南アフリカ、ワクチン格差の最中で「オミクロン株」の感染が急拡大

~半月ほどで感染動向は一変、感染動向や世界経済の減速懸念はランド相場の足かせとなる展開~

西濵 徹

要旨
  • 南アフリカを含むアフリカ地域はワクチン接種が他地域に比べて大きく遅れるなど、「ワクチン格差」とも呼べる状況が続く。こうしたなか、南アフリカではワクチン接種の遅れにも拘らず感染動向は7月上旬を境に改善してきた。しかし、先月末にオミクロン株の確認発表後は感染が急拡大するなど半月ほどの間に感染動向は一変している。政府は症状が軽度であることなどを理由に行動制限には及び腰だが、感染動向の急激な悪化を受けて収束に時間を要する可能性が高い。米FRBの「タカ派」傾斜などを理由とする米ドル高が通貨ランド相場の重石となるなか、感染動向の悪化や世界経済の減速懸念はランド相場の足かせになるであろう。

南アフリカを含むアフリカ地域は、昨年来の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のパンデミック(世界的大流行)に際して、他の地域に比べてワクチン接種が遅れるなど『ワクチン格差』とも呼べる状況に直面している。こうしたことから、昨年は同国で発見された感染力の強い変異株(ベータ株)の感染が拡大したほか、年明け以降も別の変異株(デルタ株)による感染拡大が広がるなど、度々感染拡大に見舞われる展開が続いてきた。しかし、南アフリカ国内における新規陽性者数を巡っては、ワクチン接種が遅れているにも拘らず7月上旬を境に鈍化してきたほか、新規陽性者数の減少による医療インフラに対する圧力が後退したことを受けて死亡者数の拡大ペースも鈍化するなど感染動向は改善してきた。他方、南アフリカのワクチン接種動向を巡っては、今月4日時点における完全接種率(必要な接種回数をすべて受けた人の割合)は24.98%、部分接種率(少なくとも1回は接種を受けた人の割合)も29.78%に留まるなど、国民の3割以下しかワクチンへのアクセスを確保出来ていない。こうした状況の背景には、ワクチンそのものの供給が他の地域に比べて遅れていること、地方部の脆弱な医療インフラがワクチン接種を阻む一因となっていることに加え、過去おける欧州諸国の植民地支配の影響で部族社会を中心に西洋医学に対する拒否感がくすぶることも影響しているとされる。ただし、足下では欧米をはじめとする主要国ではブースター接種(追加接種)が実施されるなどワクチン接種を加速化させる動きがみられる一方、南アフリカをはじめとするアフリカ大陸ではその緒にもついていない状況にあることは、『ワクチン格差』と称されても仕方ない状況と判断出来る。こうしたなか、先月末に南アフリカの国立伝染病研究所などが共同で新たな変異株(オミクロン株)が発見された旨を発表したほか(注1)、その後はオミクロン株の感染が世界的に広がるとともに、人の移動を制限する動きが広がりをみせるなど世界経済の新たな脅威となっている(注2)。さらに、先月末にオミクロン株が発見されて以降の南アフリカでは、足下の新規陽性者がオミクロン株に置き換わっているほか、新規陽性者数が急拡大する事態となっている。事実、人口100万人当たりの新規陽性者数(7日間移動平均)は先月中旬には4~5人という水準で推移していたにも拘らず、今月3日時点では117人と100人を上回る水準となるなど、半月ほどの間に状況は一変している。なお、オミクロン株の感染者については無症状感染者が多数を占めるほか、症状が出ている場合においても軽度との見方がある一方、上述のように世界的に感染の動きが急激に広がっているほか、同国内においても政府内では「前例のない急増」との認識が示されるなど急速に状況が悪化している様子がうかがえる。同国政府は上述のように症状が軽度であることを理由に、実体経済への悪影響を回避すべくロックダウン(都市封鎖)など厳格な感染対策を講じることには及び腰であり、国民に対してワクチン接種を呼び掛けることで難局を乗り切る姿勢をみせている。ただし、感染状況が急速に悪化している上、足下では高齢者にも感染の動きが広がりをみせるなど死亡者数の急増に繋がる動きもみられるなか、ワクチン接種率の低さも相俟って感染収束にはしばらく時間を要することも予想される。国際金融市場においては、米FRB(連邦準備制度理事会)の『タカ派』傾斜が意識されて米ドル高圧力が強まるなか、先月末の同国のオミクロン株の発見発表を受けて通貨ランド相場の調整圧力が強まる動きがみられたものの、オミクロン株の性質を巡って不透明ななかで様子見の様子をみせている。他方、オミクロン株の世界的な感染拡大を受けて世界経済の下振れが意識されれば、国際商品市況に調整圧力が掛かることが予想されるとともに、ランド相場に対する調整圧力が強まることも考えられるなど、当面は厳しい環境が続くことは避けられないであろう。

図 1 ワクチン接種率の推移
図 1 ワクチン接種率の推移

図 2 南アフリカ国内における感染動向の推移
図 2 南アフリカ国内における感染動向の推移

図 3 ランド相場(対米ドル)の推移
図 3 ランド相場(対米ドル)の推移

以 上

西濵 徹

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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