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2026.10.09
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トルコ金融市場の混乱が収まらない
~投資信託の規制強化が株安を招き、実体経済や政策運営への波及が懸念される~
西濵 徹
- 要旨
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- トルコ金融市場では、投資信託による株式売却圧力の強まりを背景に混乱が続いている。政府は国内貯蓄をリラ建て資産に誘導する政策を進めてきたが、浮動株比率の低い銘柄への投資資金の集中や投資信託の急拡大により、価格形成の歪みや流動性リスクが高まっていた。こうしたなか、資本市場委員会(SPK)が投資信託の保有規制を厳格化したことで、株価下落と投資信託の解約増加が悪循環に陥り、市場全体に売り圧力が波及している。金融当局は流動性供給の拡大や投資信託への規制措置を通じて事態の収束を図っている。
- 9月のインフレ率は2021年11月以来となる30%割れとなるなど、ディスインフレ基調が続いているものの、利下げ観測がリラ相場の下押し圧力となり、中銀は物価安定と金融市場の安定確保という難しい政策運営を迫られている。さらに、株式市場への信認低下に伴う外貨や金への資金シフトに加え、金融不安の長期化が信用収縮を通じて実体経済に悪影響を及ぼす懸念もある。こうした影響が顕在化すれば、シムシェキ財務相が主導する経済政策への批判が強まり、エルドアン大統領の政策姿勢が変化するリスクにも注意が必要である。
トルコ金融市場の混乱が収まらない(注1)。背景には、現金確保を目的とする投資信託による株式の売却圧力が強まっていることがある。トルコでは、2023年に財務相に返り咲きを果たしたシムシェキ氏の下で、国内貯蓄をリラ建て資産にとどめる取り組みが進められてきた。具体的には、2021年にリラ相場が急落した際に導入された為替保護型預金(KKM:リラ安による為替下落率が預金金利を上回った場合、その差額を政府・中銀が補填する制度)を廃止し、通常のリラ建て預金への移行を促進した。そのうえで、株式や投資信託などにも資金を誘導する姿勢をみせた。
同国では長らく高金利状態が続いてきたなか、企業部門に対して借り入れではなく、株式市場を活用して資金調達することを政府は推奨してきた。その結果、浮動株比率が低い企業が数多く上場することとなった。こうした銘柄は市場で売買可能な株式数が限られるため株価が大きく変動しやすく、価格形成に歪みが生じる事態となった。さらに、その後の投資ブームを追い風に投資信託が急拡大したことで、投資家にとっては株式投資の間口が広がる一方、リスクの集中が懸念される事態を招いた。具体的には、投資信託に組み入れられている比較的流動性が低い銘柄への資金流入が活発化し、株価上昇に伴い運用収益が向上した結果、新たな資金流入を生む循環が形成された。
しかし、これによりリスクの集中や価格形成の歪み、市場操作の懸念が高まった。このため、規制機関である資本市場委員会(SPK)は8月、投資信託の純資産に対する組入比率、発行済株式数に対する保有割合など保有ポジションの上限を厳格化し、2026年末までに超過分の解消を義務付ける規制変更を発表した。具体的には、10月末までに超過分の3分の1、11月末までに3分の2、12月末までに完全解消を求めている。その結果、株価を押し上げてきた資金流入の循環が逆回転し、株価下落により投資信託の解約請求が膨らんだ。さらに、複数の資産運用会社が投資家による解約請求に応じられないと発表する事態に発展した。流動性の低い保有資産の売却が困難になるなか、現金確保を目的に流動性の高い銘柄に売却圧力が強まり、結果的に市場全体に売り圧力が広がっている(図1)。

金融市場の混乱を受けて、中銀は、流動性確保を目的とするレポ資金の供給額引き上げのほか、銀行間資金市場における銀行の借入限度額も大幅に引き上げた。SPKも、複数の投資信託取引の停止、清算を命じるとともに、関係者を刑事告発するなど早期の事態収束を目指す動きをみせている。なお、トルコでは2022年から翌23年にかけても同様の動きがみられた。
こうしたなか、金融市場では中銀の政策対応に注目が集まっている。9月のインフレ率は前年比+29.73%となり、2021年11月以来となる30%を下回る伸びとなったほか、コアインフレ率も前年比+28.70%に鈍化している(図2)。食料品やエネルギーなど生活必需品を中心に物価上昇が続く一方、サービス物価で鈍化の動きが強まるなど、ディスインフレ基調が続いていることが確認されている。こうした動きを受けて、中銀のカラハン総裁は先行きのインフレについて、供給サイドの上昇圧力が和らげばディスインフレのペースが加速するとの見通しを示した。その一方、引き締め的な金融政策を継続することが重要との考えをみせている。

しかし、金融市場においては、インフレ鈍化を受けた利下げ観測がリラ相場の下押し圧力となっている(図3)。通常であれば、中銀による利下げ観測は株式市場にとって追い風になることが期待されるものの、前述のように逆風が止む気配はない展開が続いている。株式市場に対する信認低下を受けて、家計部門の貯蓄が再び外貨や金にシフトしている可能性がある。一部の資産運用会社は傘下にノンバンクを有しており、金融不安が長期化し、規制強化の動きが広がれば、資金供給が制約されて住宅や自動車などの需要に悪影響を与えるなど実体経済を下押しすることも考えられる。実体経済への悪影響が顕在化すれば、シムシェキ財務相が主導する経済運営への批判が強まり、同氏を支持してきたエルドアン大統領が態度を変化させるリスクにも注意が必要であろう。

注1 9月24日付レポート「トルコ株の混乱が映す「リラ建て資産誘導」の副作用」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

