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2022.06.28
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ブラジル石油公社、1年半ほどでCEOが3人交代の異常事態
~ボルソナロ大統領は再選を目指し一段の「圧力」を掛けるなど不透明な状況が続く可能性~
西濵 徹
- 要旨
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- ここ数年の中南米では「左派ドミノ」が広がりをみせるなか、10月のブラジル大統領選の行方に注目が集まる。ボルソナロ大統領は当初こそ小さな政府による構造改革を目指す姿勢をみせたが、コロナ禍対応を理由に財政状況は悪化した。他方、大干ばつも影響して物価高と金利高が共存するなど景気に冷や水を浴びせる懸念が高まるなか、ボルソナロ氏は再選を目指して燃料価格の引き下げを模索した。しかし、国際原油価格の底入れを受けて国営石油公社は度々燃料価格を引き上げたため、同社のCEOは過去1年半の間に3人更迭された。27日に同社は新CEOにゲジス経済相の片腕であるアンドラーデ氏を据えたが、仮に「あるべき」姿勢を維持すれば軋轢が生じる可能性があり、レアル相場や株価指数にも影響を与えるであろう。
ここ数年の中南米諸国においては『左派ドミノ』とも呼べる動きが広がりをみせており、今年10月には域内最大の経済規模を有するブラジルにおいて大統領選、総選挙が予定されるなか、その行方に注目が集まっている。このように中南米で左派ドミノが広がりをみせる背景には、多くの国が経済面で特定の鉱物資源ないし農産物に対する依存度が高いモノカルチャー的な色合いが強く、社会経済格差が大きいことが影響している。一昨年来のコロナ禍による世界経済の減速に加え、足下ではウクライナ情勢の悪化を受けた幅広い国際商品市況の上振れに伴い食料品やエネルギーなど生活必需品を中心にインフレ圧力が強まるなど、国民生活に『ダブルパンチ』が直撃している。結果、多くの国が大きな政府を志向する、財政出動を伴う政権公約を謳う左派政権に惹きつけられていると捉えられる。こうしたなか、ブラジルでは2018年の前回大統領選を経て右派のボルソナロ政権が誕生するとともに、当初は小さい政府を志向する構造改革を主張するなど、長期に亘る左派政権の下での社会保障の膨張が財政悪化を招いてきた状況の好転を目指す姿勢を示した。しかし、一昨年来のコロナ禍では同国が感染拡大の中心地となるなど景気に深刻な悪影響が出たことから大規模な財政出動を余儀なくされたことで、公的債務残高は大きく上振れしている。さらに、一昨年以降の同国では『100年に一度』と称される大干ばつに見舞われるなど自然災害も重なり、電力供給の大宗を水力発電に依存するなかで火力発電の再稼働を余儀なくされたため、昨年以降のインフレ率は原油などエネルギー資源価格の底入れも重なり上昇の動きを強めてきた。インフレの昂進を受けて中銀は昨年以降断続的な利上げに動くとともに、その後もインフレ加速を理由にタカ派姿勢を強める対応をみせており、ブラジル経済にとっては物価高と金利高の共存がコロナ禍からの景気回復の動きに冷や水を浴びせることが懸念される状況に直面している。他方、ここ数年のブラジルでは国営石油公社(ペトロブラス)を舞台に政界を巻き込んだ一大汚職事件が明らかになり、金融市場からの信認が低下したため、ボルソナロ政権は同社の立て直しや将来的な民営化を見据える姿勢をみせてきた。しかし、同社のCEO(最高経営責任者)に据えたブランコ氏は不良債権の売却や債務圧縮に加え、政治の影響力を抑えた経営を進めることで金融市場からの信認向上を図る一方、燃料価格の引き上げを主導したことでボルソナロ大統領と対立して昨年2月にCEOを更迭された(注1)。なお、ボルソナロ大統領はブランコ氏の後任に元軍人で石油・ガス業界での経験のないシルバエルナ氏を据えるとともに、表面的には同社の民営化を支持する姿勢をみせるも度々燃料価格に介入する動きをみせてきた。ボルソナロ氏は次期大統領選が近付くなかで再選を見据えて燃料価格の引き下げを目指しているとみられるものの、国際原油価格の底入れを理由にシルバエルナ氏が燃料価格の上昇を容認したため、今年4月に同氏も更迭された。さらに、ボルソナロ政権はシルバエルナ氏の後任に技官出身のフェレイラ=コエリョ氏を据えたものの、同氏は燃料の国内価格を国際原油価格に連動させる現行の価格設定を維持する考えをみせていた。こうしたなか、5月に国営石油公社が大統領の意向に反してディーゼル価格の引き上げを公表し、政府(鉱業・エネルギー省)が要請を受け入れる方針をみせたため、ボルソナロ大統領はアルブケルケ鉱業・エネルギー相(当時)を更迭して後任に経済省特別顧問(戦略問題担当)であったサクシダ氏を据えるなど燃料価格引き下げに向けて閣僚人事も辞さない強権発動を行使した(注2)。さらに、5月末にはボルソナロ大統領がフェレイラ=コエリョ氏を交代させる意向を示したことで事実上更迭され、同氏は今月20日に正式に辞任しており、国営石油公社は1年半のうちに3人のCEOが辞任するとともに、フェレイラ=コエリョ氏に至っては2ヶ月半で辞任する異常事態となっている。国営石油公社は27日に開催した取締役会を経てゲジス経済相の『片腕』として同国政府が進めるDX(デジタル・トランスフォーメーション)戦略を担ったアンドラーデ氏を新CEOとすることを決定しており、これまで起業家や投資家であったことを勘案すれば金融市場と折り合いを付けた経営を維持すると見込まれる。一方、過去3人のCEOは燃料価格の設定方法を巡るボルソナロ大統領との対立を理由に更迭されたことを勘案すれば、アンドラーデ新CEOが『あるべき』方向に動くことは新たな軋轢を生じさせる可能性は高いと予想される。足下の通貨レアル相場及び主要株価指数は、世界経済を巡る不透明感の高まりが原油や鉄鉱石など国際商品市況の重石となるなかで調整圧力が掛かる動きがみられるなか、国営石油公社の動きもこれらに影響を与える可能性に注意が必要と言える。



注1 2021年2月22日付レポート「ブラジル、国営石油公社CEOの突然の更迭が意味するものとは」
注2 5月12日付レポート「ブラジル・ボルソナロ大統領、燃料価格引き下げへ一層攻勢を強める可能性」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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