物価高対策にも補正予算編成へ

~参院選前と後、補正予算は2度組まれることに~

星野 卓也

要旨
  • 政府・与党は来週にもまとめる総合緊急対策において、補正予算編成で合意した。当初は予備費のみでの対策が有力視されていた。ガソリンなど燃料油価格の激変緩和措置を延長するほか、低所得子育て世帯への給付金を措置。予備費利用分は補正予算で再計上し、コロナ対策予備費は「コロナ対策・物価対策」の両方に使途を広げる。
  • 補正予算の編成に着地したのは、①一般予備費の枯渇によって今後災害等の突発事態に対応できなくなることを避けるため、②コロナ予備費を原油高対策に充てるというコロナ予備費の「越境利用」を避けるため、という2つの理由があったと考えられる。
  • 予備費増額や使途拡大は、財政政策の「民主性」と「柔軟性」のバランスをどこで取るか?という財政運営の課題を突き付けている。予備費は迅速な利用が可能というメリットの傍らで、歳出時には国会議決が必要、という財政民主主義の原則からの抜け穴としての性格も持つ。予備費の運用に関するコンセンサス形成は必要であろう。
目次

予備費のみの方針から一転、補正予算編成へ

政府・与党は21日、ウクライナ情勢の緊迫化を受けた物価高対策:総合緊急対策の実施のため、補正予算を編成する方針を固めた。5月下旬に国会提出、今国会(会期末は6月15日)での成立を目指す方針だ。報道情報を踏まえた対策フレームのイメージは資料の通りだ。当初は本予算の予備費のみでの実施が有力視されていたが、補正予算も加わった対策となる。

現時点の報道情報から想定される総合緊急対策の全体イメージ
現時点の報道情報から想定される総合緊急対策の全体イメージ

予備費活用部分では、現在実施している燃料油価格の激変緩和措置(元売り向けの補助金)について、補助額上限を引き上げたうえで5月分事業費に0.3兆円を充てる。低所得の子育て世帯を対象とした子ども一人当たり5万円の給付金に0.2兆円が措置される。このほか、エネルギー・原材料・食料の安定供給に300億円、地方公共団体が利用できる地方創生臨時交付金などに1兆円程度が充てられる見込みだ(中小企業対策実施を想定か)。

補正予算では6~9月の燃料油価格対策1兆円強が計上されるほか、利用した予備費が再度積みなおされ、コロナ対策予備費は「新型コロナウイルス感染症および原油価格・価格高騰対策予備費」と改組される。結果、コロナ予備費の使途が物価高対策にも広がり、対策実施後も一般予備費0.5兆円、コロナ&物価高対策予備費5.0兆円が確保される形になる。

参院選後の大規模経済対策と合わせて2段階対策に

3月レポート の通り、今年度の経済対策は2段階での実施が見込まれ、今回の物価高に伴う総合緊急対策はその第1弾に当たる。第2弾の経済対策は7月の参院選前に内容が決定されたのち、参院選後に国会成立・実施となる予定だ。岸田政権の「新しい資本主義」の実現を目指した政策パッケージになる。物価高対策の10月以降への延長や家計向けの給付金、2020年度第3次補正予算で措置されたグリーンイノベーション基金の増額などが俎上に載りそうだ。選挙前で規模も大きくなると考えられ、対策の裏付け予算となる2022年度第2次補正予算の規模は10兆円を超えることも想定される。

予備費拡大が突きつける財政政策の「柔軟性」と「民主性」の問題

今回実際に対策に用いられる額は、追加の予備費を除くと2.5兆円程度であり、既存の予備費(一般0.5兆円+コロナ5.0兆円)でカバーできる規模だ。補正予算編成は対策規模拡大のためではない。予備費の再計上を含む補正予算の編成に着地したのは、①一般予備費の枯渇によって今後災害等の突発事態に対応できなくなることを避けるため、②コロナ予備費を原油高対策に充てるというコロナ予備費の「越境利用」を避けるため、という2つの理由があったと考えられる。明らかに“コロナ対応ではない”燃料油の元売り補助金について、5月分は一般予備費、6月分以降は補正予算を財源とすることで、コロナ予備費が紐づかない形にするとみられる。コロナ予備費を原油高対策に充てることに対してルール上の縛りはないものの、当初目的とは異なる目的に予備費を利用することは財政民主主義の観点で問題含みではあった。今回対策でコロナ予備費を充てるのは、コロナ対応のために設置された地方創生臨時交付金などに限ることで、こうした批判に配慮したと考えられる。

もっとも、従来のコロナ予備費は「コロナ・物価高対策予備費」と使途が拡大されて再計上されている。予備費の増額や使途拡大は、財政政策の「柔軟性」と「民主性」のバランスをどう考えるか?という財政運営の課題を突き付ける。政府裁量で利用できる予備費は、状況に合わせた迅速な対応が可能(柔軟性)というメリットの傍らで、歳出時には国会議決が必要、という財政民主主義の原則(民主性)の抜け穴としての性格も持つ。これまでに経験のないパンデミックへの対応、という理由で大規模なコロナ対策予備費には正当性があったが、今後の予備費運用の方法について、コンセンサスを形成しておくことは必要だと考えられる。


Economic Trends「経済対策は2度に分けて実施へ」(2022年3月24日)

https://www.dlri.co.jp/report/macro/184924.html

星野 卓也

星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ

Recommend

おすすめレポート