられる。その意味では、足下のインドはコロナ禍からの回復の動きが景気拡大を促す展開が続いているものの、先行きについては厳しい状況となることは避けられないであろう。
注1 2月2日付レポート「インド、2022-23年度予算はインフラとデジタルを軸に景気回復を優先」
注2 5月6日付レポート「インド中銀、インフレ懸念に対応して緊急利上げを決定」
注3 6月8日付レポート「インド中銀、物価及び為替の懸念が高まるなかで追加利上げを決定」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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