政府の物価対策

~「止める」より「我慢する」対策~

熊野 英生

要旨

政府が発表する原油高・物価高対策の概要が明らかになってきた。国費は6.2兆円の対策となり、その内容はガソリンなどの価格支援を25円から35円に拡充することになる。また、生活困窮世帯への支援として、子供1人5万円が支給される。しかし、これらの対策は物価上昇そのものを止めるという発想ではなく、物価上昇を我慢するために政府が支援するという内容になっている。

目次

国費投入6.2兆円

政府が4月中に取りまとめる方針だった原油高・物価高対策の概要が、4月26日に明らかになってきた。事業規模は13.2兆円で、充当する国費は6.2兆円(当初予算・予備費1.5兆円+追加補正2.7兆円)。ただ、この国費の中には、さらに予備費確保1.5兆円含まれているので、それを除くと4.7兆円である。

内訳は、ガソリン等4油種への補助(石油元売会社向け)を25円から35円に引き上げることなどを含めて、原油対策に1.5兆円。価格転嫁など中小企業対策1.3兆円。そのほか、低所得者向けに1.3兆円、エネルギー・原材料・食料などの安定供給対策に0.5兆円となっている。

これらの内容は、物価上昇を止めるための対策ではどうもなさそうだ。筆者は、政府が物価対策に動くからには円安是正などを日銀と相談するのかだと思っていた。少し誤解していたように思う。実際は、そうではなく、すでに起こってしまった物価上昇の「痛み」を我慢する内容だった。受け身の対策という訳だった。

家計給付が止まらない

家計の痛みを和らげる対策の中には、低所得の子育て世帯を支援する給付金が入っている。子供1人5万円が支給されるという。コロナ禍になって、政府は給付金を連発し、最近はそれを誰も正面切って批判しなくなってきたように思える。一因は、野党の多くもまた給付金に賛成しているからであろう。2021年末からは、18歳以下の子供がいる子育て世帯に1人10万円の給付があった。2022年1~3月は、住民税非課税世帯への給付が行われたばかりだ。岸田政権は、約半年のうちに2度も大きな給付金を散布している。そうした傾向に歯止めがかからなくなっていることは、財政出動の巨大化に対する懸念が希薄化していることがある。

ガソリン対策で十分か

ウクライナ侵攻の悪影響は、原油価格高騰のかたちで顕在化している。政府は、1月27日に5円の幅で行ってきた補助を、3月に25円、そして5月に35円に引き上げる方針だ。財源は、5月分として3,000億円を用意することになる。

こうした支援は、家計への支援になる以外に、ガソリン・軽油・重油を使う運送事業者にも恩恵が及ぶ。しかし、ガソリン以上に電気代・ガス代の方が負担が嵩んでいることへの対応はできていない。電気代は、市況高騰から8~9か月のタイムラグをもって料金に反映するので、4月の市況は2022年末頃から表れてくる。目下の電気代上昇だけでも、前年比20~25%なのに、それが少なくとも年内に亘って継続することへの手当ては、行われていないことになる。

円安対策をどう考えるか

現在の物価上昇は、「あれも足らない、これも必要だ」と議論すると、収拾がつかなくなる。つまり、物価上昇を我慢する「痛み」を、政府が緩和しようとすることには限界があるのだ。

政府が行うべき対策は、やはり行き過ぎた円安を止めることだろう。正確に言えば、相場をコントロールすることは無理なので、日銀の金融緩和の姿勢を再考してもらうということになる。日銀の独立性があるので、政府の立場からは、日銀に判断してもらうということになる。政府からは、「これ以上の円安は望まない」という意思を示して、日銀にボールを投げるという間接的な方法になるだろう。

日銀も、為替レートの水準自体を操作できないと知っているので、為替レートではなく、長期金利コントロールの方を柔軟化することを検討することになる。具体的には、長期金利の変動幅の上限0.25%を強固に守るという手法から、上限を0.50%に変更したり、0.25%の上限を一時的に越えることを許容するだけでも十分に円安の振れを小さくできると考えられる。

中長期の視点があってもよい

筆者は、今回は政府の物価対策という内容だが、実質は円安対策の側面も大きいとみている。上昇するのは、原油関連だけではなく、輸入品全般だ。消費財の中で輸入品は1/4を占める。財・サービスでみると1/8になる。ドル円レートの前年比は4月で15%となりそうだ。

趨勢的な円安は、日米金利差が拡大する限りにおいて継続するだろう。つまり、物価上昇圧力は一時的ではないということだ。こうした認識に立てば、物価上昇を「我慢する」だけでは、財政資金がいくらあっても足りないという理屈になる。むしろ、円安メリットをいかに多く取り込むかが、中長期の円安対策となるだろう。そのためには、製造業のうち、輸出割合が低い中堅・中小企業の輸出拡大や、小売業の関連で越境ECにより海外販路を伸ばせるように公的機関が斡旋することも手である。

少し視野を広げると、円安になると訪日外国人観光客にとっては、「安い日本」が魅力になる。コロナ感染は未だに収束していないが、近い将来ではインバウンド需要を再開することを政府は考えてもよいだろう。一過性ではない円安対策を練ることも岸田政権の役割だと思う。

熊野 英生

熊野 英生

くまの ひでお

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 金融政策、財政政策、金融市場、経済統計

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