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2022.03.03
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ロシアに格下げドミノ、国際金融市場からの「退場リスク」にも懸念
~当面は「籠城戦」で耐える展開を予想も、事態の長期化はデフォルトリスクを高める懸念~
西濵 徹
- 要旨
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- ロシア・プーチン政権によるウクライナ侵攻を受け、欧米諸国はロシアの一部銀行のSWIFT排除とロシア中銀への制裁強化に動いた。これを受けて金融市場ではルーブル相場が大きく調整し、外国人投資家のロシア資産の売却圧力が強まった。ルーブル相場の防衛に向けて中銀は大幅利上げを決定し、企業に外貨収入の8割売却を求めるなどなりふり構わぬ動きをみせている。ただし、市場の混乱と実体経済への悪影響を懸念して主要格付機関は相次いで格下げを決定し、主要3社はいずれも「投機的水準」としている。また、外国人投資家への利払い停止に動くなか、欧米や日本の金融機関が抱える対ロ債権の損失リスクやロシアのデフォルトリスクが意識される可能性も高まる。当面は「籠城戦」により耐える展開が続く一方、事態が長期化すれば民間債務のデフォルトは避けられず、最終的に公的部門もデフォルトに陥る可能性も高まろう。
ロシアのプーチン政権によるウクライナへの全面侵攻の開始を受け、欧米諸国はロシアの一部銀行を対象とするSWIFT(国際銀行間通信協会)からの排除に加え、ロシア中央銀行を制裁対象に加えるなどロシアに対する経済制裁を大きく強化させた(注1)。欧米諸国による対ロ制裁の強化発表を受けて、米格付機関のスタンダード・アンド・プアーズ・グローバル・レーティング(S&Pグローバル)は先月25日にロシアの外貨建長期信用格付を1ノッチ引き下げるとともに(BBBマイナス→BBプラス)、制裁に伴う経済への影響が一段と明らかになれば一段の格下げに動く方針を示した。これにより同社の格付けは『投機的水準』となり、国際金融市場におけるロシアの信用力低下が懸念された。事実、国際金融市場においては『SWIFT排除』とロシア中銀の制裁に伴う『外貨準備の凍結』を嫌気して、通貨ルーブル相場に大幅な調整圧力が掛かるなど動揺が広がった。なお、ロシア中銀は外国人投資家を中心にロシア資産を手放す動きが広がることを懸念して、証券保管振替機関(NSD)に対して外国人及び外国企業に対するロシア証券の支払いと譲渡権を制限する方針を示すなど事実上の資本規制を科す動きをみせた。さらに、ルーブル相場の動揺を抑えることを目的に、中銀は先月28日に緊急会合を開催して政策金利を9.5%から20.0%に大幅に引き上げる金融引き締めに動くとともに、国内金融市場の安定に向けて金購入の再開やレポ取引による無制限の資金供給、銀行の為替持ち高の制限緩和に動く方針を決定した。また、中銀と政府はルーブル相場の安定を図ることを目的に、企業に対して外貨建て収入の8割を売却する旨の指示を行うなど、なりふり構わぬ形で信用力の維持に取り組む姿勢をみせている。しかし、その後はウクライナ情勢を巡る不透明感が高まるとともに、欧米諸国は一段の制裁強化も辞さない姿勢をみせるなどロシアを取り巻く状況は厳しさを増している。こうしたなか、2日に米英系格付機関のフィッチ・レーティングスはロシアの外貨建長期信用格付を6ノッチと大幅に引き下げる決定を行い(BBB→B)、3日には米格付機関のムーディーズ・インベスターズ・サービスも同様に6ノッチの格下げを実施しており(Baa3→B3)、主要3機関すべてがロシアの外貨建長期信用格付を『投機的水準』としている。信用力の一段の低下が避けられなくなるなか、報道によればロシア中銀が外国為替取引所における個人の外貨購入に対して30%の手数料を課しているほか、外国人投資家に対するルーブル建国債のクーポン支払いを一時停止する事態となっている。さらに、NSDによる外国人及び外国企業に対するロシア証券の支払い及び譲渡権の制限を受けて、ロシア企業の外国人投資家向けの配当支払いも禁止される動きもみられる。よって、国際金融市場においてはロシア資産が忌避される動きが広がるとともに、ロシア向け債権の損失リスクが高まるなど、ロシア向け債権が集中するフランスやイタリア、オーストリアなど欧州諸国のほか、米国や日本などの金融機関に影響が波及する可能性が懸念される。なお、一部では欧米諸国による対ロ経済制裁の強化を受けてドル建国債などのデフォルト(債務不履行)に陥ることが懸念されている。対外準備資産の動向と対外債務残高の動向をみると、欧米諸国による対ロ経済制裁の強化により外貨準備の大宗が凍結されるなど外貨の資金繰りに懸念が生じる可能性は高まる。現時点においては原油や天然ガスなどのエネルギー資源の輸出が維持されているほか、当面はロシア国内に保蔵する金のほか、中国など制裁を見送っている国が預かる外貨準備を活用する『籠城戦』を続けると予想されるものの、事態が長期化すれば民間部門におけるデフォルトリスクが高まり、最終的には公的部門も避けられなくなるであろう。
注1 2月28日付レポート「「SWIFT排除」で一気に状況が怪しさを増すロシア」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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