しんがりになる日本の金融政策

~日本は緩和継続、欧米中銀は緩和縮小を予告~

熊野 英生

要旨

12月の日銀会合では、コロナ対応オペの微調整を決定した。大企業向けは縮小し、中小企業向けは半年延長する。日銀の金融政策は、欧米中銀が緩和縮小・利上げ開始に進んでいく中で、緩和を据え置く構えだと筆者はみる。これは円安を促す眼目がある。家計は、輸入物価上昇により生活コストが増えて痛みを受けるが、岸田政権の賃上げがそれを吸収するという図式になる。

目次

12月の決定会合

日銀の金融政策は、12月16・17日の決定会合で、いつも通りに現状維持を決めた。コロナ対応オペは、2022年3月末だった期限を、半年間延長して9月末までとした。ただ、コロナ対応オペの民間債務担保分である大企業向け・住宅ローンは3月末に終了する。中小企業向けの制度融資分、プロパー融資分は9月末まで継続すると区別した。大企業と中小企業で支援を分ける構えである。また、CP・社債の買い入れ増額措置は2022年3月末をもって終了することを決めた。これも、大企業向けの縮小ということだ。

日銀の緩和修正をどうみるか

少し長い視点でみると、日銀の金融政策はどうするつもりなのだろうか。日銀のコロナ対応オペの修正は、緩和縮小とも理解することもできるが、筆者は基本は変えていないとみる。大枠のイールドカーブ・コントロールとは全く別に考えているのだろう。ここにきての変化という点では、FRBとECBが金融緩和を縮小させる予告をしてきたことが重要である。FRBは、2022年に3回の利上げを見込み、テーパリングを早めて2022年3月に買い入れを終了させる。初回の利上げは2022年6月になると予想される。ECBは、コロナ対応の資産買い入れプログラムであるPEPPを2022年3月にも終了することを決めた。こちらは日銀とは違って、他の資産買い入れを段階的に縮小させ、2023年に利上げに踏み切る構えだということだろう。いずれも、コロナ感染が完全収束する手前での緩和縮小の予告である。さらに進んでいるのは、BOEである。12月15日の金融政策委員会で+0.15%の利上げを決定した。

これらの動きをみると、日銀を巡って外部環境が変化してきたと思える。日銀自身は、現時点で緩和縮小を示唆していない。理由ははっきりしていて、物価上昇率が2%目標に遠く届かないからだ。2021年10月のコアCPIは前年比0.1%の上昇である。2022年4月に携帯料金要因の押し下げが完全に剥落して指数は1%を超える前年比にはなるが、2%にはまだまだ達しない。欧米中銀が、高いインフレ率を背景に緩和縮小と利上げ予告をするのとは、日本の事情は異なるのである。

黒田緩和の狙い

「欧米中銀が利上げに向かっているから、日銀は軌道修正をするのではないか?」という憶測は成り立たないと筆者は考える。むしろ、欧米が利上げして日銀がそれをしないという図式こそ、黒田総裁が前々から狙っていた構図だと考えられるからだ。

主要国が金融緩和を終了しても、日銀だけは「しんがり」を務めて金融緩和を止めないことによって、円安は進むだろう。日銀が利上げを長く我慢するほどに円安が促されて、その円安は輸入インフレを引き起こす。それが消費者物価を上昇させる。最近のように、輸入インフレの加速は生活者の痛みを伴うものになるが、消費者物価が2%になるまでの範囲ならば、それは我慢できると判断しているのだろう。これが黒田総裁の狙いとも言える。

また、イールドカーブ・コントロールもそれをサポートする仕組みだ。長期金利を低位に釘付けして、内外の長期金利差を拡大させる。もともと長期金利は、消費者物価が上がっていけば、短期金利を据え置いたとしても上昇圧力が働く。長期金利の上昇を放置すれば、金融緩和効果が薄れるので、イールドカーブ・コントロールで抑え込むという意味もある。今後、2022~2023年にかけて、日銀は、長短金利の水準を据え置くだろうから、円安が進んでいき、生活者には輸入物価上昇の痛みがより強く発生することになろう。

岸田政権下の金融政策

2013年に黒田緩和が始まってから、安倍・菅政権、そして岸田政権へと移行した。岸田政権と黒田総裁の関係はまだ見えないが、当分の間、大きな変化はないと考えられる。岸田首相の政策の中では、賃上げ促進が金融政策との絡みでは極めて重要になる。なぜならば、輸入物価が上昇する中で、家計の痛みに対して、それ吸収するには賃上げが最も効果的だからだ。賃上げが進むほどに、家計は円安進行に伴う物価上昇を我慢しやすくなる。

岸田政権にしても、大型経済対策を打ち出すときに、日銀が長期金利上昇を抑え込んでくれていることを歓迎している。副作用を気にすることなく、財政出動の規模を大きく見せることができる。金融政策は、積極的な財政出動のバックアップをする。これは、いわば日銀が経済政策の「しんがり」を務めるような役割である。ここにも日銀と岸田政権の共生関係が見い出せる。

岸田政権の賃上げ促進に対して、筆者は半信半疑であることをすでに過去のレポートで書いてきた。賃上げは、税制支援だけではなく、企業収益の増加によって実現されるものである。その点、円安を促すことは企業収益にはプラスである。長期的な円安を通じて、企業が収益拡大を予想し、賃上げに踏み切ると、日銀の金融政策にもプラスだ。しかし、企業は短期的に円安に振れたところで、ベースアップ率を引き上げるようなことはしない。

企業が賃上げできる環境とは、事業基盤が拡大して、期待収益率が上向くことである。これは時間がかかるということである。その支援のために岸田政権は、成長戦略を打ち出して、事業基盤を拡充できる環境づくりが必要になる。

外部環境の変化をどう読むか

これから起こりそうな変化を考えたい。FRBが利上げを2022年に開始すると、ドル資金は米国へと環流していくだろう。そのとき、ドル高と新興国通貨安が起こる。ドルの利回り上昇で、新興国に資金流出が起こると、新興国はそれに歯止めをかけるために利上げを行うだろう。新興国で通貨安が起こるとき、やはりインフレ傾向が強まるので、利上げを行うことの動機は高まる。

日本にとってみると、新興国などの金利水準が上がっていくと、日本との金利差が広がる結果を招く。すると今度は、日本の低金利環境に注目して、海外の投機筋などによる円キャリートレードが行われる。これは円売りの要因になって、日本にとって円安の流れをさらに加速する。つまり、2022年以降の円安の流れは、加速していく可能性があるということだ。

日本にとって、円安効果は歓迎されるという声は根強くあるが、過剰な円安は生活コストを押し上げて、デメリットが大きくなる。企業にとっても輸入コストの上昇は歓迎するものではない。円キャリートレードで円安が進んだときは、いつかその取引が解消された場合に、巻き戻しが起こって急激な円高に振れるリスクも同時に大きくなる。投機的な円安もまた不健全なのである。

2022年は、黒田総裁にとって、任期である2023年4月を控えて、最後の勝負の年になる。2%目標を達成できずに退任するのか、もしくは円安促進によって最後の挑戦をするのかの分かれ目の年になる。世論の中には、過剰な円安を警戒する声も徐々に強まっている。筆者は、為替レートは安定していることが大切だと考えるので、過剰な円安も好ましくないと考える。黒田総裁は、任期満了までにどう動くのだろうか。

熊野 英生

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